Posted in 日本語版リリース

いくら入札してもいいオークションゲーム『Q.E.』日本語版、10月上旬発売

サニーバードは10月上旬、『Q.E.(キューイー)』日本語版を発売する。ゲームデザイン・G.バーンバウム、アートワーク・A.ガヴリル、3~5人用、14歳以上、30分、5280円(税込)。本日から予約開始。

オリジナルはボードゲームテーブルズ(アメリカ)からキックスターターを経て2019年に発売された作品。ゴールデンギーク賞イノベーティブ部門ノミネート。日本語訳つき輸入版が国内流通し、「いくら入札してもいいオークションゲーム」として愛好者の間で話題となっていた。タイトルは「量的緩和(Quantitative Easing)』の略語で、一国の宰相となって、経済破綻の危機に瀕した巨大企業に公金をじゃぶじゃぶ注ぎ込む。

毎ラウンド企業タイルが公開され、1人のプレイヤー(競売人)が入札額をタイルに記入して公開し、他のプレイヤーはそれを見て自分の入札額を決め、競売人に渡す。最高額のプレイヤーが落札するが、入札額は非公開となる。ただしゼロ入札は公開され、勝利点を得る。

これを繰り返して企業タイルがなくなったらゲーム終了。落札した企業タイルで勝利点を計算するが、落札額の合計が最も多いプレイヤーは脱落してしまう。

入札額は正の整数であればいくらでもよいところがポイントで、99でも99億でもいい。落札額は非公開ながら、競売人になったときと、自分が落札したときに知ることができるので、徐々に相場観がつかめてくる。桁外れのインフレになることも多く、入札額を見て思わず吹き出してしまうことも。笑いの絶えないオークションゲームだ。

サニーバード:Q.E.日本語版


(写真は英語版)

Posted in 翻訳記事

ボードゲームとその先にあるインクルージョン、ダイバーシティ、リプレゼンテーション

エリザベス・ハーグレイブ(『ウイングスパン』の作者)、2020年7月23日(ストンマイヤーゲームズのブログより、ハーグレイブ氏の許可を得て翻訳公開)

少し前に、ボードゲームデザイナーのエリック・ラング氏が、不平等について非常に率直な意見をツイートしていた。それに対するコメントにパターンがあることに私は気づいた。私たちの誰かが何らかの形で発言するたびに、

「ボードゲームで女性や、有色人種、LGBT+であることはたいへんだ」

と言うのだ。これに対してこんなことを言う人もいる。

「そんなことはありえない。ゲーマーや出版社が実際に性差別・人種差別・同性愛嫌悪をしているのを見たことがない」

これを分析してみよう。

まず、あなたが見たことがないからといって、起こったことがないわけではない。どんなにおかしなことでも、友達の自分の身に起こった話ならば、「そんなことはありえない!」とは思わないだろう。自宅のプールで近所の人が裸で泳いだという話のように、一緒に驚くしかない。

だから他のゲーマーが言う通り、あからさまに意図的な性差別・人種差別・同性愛嫌悪が、ボードゲーム業界で実際に起こっていると信じてほしい。目撃したら声を上げるのにかなりの勇気がいるような、明らかに悪質な行為だ。みんながこのようなものを見たわけではないが、周りの人に聞いてみると、とんでもない話を聞くことがあるかもしれない。

人によっては、このような本当に醜い発言や行為が性差別・人種差別・同性愛嫌悪の定義にあてはまることもある。

しかし皆さん、本当にひどいのは、私が「たいへんだ」と言うときに思っているようなものでさえない。

同様に、ボードゲームデザイナーに圧倒的に白人男性が多いことを私はかなり頻繁に指摘している。このグラフがそれをよく表していて、2018年時点でのBGGのトップ200ゲームのうち、デザイナーの94%が白人男性だった。

この統計をシェアすると、私が「出版社が女性や有色人種を採用していないのは、明らかな差別だ」と言っていると思う人が必ずいる。

一部の出版社はこのようなことをしているのかもしれない。

しかし、多くのゲームナイトで、ひどく醜い人種差別が毎週のように語られているとは思えないのと同様、この統計の極端な偏りは、出版社による明らかな差別によるものだという説明が適しているとは思えない。

では、私が「たいへんだ」と言っているのはどういうことだろうか?

1. ゲームナイト
「典型的なボードゲーマー」と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか?

ボードゲームの趣味は多様化しているが、まだまだ途上段階である。あなたがたくさんのオープンゲームイベントに参加したことがあるとして、ほとんどの人が異性愛・性同一でなく、お金を溶かすような白人でないイベントだとしたら異常事態だ。つまり、ジェンコンのこの写真を見てほしい。

もし誰かがボードゲームのイベントに参加して、みんなの「典型的なボードゲーマー」のイメージに合わなかったらどうなるだろう?

確実に、人々は私たちの居場所がないと思うようになる。

みんなは私たちに何をしたらいいかわからないので、じっと見つめたり、無視したりする。そのつもりでここにいるわけではないと確信して、「隣の店を探しているのか」と尋ねられるかもしれない。
女性は口説かれる。しかも何度も何度も。まるで、私たちがここに来た唯一の理由が、恋人を見つけることだったかのように。あるいは、男性と一緒に来た場合、まるでその男性と何時間も愛情を込めて見つめあうつもりでもあるかのように、完全に無視されることもある。
トランスジェンダーの人たちは、間違ったジェンダーで呼ばれる。LGBQの人たちは、自分たちが異性愛者だと思い込まされる。
何とかゲームをできたとしても、何もわからない人のように扱われることが多い。どうやって手番を行うかをわざわざ教え、私たちが勝つとショックを受けて不信感を示す。
それは意図的なものではないかもしれないが、すべてにショックを受ける。

このような「どうしようもなく不親切」な空間では、「ひどく受け入れがたい」ことがまだ起こっていない可能性があるという感覚から逃れられない人がいる。私の場合、女性がいない状況がほとんどなのは本当に気持ち悪い。だから、私の脳は何が起こるのかと考える。ここで何かが起きて、女性が全員去ってしまい、二度と戻ってこないのではないか?

こんな気持ちを書くたびに、「そのまま押し通せないの? 悪意はないよ」と言われた。

普通は押し通せるし、社会的に疎外されたグループのゲーマーであなたが出会った人は、きっと押し通してきただろう。しかし、それは疲れることでもある。

多くの人が仕事で一日中、同じような方法で押し通していることを忘れないでほしい。そして、趣味でも押し通すことをあなたは望んでいるのだ。

それでは楽しくない。

2. ゲーム
そのつもりではないだろうが、全く歓迎されないゲームグループと同じように、ボードゲーム自体にも同じような感情を抱くことがある。

2018年時点でのBGGのトップ100ゲームで、ボックスアートに描かれているすべての人物を数え上げると、46%が明らかに白人男性、20%が動物や宇宙人、そして残りの3分の1をその他の人々が占めている。

しかし、カバーは端的に中身を表している。

ゲームに女性や有色人種が登場する場合、どのくらいリスペクトや主体性を持って描かれているだろうか?
ゲーム内に恋愛関係がある場合、それが男女でないことはどれくらいあるだろうか?
ルールの中で、すべてのプレイヤーが「彼」よりも包括的な表現で呼ばれることはどれくらいあるだろうか?
私たちの多くにとって、このような表現の欠如は、「ああ、あなたがここにいるとは思わなかった」という別の意味を持つことになる。それぞれのゲームの欠点は小さくて理解できるかもしれないが、それが積み重なって大きな疲れさせるパターンになってしまう。

このように私たちは押し通しているのだ。

3. ロールモデル
ゲームイベントやゲームをプレイするたびに、微妙に自分の居場所がないように感じてしまうのであれば、この世界に尊敬できる人、自分の居場所を感じさせてくれる人がいるかどうかで、大きな違いが出てくる。

社会から疎外された多くのグループにとって、ボードゲームには確かにロールモデルが存在する。たくさんではないが、意外に多いかもしれない。だから私は自分のウェブサイトでリストを作っている。私が数少ない女性ゲームデザイナーの一人だと言う人たちにうんざりして、結局200人以上を見つけた。数週間前には、ボードゲーム業界の黒人についても同様のリストを作成した。

デザイナーやレビュアー、出版社の名前を挙げられるなら、それらのカテゴリーに属する白人の名前を思い浮かべるのに苦労する人はいないだろう。ほとんどのボードゲームメディアは彼らで溢れている。

私が最初に女性デザイナーのリストを作ったのは、ポッドキャスターなどのメディアの人たちが女性についての報道を改善したいと思ったときに、資料にするためだった。しかしそれで気づいたのは、これほど多くのボードゲーム業界の女性をリストアップすることが、私にとって非常に意味のあることだったことだ。先日、インタビューでその話をしたときには、思わず声が詰まってしまった。

このような記事に「ボードゲームデザイナーの性別や人種は気にしない」というコメントがあるが、女性や子持ちの10人くらいの方から、箱に書かれた私の名前だけでも、どれだけ『ウイングスパン』が重要か伝えたいと言われた。

それは重要である。

4. 人生
あまり語られていないが、ゲーマーやゲームデザイナーになりやすい人とそうでない人がいるのは、人生の他の要素による。白人男性は少なくとも米国では、他のグループに比べて、平均して余暇時間・資産・収入が多い。ゲームやゲームデザインはお金と時間のかかる趣味であり、この趣味で疎外されている層は、すでに時間的・経済的な障壁に直面している可能性も高い。

米国の平均的な女性は、毎日、家事育児に男性よりも1時間以上多く費やし、余暇活動は40分少ない(訳注:日本はもっと差が大きい)。自分がゲームナイトに行っている間、妻に子供を任せている男性をたくさん知っている。イライラするが、この状況を如実に反映している。

平均すると、白人世帯(7万1000ドル)は黒人(4万2000ドル)やヒスパニック系世帯(5万1000ドル)に比べて収入が圧倒的に高く、全体では8〜10倍の資産を持っている。またどの人種でも、女性の収入は男性よりも少ない。これらの差が、多くのゲームに反映されている。またデザイナーで言えば、自分のゲームを出版社に売り込むためにイベントに何度も足を運ばなければならない。

確かに、白人男性ゲーマーの中には貧しい人もいるし、子供をパートナーに預けてまではゲームをしない人もいる。彼らはイベントに参加するのも大変だ。しかし、だからといって統計を無視できるわけではない。

結論
私はゲームすることが誰にとっても素晴らしいものであってほしい。
多様なバックグラウンドを持った人たちがデザインした、より面白いゲームをプレイしたい。
ゲーム業界が大きく成長してほしい。
以上の3つは密接な関係にあると信じている。

Original Text: “Inclusion, Diversity, and Representation in Board Games and Beyond (guest post by Elizabeth Hargrave)

※インクルージョン(Inclusion):社会的包摂。性別・人種・民族・国籍・社会的地位・障害の有無など、持っている属性によって排除されることなく生活することができる状態。ボードゲーム業界で黒人や女性が排除されないこと。
※ダイバーシティ(Diversity):多様性。人種、性別、年齢、宗教などにこだわらずに多様な人材が企業や社会で活躍できること。インクルージョンとセットで語られることも多い。ボードゲーム業界が白人男性一色にならないこと。
※リプレゼンテーション(Representation):(社会的)表象。ある共同体において共有され、行動やコミュニケーションのもととなっている価値観・アイデア・実践などのシステム。「ボードゲームは白人男性が遊ぶもの」というステレオタイプ。