マルチプレイヤーズゲーム
「マルチゲーム」「マルチプレイヤーゲーム」「マルチプレイヤーズゲーム」という言葉は、トップ叩きでバランスを取るゲーム=直接攻撃のあるゲームという意味で使われることがある。ネガティブなニュアンスを伴うこともあるようだ。
今では余り使う人はいないが、ゲームを形容する時「地政学マルチ」「戦略マルチ」「マルチっぽい」などと評する人がまだ少なからずいる。自分は得にならないのに邪魔をする「お仕事」や、最後に下位プレイヤーの選択で1位が決まってしまう「キングメーカー」も、この手のゲームの性質上起こるものだ。
多人数という意味しかないはずの「マルチ」が、トップ叩きでバランスを取るゲームを指すのはどういった経緯なのだろう。
「マルチ」といえば『榊涼介/林正之のマルチプレイ三昧』。まえがきで榊氏は、かつて(ウォー)シミュレーションゲームにはまっていたことを表明している。そしてこの本が「マルチプレイヤーズ・ゲーム」を紹介するものであると述べているが、中身はウォーシミュレーションゲームもTRPGも含まれていない。ウォーシミュレーションゲームの多くが2人用であるのに対して、3人以上(マルチ)で遊ぶもの、そしてTRPGが協力的であるのに対して、イーブンな立場で競争するものをマルチプレイヤーズ・ゲームと呼んでいるようだ。
この本はTRPG誌『電撃アドベンチャーズ』(1994〜1998年)の連載をまとめたもので、最後に紹介されている『カタンの開拓者たち』が最新作という時代である。紹介されている13タイトルのうち、ドイツゲームは9タイトル。残りの4タイトルは『モノポリー』『ファミリービジネス』『フンタ』『ニューアクワイア』。特に『ファミリービジネス』『フンタ』は理不尽なまでの直接攻撃が命のゲームである。
カタン以後、ドイツゲームは多人数陣取りやアクションポイント制でどんどんシステマチックになり、直接攻撃色が急速に薄まっていった。これらのシステムでは自分の手を伸ばした結果、特定の誰かを邪魔することはあっても、任意のプレイヤーを選んで意図的に攻撃するという選択肢は少ない。
さらに現在には、ワーカープレイスメントやデッキ構築の台頭によって、直接攻撃でないインタラクションすら薄まっている。こうして現在では、『カタンの開拓者たち』の盗賊ですら、気まずいと感じる人もいるようだ。
「マルチプレイヤーズゲーム」は、80〜90年代前半に今のいわゆる「ボードゲーム(カードゲームを含む)」を指していた呼称で、当時のプレイヤー依存型のゲームデザインを大きく反映している。当時はニュートラルな呼称だったが、その後、インタラクションの薄いゲームが好まれるようになるにつれ、直接攻撃でバランスを取る前時代的なゲームという意味で用いられるようになったというのではないだろうか。そして、時代の流れと共に死語になりつつあるようである。
でも以前からの愛好者には、こういったゲームも好きだという人が少なくない。一種のコミュニケーションゲームとして考えたらどうだろう。トップでもないのに理不尽に叩いたりするのは、対人ならではの出来事である。そこでイジケないで、全員で楽しみを共有できる方向に持っていけたら素晴らしい。もっとも、最近はなかなか『ディプロマシー』のような濃いマルチゲームはあまり作られていないようだが。
実を言うと(Truth be Told)
知らなかった人となりが明らかに
コミュニケーションゲームは多かれ少なかれ、プレイヤーのキャラクターをゲームの一部に組み込んでいるものだが、『私の世界の見方』や『ディクシット』のように、プレイヤーの発想を楽しむものが大半である。フラッシュ系、大喜利系、お絵描き系もこの下位分類と言えるだろう。
これとは別に、プレイヤーそのものをいじるゲームもある。『プライバシー』や、先日紹介した『ろくでなし』や、このゲームがそうである。プライバシーを多分に含む現実にリンクしており、リアルでの付き合いが深ければ深いほど楽しくなる。
「実を言うと、私の○○は他人が羨む」「実を言うと、私は○○に罪悪感を抱く」「実を言うと、私は○○をやめたことを後悔している」……なかなか答えにくいプライベートなお題が出され、みんなが書いた答えの中から、親の答えを当てるというゲームである。まず親が答えを書いて、その後みんなが答えを書き親に渡す。親は答えを見て、かぶっている答えがあれば書いた人に返し書きなおしてもらう。これを繰り返して、全員の答えが別になったら読み上げ。
読み上げられた答えを聞いて、みんなはどれが本当の親の答えだったかを予想。当たれば親と子の両方の得点になり、外れればその答えを書いた人の得点になる。親になりすまして、親らしい答えを書くのがポイント。そこに親が「え、オレってそんな風に見られてたの…?」と思う楽しさがある。親は正直に答えることになっているが、皆が自分をどう見ているかということも加味したほうがよい。
ぽちょむきんすたーさんが的確な読みで1位。このゲームから、知らなかったエピソードや、新しい人物像が紡ぎ出され、人を見る目が少し変わった(もちろん、いい意味で)。
Truth be Told
作者不明/バッファローゲームズ(2009年)
3〜8人用/12歳以上/35分
Amazon.com: Truth be Told Game