Posted in エッセイ

ボードゲームにおけるタブー破り

ドイツのボードゲームデザイナー、A.マイヤーは”Spiele entwickeln(ボードゲーム開発)2010“において、「ボードゲームの中のタブーとタブー破り」と題する寄稿を行っている。タブー(禁忌)の原義から説き起こして、社会学のアンケート結果、芸術・文学・映画におけるタブー破りの例へと進み、ボードゲームにおけるタブー破りを論じる。傷つく人ができるだけ少ない「害のない」タブーを取り上げることが望ましいが、完全に害がないタブーはタブーではない。実際は境界線にあるタブーがボードゲームで取り上げられる。
『グラス(Grass)』:麻薬密売人となってお金を儲けるゲーム
『むかつく友達、行きたくないパーティ(Fiese Freunde, Fettee Feten)』:同性愛が「普通」の選択で、カミングアウトすることがゲームの目的となる
『プロジェクト・ポルノスター(Project Pornstar)』:ポルノ映画の監督となって、仕事上の困難と闘う
『フレッシュミート(Frischfreisch)』:食料の少ない島で、ほかの人を食料にしながら救助を待つ
『三戒(Die 3 Gebote)』:みんなが神官となり、どんなに無意味なものでも掟にする
死・殺人・テロはコミックに描かれることでボードゲームに用いられているという。
『キャッシュ&ガンズ(Cash’n Gans)』:銃口をお互いに向け合って、上手にかわすことで生き残ることを目指す
『スーサイドボンバー(The Suicide Bomber Card Game)』:罪のない人をテロで大量殺人する
『レッツキル(Let’s Kill)』残虐に殺すことだけが目的で、たくさん殺せば殺すほど得点になる
さらに歴史的な殺人をテーマにしたゲームが挙げられる。
『ギロチン(Guillotine)』:処刑による殺人が手段でもあり目的。タイミングによって得点が増える
『ヘッズ・オブ・ステート(Heads of State)』:ゲームの中での処刑による殺人。ゲームが進む上で不可欠なもの
『ミスタージャック(Mr. Jack)』:連続殺人をもとにした推理ゲーム。殺人はゲームに出てこない
『ウォー・オン・テラー(War on Terror)』:ゲーム中に虐殺やテロが登場
結論としてマイヤーは、「イノベーションは境界線を超えることで起こることが多い」というコンラートの言葉を引用し、タブー破りがイノベーションにつながる可能性を説いている。
以上はゲームデザインからの視点であるが、遊ぶ側にとっても、タブーを破ったテーマはひとつの楽しみになるだろう。一昨日は『プゥー』、昨日は『プライバシー激辛』を取り上げたが、普段は触れることが憚られるテーマにボードゲームを通して触れることは、解放された気分になれる。
タブーを破るゲームといえば、同人作品だが、オウム真理教をテーマにした『ナンバー2』や、のし袋を手探りする『ほんのきもちです』をすぐに思い出す。考えてみればタブーは文化に依存するものだから、国産のほうが期待できるだろう。上記の例は全てマイヤーが挙げたものだが、ほかにもたくさんあると思うので探してみよう(こんなのはどう?というのがあったらツイートかコメントでどうぞ)。

Posted in は行

プライバシー激辛(Privacy – Scharf wie Chili)

抑圧された自分を解放

性的な趣味、隠したい過去、配偶者への本音―公言がはばかられることを聞いて、イエスと答えた人数を予想するコミュニケーションゲームの第3弾。今度は小箱になり、タイトルのとおり質問が過激になっている。旅行先で開放的な気分になったところで遊ぶ用に作られているのだろう。
「右どなりに座っている人の口に今ここでキスしたい」「自分のペニス/ヴァギナに秘密の名前を付けている」「リビングのテーブルの上でセックスしたことがある」「誰かを犯す/犯される妄想をよくする」……こんな問題が出される。手元からイエス/ノーのチップを裏にして出してこっそり回答。誰が何の回答だったか分からないようにする代わり、正直に答えなければならない。
次に手元のカードで、全体で何人がイエスだったかを予想。回答チップを箱の中でよく混ぜてオープンし、予想が正解だった人、1つ違いだった人に得点が与えられる。1人だけイエス、1人だけノーだった場合は、回答者が特定されるのを防ぐため、1つ違いだった人のみ公開して得点する。
問題のほとんどは下ネタか、配偶者・恋人への本音を問うもの。作者のシュタウペは、ずっとこんな問題を考えているのかと思うと相当の変態である。出題はランダムに決まるのがルールだが、参加者に合わせて傾向を変える必要がありそうだ。今回は未婚の男性がほとんどだったので最初から最後まで下ネタ全開。規定ポイントが多くて後半はだれてしまったので、ポイントを少し少なくしてもよいかもしれない。
Privacy – Scharf wie Chili
R.シュタウペ/アミーゴ(2010年)
5〜12人用/16歳以上/60分
国内未発売