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小樽開墾で名声を競う『Otaru 1899』10月1日発売

otaru1899うちばこやは10月1日、『Otaru -1899-』を発売する。ゲームデザイン・ゲームデザイン:Takeo Yamada、アートワーク:浅野竜希、ボックスイラスト:ウラベロシナンテ、2人用、12歳以上、60分、6600円(税込)。現在、下記サイトで登録人数によってグレードアップする特典付きの先行販売予約受付中。

昨年7月に発売された2人用ゲーム『Sapporo -1876-』の続編。1890年代の北海道・小樽を舞台に、地方藩士となって氏族の名声のため農地を開墾し事業を拡大する。

手番にはメインボード上の4種類のアクションのうち、1つを実行します。相手も同じアクションを行えるため、いかに自分だけ得をするタイミングを見極めなければならない。またゲームには4種類の資源があり、アクションによって資源の価値が異なる。どの資源がどのくらい必要か、先を見通す力が求められる。

アクションを規定回数行うと、収穫や決算といったイベントが発生しイベントが5回起こるとゲーム終了となり、合計得点で勝者を決める。

プリントされた木駒、ダブルレイヤーボードなどコンポーネントも気合十分。さらに『Sapporo 1876』と組み合わせることにより最大4人で一緒に遊べる「北海道開拓使ルール」も入って楽しみ方の幅が広がる。

うちばこや:Otaru -1899-

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ボードゲームのメカニクスと社会

(月報司法書士2023年7月号掲載)

game-mechanics-taizenゲームメカニクスで実社会を捉えてみる

筆者が翻訳した『ゲームメカニクス大全―ボードゲームに学ぶ「おもしろさ」の仕掛け』(著・G.エンゲルステーン&I.シャレブ/翔泳社)の第2版が発売された。ボードゲームのデザイン方法について203項目に分類・考察したもので、読み物というよりは辞典といったほうがよい。日本には同人(アマチュア)のボードゲーム作家が相当数いるものの、4000円以上もする技術専門書がこれほど売れるとは思っていなかった。デジタルゲーム業界や、大学のゲーム研究者などからも注目された模様だ。

この書籍は、ボードゲーム作家が新しい作品を作るときに参照したり、ボードゲーム愛好者が自分のお気に入りを分析したりするためのものである。専門用語が多く、ボードゲームの文脈でしか通用しないものも多いが、本稿ではいくつかピックアップして実社会での応用を考えてみたい。仕事や家事をひとつのゲームと捉えると、楽しく創造的に取り組むことができる。

協力ゲームとしての仕事や家事

「協力ゲーム」は、共通の目標を達成できたら全員の勝利、達成できなければ全員の敗北となるメカニクスである。実社会の仕事や家事なども、複数で行う場合は「業務の達成」や「健康的な生活」など共通の目標を目指して行われるので、協力ゲームと捉えられる。みんなが同じチームの仲間であり、お互いに助け合うことでより高い目標を達成できるが、一部の人(上司など)が仕切りすぎてしまい、その他の人が言いなりになってしまうという問題(「奉行問題」)も起こりがちだ。会議で特定の人ばかり発言して、他の人は思ったことも言えないまま物事が決まっていくのは多くの人が経験しているのではないだろうか。

このような問題を防ぐため、会議だったら「一人あたり発言時間を制限する」「全員に発言の機会を与える」「小グループで話し合ってから意見を集約する」というようなちょっとしたルールを作る。家事においても「指示を受けて手伝う」という意識をなくし、「ワンオペにしない・させない」といったルールによって、チームメンバーの主体的な参加を促せるだろう。ただし「心理的安全性」(失敗しても怒られない雰囲気)の確保が前提となる。

公平な順番の決め方

仕事や家事の当番、会議の発言順序、品物の分配など、「順番を決める」ということを私たちは日常的に行っているが、その決め方が公平なものであるかどうか考えてみよう。早い者勝ち(先に選んだほうが得)が多いが、中には「後出しジャンケン」のように、相手の動向を見てから動いたほうが得な「遅い者勝ち」もある。先に(後から)選ぶほうが得だとわかっているとき、どうやって順番を決めたらよいのだろうか。

ジャンケンやくじ引きで決めるというのもひとつの公平な方法であるが、ほかにも「以前に後だった人が優先(「進行式」)」「ビハインドのある人が優先(「状況式」)」「お先にどうぞと自分の番を辞退してよい(「パス式」)」といった方法もある。会議ならば発言する順番を1人ずつずらすことで、最初に発言する緊張や、思っていることを先に言われてしまう恐れなどを平準化できる。家事においてはメンバーが少ないこともあって当番が固定的になりがちだが、負担の大きいことが誰かに集中しないよう、「夕食を作れないならば朝食を作る」「でも仕事が早く終わったら夕食も作る」など、当番を適宜変えることで不満を和らげられる。

不確実性を緩和する

『人生ゲーム』はルーレットだけで億万長者にも借金だらけにもなってしまうが、私たちの人生も同じであってはたまらない。確かに運の良し悪しはあるとしても、それをどれくらいコントロールできるかが幸福な生活にかかってくる。ハイリスク・ハイリターンでいくか、ローリスク・ローリターンでいくかという選択だけでなく、運良くうまく行ったときに、そこでやめるか、さらに続けるかという選択(「プッシュ・ユア・ラック」)をその都度できることが望ましい。失敗を恐れて何もしないのでは得るものもないし、かといって無謀では折角得たものも失ってしまう。

不確実性は、良いことも悪いことも含めて、仕事でも家事でもつきまとう。できるだけ運に左右されないで安定した毎日を送るには、「過去にあったことをよく覚えておく(「メモリー」)」「他の人の状況や気持ちを読んで行動する(「隠し役割」)」「確率が良くなるように操作する(「確率管理」)」という戦略が有効である。さらにこの戦略をチームで共有すればもっと効果が増す。人生というゲームをデザインして、チャンスを逃さないようにするのである。

最後に勝利すること

ゲームには勝敗がつきものだが、現実では「他人に勝つこと」というよりも、「目標の達成/不達成」と言い換えることができる。そこにはお金など一時的なもの、名声や信用など永続的なもの、公開されるものとされないもの、先に手に入るものと最後に手に入るもの(「終了時ボーナス」)がある。どうしても目先の利益ばかり求めてしまいがちだが、慌てて取っても少なかったり、やがて消失してしまったり、他の人から目をつけられて足を引っ張られたりするかもしれない。

「ウサギとカメ」のウサギのように油断することなく、「果報は寝て待て」「損して得取れ」「最後に笑うものが最もよく笑う(イギリスのことわざ)」を意識して、地道にコツコツと積み上げていくことが大きな勝利を導く。

ルールは何のため?

ゲームルールや法律は、守らない人にペナルティを与え、社会を窮屈にするためのものではない。公平性が保たれた環境で、ベストパフォーマンスを考えて行動する創造性と楽しさを生み出し、明るい未来を実現するものなのだ。『ゲームメカニクス大全』の序文で、ニューヨーク大学のジマーマン教授は次のように述べている。

議論で2つの立場がはっきり対立しているとき、どのように解決できるか? 複数の候補者がいる選挙で、当選者をどのように決定するべきか? どのような経済的インセンティブがあれば富の分配が一番うまくできるか? すべての人に公平性を保証する正しい方法は何か? これらは現代社会のジレンマであり、ゲームデザイナーが日常的に取り組む問題でもある。信じられないかもしれないが、このようなとても大切な問題への答えは、本書の構成にあるような構造を見ることで見つかるかもしれない。