Posted in さ行 シュピール11

十字軍の王国(The Kingdoms of Crusaders)

1本の剣が勝敗を分ける
十字軍の王国
ロシアのライトゲームズが英語版を制作したカードゲームは、『エボリューション:種の起源』など4タイトルがある。その1つがこの『十字軍の王国』。美麗なカードを使った2人用カードゲームである。
2人は向い合って5つのエリアにカードを出し、相手より強い役を作ることを目指す。『バトルライン』のようなゲームだが、もっと直感的だ。カードには槍、弓、剣、ヘルメット、旗の5つのマークがいろいろな組み合わせでついており、同じマークが揃えば揃うほど強い。
各エリアには4枚ずつ、合計20枚出した時点でゲーム終了。エリアごとに、同じマークがいくつ揃っているかを比べる。4つ揃ったマークの数が多い方、同じならマークの強い方、また同じなら3つ揃ったマークの数が多い方、またまた同じならマークの強い方……というように比べていく。
これだけだが、駆け引きは熱い。相手の出したカードと、自分の手札を見比べながら、1枚1枚、どのエリアに置くか悩む。ときには1エリアを諦めて不要なカードを捨てる場にするのも必要だが、それを相手に悟られないよう、勝つ気を見せたカード配置をしなくてはならない。
康さんと1戦。カードの引きもよくて3対2で辛勝。ライトではあるが、1枚を置くタイミングが勝敗を分けるシビアなゲームだった。2セット買えば、4人まで遊べるという。
The Kingdoms of Crusaders
D.ゴリノフ、S.マーチン/ライトゲームズ(2007年)
2人用/12歳以上/30分
Right Games: The Kingdoms of Crusaders

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マルチプレイヤーズゲーム

「マルチゲーム」「マルチプレイヤーゲーム」「マルチプレイヤーズゲーム」という言葉は、トップ叩きでバランスを取るゲーム=直接攻撃のあるゲームという意味で使われることがある。ネガティブなニュアンスを伴うこともあるようだ。

今では余り使う人はいないが、ゲームを形容する時「地政学マルチ」「戦略マルチ」「マルチっぽい」などと評する人がまだ少なからずいる。自分は得にならないのに邪魔をする「お仕事」や、最後に下位プレイヤーの選択で1位が決まってしまう「キングメーカー」も、この手のゲームの性質上起こるものだ。

多人数という意味しかないはずの「マルチ」が、トップ叩きでバランスを取るゲームを指すのはどういった経緯なのだろう。

「マルチ」といえば『榊涼介/林正之のマルチプレイ三昧』。まえがきで榊氏は、かつて(ウォー)シミュレーションゲームにはまっていたことを表明している。そしてこの本が「マルチプレイヤーズ・ゲーム」を紹介するものであると述べているが、中身はウォーシミュレーションゲームもTRPGも含まれていない。ウォーシミュレーションゲームの多くが2人用であるのに対して、3人以上(マルチ)で遊ぶもの、そしてTRPGが協力的であるのに対して、イーブンな立場で競争するものをマルチプレイヤーズ・ゲームと呼んでいるようだ。

この本はTRPG誌『電撃アドベンチャーズ』(1994〜1998年)の連載をまとめたもので、最後に紹介されている『カタンの開拓者たち』が最新作という時代である。紹介されている13タイトルのうち、ドイツゲームは9タイトル。残りの4タイトルは『モノポリー』『ファミリービジネス』『フンタ』『ニューアクワイア』。特に『ファミリービジネス』『フンタ』は理不尽なまでの直接攻撃が命のゲームである。

カタン以後、ドイツゲームは多人数陣取りやアクションポイント制でどんどんシステマチックになり、直接攻撃色が急速に薄まっていった。これらのシステムでは自分の手を伸ばした結果、特定の誰かを邪魔することはあっても、任意のプレイヤーを選んで意図的に攻撃するという選択肢は少ない。

さらに現在には、ワーカープレイスメントやデッキ構築の台頭によって、直接攻撃でないインタラクションすら薄まっている。こうして現在では、『カタンの開拓者たち』の盗賊ですら、気まずいと感じる人もいるようだ。

「マルチプレイヤーズゲーム」は、80〜90年代前半に今のいわゆる「ボードゲーム(カードゲームを含む)」を指していた呼称で、当時のプレイヤー依存型のゲームデザインを大きく反映している。当時はニュートラルな呼称だったが、その後、インタラクションの薄いゲームが好まれるようになるにつれ、直接攻撃でバランスを取る前時代的なゲームという意味で用いられるようになったというのではないだろうか。そして、時代の流れと共に死語になりつつあるようである。

でも以前からの愛好者には、こういったゲームも好きだという人が少なくない。一種のコミュニケーションゲームとして考えたらどうだろう。トップでもないのに理不尽に叩いたりするのは、対人ならではの出来事である。そこでイジケないで、全員で楽しみを共有できる方向に持っていけたら素晴らしい。もっとも、最近はなかなか『ディプロマシー』のような濃いマルチゲームはあまり作られていないようだが。