ケルトダイス(Keltis – Das Würfelspiel)
2008年のドイツ年間ゲーム大賞受賞作『ケルト』は、さまざまな派生作品を生み出した。追加ボード、カードゲーム、タイルが翌年、オラクルが翌々年、そして1年おいてダイスゲームである。作者のクニツィアはこうした派生作品が得意で、『インジーニアス』(2004年)は2人用トラベル版、パズル、ジュニア、タイル(ゲニアール)、カードゲーム、スペシャルと来て今年ダイスゲームが発売された。
『ズーロレット』もダイスゲームが今年発売されている。『カルカソンヌ』がダイスゲームになったのは昨年だが、これまでダイスが好まれなかった(ドイツ年間ゲーム大賞でダイスを使うゲームが選ばれるのは4回に1回、ドイツゲーム賞では10回に1回ほどである)ドイツで、今になってダイスゲームが流行っているのは面白い。
5個のダイスを振り、1種類だけ選んでその目のコマを進める。振り直しは1回まで。うまくいけば、最大5マス進めるわけだが、そううまくはいかない。進めたくない事情もあって、1マスしか進めないことも少なくない。
進めたくない事情とは、『ケルト』の基本システム「何マス目かまではマイナスで、スタートしないほうが得」にある。コマは最大4個出せるが、終盤ではスタートしないほうがよいかもしれない。たくさん目が出たが、今スタートして大丈夫か? 大いに迷う。
さらに裏面の上級ルールでは、入れないマスがある。このマスの手前まで行ったら、一気にダイスを2、3個揃えて飛び越えなければならない。ダイスを振る手にも力が入る。
「願いの石」タイルも健在。願いの石の目2つにつき1枚を獲得できる。これも少ないと失点になってしまうので、どの時点で手に入れるか考えておかなくてはならない。
1ゲームは10分ほど。ダイスを振る楽しさに加えて考えるところもあり、これがあれば『ケルト』はいらないのではと思うほどの出来のよさである。もっともいくら考えても、ダイス運がよすぎて圧勝とか、逆に惨敗という展開も十分あるけれども。どんなゲーム展開だったかは、下記のリンクをご覧ください。
Keltis – Das Würfelspiel
R.クニツィア/コスモス(2012年)
2〜4人用/8歳以上/20分
・ふうかのボードゲーム日記:ケルトダイス
ルール和訳公開の是非(4)ゼロサム
海外ボードゲームのルール日本語訳をネットで公開することについて、これまで「是」で主張を組み立ててきたが、状況が変わりつつある。毎年この時期に行なっているメビウス訳アーカイブへの新規追加はメビウスおやじさんと協議して見送ることにした。
「ルール和訳公開の是非(1)国内ショップへの影響」の前提「個人輸入する人は非常に限られている」が崩れ(気軽に個人輸入できる)、「ルール和訳公開の是非(2)ヤフオクでの利用」の前提「ショップの供給が追いついていない」も崩れ(ふんだんに供給されている)、「ルール和訳公開の是非(3)メーカー」については、公開して問題となるのは新作より定番と呼ばれる旧作にあることが分かってきた。
しかもこれまでボードゲームをどんどん買ってきた愛好者の多くが飽和状態になり、『ドミニオン』バブルも終わりつつある昨今、どこかが売れればどこかが売れなくなるゼロサムの時代が到来しつつある。独自の日本語ルールを作成せず、公開日本語ルールを利用する業者が増え、コストをかけて日本語ルールを作成してきた既存ショップの利益が圧迫される状況下では、有志ならともかく、国内ショップは日本語ルールを公開しないことになるだろう。当然の成り行きである(それゆえ、これまで毎年提供して下さったメビウスおやじさんのご厚意は非常にありがたいものである)。
有志による一般公開についても、国内でまもなくどこかが扱いそうな作品や現行商品については、業者に利用され(添付販売を禁じても、ここからダウンロードできますよで同じことである)、その分だけ国内ショップの売上が落ちる可能性を認識した上で、行うかどうか考えたほうがよいのではないだろうか。
もちろん国内のショップで買うか、海外のショップから個人輸入するかは個人個人の選択である。大本の出版社・メーカーはどこから買ってもらっても売れればかまわないはずである(長く売り続けてもらえるショップのほうがありがたいだろうが)。だからショップは自由競争で、消費者が恩恵を受けると考えて公開するという選択肢を否定するものではない。
なかなかにアンビバレントな問題で、立場によって異なるのはもちろんのこと、ひとつの立場からも一概に判断を下すことができない。現在のところ、私が和訳公開するのは明らかな絶版品と、メーカー的・内容的(言語依存度が高いなど)に国内ショップが扱う可能性が低いと判断される作品に限ることにしている。