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エセ芸術家ニューヨークへ行く(Fake Artists go to New York)

心の目で描く

出来上がった絵は、まるで現代美術を見るかのようである。現代美術館でも、下に貼ってあるプレートを見ないと、何を描いたのか分からない絵が多い。その絵をみんな共同で描いているとしたら? そしてその中に1人だけ何を描いているのか分からない人がいるとしたら?
ストレイシーフ』『藪の中』でゲームと非ゲームの際どい境界線を歩み、注目を浴びているオインクゲームズの新作が、このお絵描きブラフゲームである。多人数、お絵描き、ブラフ、そしてオインクゲームズとあっては注目しないはずがない。

エセ芸術家ニューヨークへ行く

はじめに親が、今回のお題を決め、全員分のプレートに書きこむ。ただし1人だけ何も書かない。これを全員に配り、スタートプレイヤーを決めたらお絵描き開始。親以外が共同で1つの絵を描く。

絵は順番に、自分の色のペンで一筆ずつ描き加えていくかたち。エセ芸術家=1人だけお題を知らない人は、それまで出来上がった絵を見て、さも知っているかのように描き加える。2周したら、ペンの色からエセ芸術家だと思う人を一斉に指さす。「おまえだ!」

エセ芸術家がカモフラージュに成功し、指さしで最多数に選ばれなければ、エセ芸術家と親の得点。最多数に選ばれれば、エセ芸術家と親以外が得点……の前に、エセ芸術家に1回だけチャンスが与えられる。それは何を描いたかお題を当てられるかどうか。当てられればカモフラージュ成功と同様、エセ芸術家と親が得点する。

すなわち、エセ芸術家以外の人は、何か分からないような絵を描かなければならない。分かりやすい絵を描けば、エセ芸術家のカモフラージュが成功しやすく、カモフラージュに失敗してもお題を当てられてしまうだろう。しかし、分かりにくすぎても、エセ芸術家のカモフラージュが成功してしまう。1周目は様子見で棒でも引いておいて、2周目にさりげなく自分はお題を知っているアピールをするのがよい。

今回出来上がった現代芸術作品はエビ(右下)、ネコ(左下)、サンタクロース(上)。エビはくさのまさんが描いた尻尾でバレてしまい、ネコはエセ芸術家だったcarlさんの変な線を見ぬくことができなかった。サンタクロースは2番手という不利でエセ芸術家であることがばれたぽちょむきんすたーさんが、お題を当てられず。carlさんが一気に5点を取って1位。tomok画伯が直線一本だけで「そこはありえねー」とウケを取っていたのはさすがだった。

よそのゲーム会で遊んだ話を聞くと、毎回エセ芸術家がつかまってしまったというところと、1回も捕まえられなかったというところがあった。今回は両方あって、微妙なところを楽しめたと思う。

エセ芸術家ニューヨークへ行く
佐々木隼/オインクゲームズ(2011年)
5〜11人用/8歳以上/20分
オインクゲームズ:エセ芸術家ニューヨークへ行く

Posted in エッセイ

レビューの書き出し

ドイツ語圏の新聞では、新刊の書評のようにボードゲームのレビューが掲載される。それだけボードゲームが一般的なものであるが、要約すればだいたい伝わる書籍と違って、遊んだことがない人に紹介するのは難しい。
叔母がスイス土産に、「新チューリヒ新聞(Neue Züricher Zeitung)のボードゲーム欄を切り抜いて持ってきてくれた。土曜日に詰めチェスなどと一緒に、2タイトルずつレビューしている。ボードゲーム専門誌の『シュピールボックス』と比べたとき、一番の違いは書き出しである。そこには一般の人も興味を惹くような工夫がなされているので面白い。
Neue Zuricher Zeitung
書き出しの基本的なスタンスは「既知から未知」。いきなりゲームの内容ではなく、一般的な話題から入る。第1段落を読み始めてもらえばしめたもの。そこからすんなりとさりげなくゲームの内容に切り替える。
例えば現代の社会世相とリンクさせる方法。新聞らしい書き出しである。

『ランカスター』―法律と押しのけ競争

私達がいるのは1413年のイギリスだが、雰囲気は選挙のある週末のスイスに似ている。というのも、『ランカスター』では毎ラウンド3つの法案に投票し、すぐに発効するからである。それらはゲームを進めるのに全くありがたい効果もあれば、とても困るものもあり、勝利点の友になることもあれば敵になることもある。前もって貴族を、お城から私有地の円卓に招いていれば、より多くの投票ができる。……

外国がテーマのゲームは、その外国のイメージに合わせて。

『グレンモア』―スコットランドをできるだけ小さく保つ

普通、建設ゲームというと、拡大生産してできるだけ大きいエリアを併合するものが多い。このゲームはそうではない。『グレンモア』はウィスキー蒸留所と、険しいお城と、倹約の国スコットランドが舞台である。したがって際限なく拡大するのではなく、小さく、効果的にまとめることが大事である。『グレンモア』では、村、川、牧場、畑、お城のある地形を、得点できるかたちにする。最後に全員の地形の大きさを比べ、一番小さかった人が最良とされ、ほかの人よりエリアが大きければ大きいほど、マイナス点が振りかかる。

外国の受賞歴などから入るのも、興味を持ってもらえそうである。

『ディクシット』―円形の連想

『ディクシット』はすでに2009年、フランス、ベルギー、スペインのゲーム賞を総なめにした。いわゆる「評価ゲーム」で、ほかの人の表現を当てなければならない。評価ゲームは『ノーボディ・イズ・パーフェクト』『私の世界の見方』『ギフトトラップ』など、北京の自転車のようにたくさんある。『ディクシット』の新しさは何かというと、素晴らしいイラストのカードがある。フランスのイラストレーター、マリー・カルドアによるこの84枚の芸術作品がなければ、平凡な評価ゲームになってしまっただろう。……

日本人には理解しにくそうだが、ヨーロッパであればこのような書き出しも。

『シャドーハンターズ』―吸血鬼対人狼

ちょっとだけそれは現実と似ている。私たちの中には吸血鬼もいれば、人狼もいる。誰がどのグループに属するか、残念ながら分からない。しかし今、悪者と悪者の最後の戦いが始まった。全ての吸血鬼を倒せば人狼が勝つ。人狼が全て鳴かなくなれば吸血鬼が勝つ。そのほかにも、うさんくさい普通の人間も混じっており、人間が勝つためにはそれぞれの目的を達成しなければならない。問題は、はじめほかの人が何者か知らないことだけである。……

見かけから入るという方法もある。

『サフラニート』―インドのスパイスに賭ける

ボードゲームは上機嫌にさせるようなコンポーネントでなければならない。『サフラニート』は、明快で素晴らしいイラストが目を引く。これまでボードゲームを遊ぶとき、イラストをほめることは少なかった。このゲームは現代のボードゲームイラストレーターの星、ミヒャエル・メンツェルによるものである。用具も見どころである。ボードに投げ入れるチップは紙製ではなく、高級なポーカーのクオリティーである。ボードは4つのパーツを組み合わせ、9つのスパイスが並ぶ闇市を表している。……

業界打ち明け話のようなものも。

小メーカーの掘り出し物『ハンザ・テウトニカ』

小メーカーの躍進が顕著だが、あまりに雑多で概観できない。ボードゲーム評論家が、真の掘り出し物を発掘したければ、少人数の人が高く評価したハンドメイドのゲームを試さなければならない。そしてたいていは、同じような内容だったり、冗長な進行だったり、コンポーネントがチープだったり、テストプレイが不十分で必勝法があったりする。これはまぎれもない恐怖で、何か足りない感覚がつきまとう。インターネットでは、ルールが支離滅裂で、オリジナルに見せかけ、コンピューターシミュレーションを思い出させる展開のゲームをオーバーに褒め称えるエキスパートであふれている。しかし諦めなければ、本物の真珠に巡り合える。……

いざ自分でこのような書き出しから入ろうとすると、意外と難しい。ゲームの内容を紹介するだけならルールを要約すればできる。でも現代の世相にリンクさせたり、外国のイメージを取り入れるには、時間がかかる。興味を持ってもらえそうな要素を抽出し、関連事項をWikipediaで調べ、ゲーム紹介につなげるよう考えなければならない。年末から、レビューでこのことを心がけているが、書き出しが全く思い浮かばなくて困ることも多い。しかし、下調べしているうちに自分でも知らなかったことが分かって勉強になる。
当サイトで掲載する情報は「昨日の自分が知らなかったこと」がモットー。未知の世界を開くため、現実とのリンクを意識したレビューを、今年は心がけていきたい。