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ボードゲームのポジティブな効用の伝え方

ボードゲームの卸売をしているKleeblattの畑直樹氏が、ほらボド!のインタビュー で販促イベントの興味深いエピソードを披露している。畑氏は木のおもちゃ屋さんの販促でデパートなどに手伝いにいったとき、試遊して楽しんでもらっても、なかなか買ってもらえなかったという。楽しかったといっても買うのは10人に1人もいない状況。そこで仕事のやり方を変えて、「楽しんだ後にちょっと理屈っぽいことを言う」ことにした。例えば『ドブル』を遊んでもらった後に、「ドイツではこういったゲームを遊ぶ中で、人のことをよく見る力が身につくように使われている」という。そこにはドイツの保育園で研修を積んできた保育士としての経験の裏打ちがあるわけだが、そのような説明をすることで10人に3人、4人と買ってもらえるようになり、現在では年間100回ぐらいの講演活動を行っているという。

こういったボードゲームのポジティブな効用がコマーシャルに使われることが最近多い。バンダイは『ドンジャラドラえもん』の発売について、「脳トレ」でおなじみの川島隆太・東北大学教授から「ドンジャラの遊びは、相手の手を読むなど脳が活性化し、分析力・協調力・集中力・記憶力などが育まれる。また、家族みんなで遊ぶことで、愛着と共感性が強まる」というコメントを引き出しており(ソース )、またマテルは『ブロックス』で遊んでいるときとスマホの対戦型ゲームで遊んでいるときの脳血流量を比べ、『ブロックス』のほうが脳の前頭葉のはたらきが活性化しており、それは戦略性やコミュニケーションが関係しているという古賀良彦・杏林大学名誉教授の分析を発表している(ソース )。

川島隆太教授の分析はボードゲーム一般にも言えることであり、もっと効果的なボードゲームもたくさんあるだろう。また古賀教授の実験はスマホゲームには音楽や漫画のように脳を休める/リラックスさせるはたらきがあるわけなので当然の結論といえる。しかし少なくとも「頭に良さそう」というイメージアップには成功しているといえるだろう。

ゲーム研究家の草場純氏は、当サイトの質問に対しこういった知育効果について絶対否定派であるという。

(ゲームを含めた)遊びは、楽しいからやるのであって、それ以外の理由は不要どころか有害です。「頭のよくなる……」と言ったとたんに、それはゲームの資格を失っているとすら思います。もちろん親に対する方便という意味では、分からないではないです。しかし、それはゲームを汚す欺瞞であると思います。

畑氏もボードゲームは楽しいだけでいいと思いつつも、知育効果を説いているのは、販促イベントで遊んで終わりではなく、買って帰ってもらって、毎日ちょっとした合間にお父さんお母さんと遊んでもらいたいという願いがあるからという、方便の立場である。おそらくボードゲーム愛好者の多くは、ボードゲーム自体の楽しさを知っているがゆえに、その効用など意識しないのではないだろうか。

「ボードゲームは脳を活性化する」という言説は経験的に分かるところだが、それは楽しんだ結果であって、目的とするのは、教育熱心な親の注目を集める以上の意味はないように思われる。知育の香りが少しでもすると子どもは警戒するということにも注意を払わなければならないだろう。

かくいう私もこの頃、ボードゲームで「非認知能力」を伸ばすという話をしている。ゲーム内の協力により自信、やる気、外交性、社会性、協調性が、ルールを守ることにより忍耐力、自制心、勤勉性が、負けてもめげないことにより自分を客観的に見る力や凹まない力が、戦略的思考により複眼力が、新しい手を考えることにより創造性や好奇心が養われ、それは子どものこれからに大いに役立つでしょうと。ただしこれが目的になってしまわないように、家族で一緒に楽しむことが一番大事であることを伝え、実際にボードゲームをいくつか遊んでもらってから結果として実感してもらうようにしている。

ボードゲームのポジティブな効用は、それが取っ掛かりになるのはよいとしても、それが主目的にならないように伝える工夫が、魅力を失わせないために必要である。

Posted in 日本語版リリース

ブラント夫妻がアレンジ『スコットランドヤード カードゲーム』日本語版、8月9日発売

scotlandyardksJ.jpgアークライトは8月9日、『スコットランドヤード カードゲーム(Scotland Yard: Das Kartenspiel)』日本語版を発売する。ゲームデザイン・I.ブラント&M.ブラント、イラスト・F.フォーヴィンケル&T.ヴォルバー、3~5人用、9歳以上、20分、2200円(税別)。
1983年にドイツ年間ゲーム大賞を受賞し、ロングセラーとなっている怪盗追跡ゲームのカードゲーム版。『村の人生』『脱出:ザ・ゲーム』などで知られるブラント夫妻がリデザインし、オリジナルは昨年ラベンスバーガー社から発売された。日本国内ではボードゲーム版を手がけてきたカワダが輸入し、アークライトが販売する。
ボードゲームと同様、複数の刑事役プレイヤーが、手札にミスターXのカードをもつミスターX役のプレイヤー1人と対戦する。刑事たちはバスやタクシー、地下鉄のチケットカードを駆使してミスターXを追い詰め、ミスターXは正体を隠しつつ、いざという時に強力なアクションが行えるブラックチケットで、刑事たちの邪魔をする。
手番にはカードが昇順になるように出して、その場に対応するアクションを行う。ミスターXのプレイヤーから、ミスターXカードを引き当てたら刑事側の勝利、その前に山札が尽きたらミスターXの勝利となる。
新しいのは正体隠匿の要素。はじめは誰がミスターXか分からず、しかも逃亡(全シャッフル)することでミスターX役がほかのプレイヤーへ移動することもある。最終的にミスターXは誰なのか、協力して逮捕を目指す刑事たちと、最後まで逃げ切ることを目指すミスターXの手に汗握る攻防が再び始まる。
内容物:チケットカード90枚、アクションカード3枚、拡大鏡カード3枚、ミスターXカード2枚、無地カード2枚、説明書1枚
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