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ボードゲームとアフォーダンス

『知性は死なない』(與那覇潤、文藝春秋)は、大学で教鞭を取っていた著者が重度のうつを乗り越えて、心の病や大学教育、さらには現代政治について書き綴った本である。
最終章で著者は、精神科病棟の談話室に置いてあった『ウノ』を入院仲間と遊んでいた話を紹介する。中には『ウノ』ができない人がおり、情報を集めて外出時にいくつかボードゲームを購入してきたという。本書では『カルカソンヌ』と『マスカレイド』が紹介されている。
『ウノ』ができない人が『カルカソンヌ』なんてできるの?と思うかもしれない。しかし『カルカソンヌ』は隠された手札がないのでアドバイスできること、ゲームが終わった後に盤面がきれいなことがあって、『ウノ』が苦手な患者さんにも楽しんでもらえたという。そのようなメタレベルでの協力が成り立ちやすいゲームが『カルカソンヌ』で、成り立ちにくいのが『ウノ』だったというわけである。

うまくあそべない人に、「おまえは能力が低いなあ。もっと勉強しろよ」なんて、言わなくてもいい。むしろ「能力が低い」プレイヤーがまじっても、みんなが最後までたのしめるようなデザインのゲームを、みつけてくればいいのです。

考えてみれば、子どもや初心者と遊ぶとき、アドバイスしながら遊ぶことはよくある。過剰でなくて適切なアドバイスをすることで、ゲームはみんなにとってより面白いものとなる。ルール上は勝敗を目指すし、実際勝敗もつくけれども、それとは別の次元で、みんなで楽しもうという協力関係が成り立っているのである。アドバイスに限らず、ゲームを盛り上げるコメントや、上機嫌で臨むこともこれに含まれるだろう。そのような振る舞いで参加者みんなが楽しめるボードゲームを、意図的であれ無意識であれ愛好者は選んでいる。
このように人をゲームに合わせるのではなく、ゲームを人に合わせるという発想から著者は「アフォーダンス」という概念に言及している。健常者に走るという能力があるのではなく、平らな道に人を走らせるという能力があるというように、「能力」の主語を、人からものへと移しかえる。障害は人ではなく環境にあるという「社会モデル」にも通じる新しい考え方である。能力の差を織り込み済みで、それを心地よさや楽しみにつなげていく。だからこそ、ボードゲームは種類が多ければ多いほど、それだけTPOに適合しやすくなる。
同様に『マスカレイド』では、手札は伏せられているが協力関係が成り立つ。その協力関係込みで、ゲームの魅力になっているという。

ルールが十分飲みこめず、うっかりだれかを勝たせてしまいそうな人がいたら「このままだとあの人があがっちゃうから、こうしてよ」と、ほかの人が頼めばいい。「あの人はゲームをわかっているから、まかせよう」・「この人はわかってなさそうだから、自分の手番をつかって、かわりにあがりを阻止しておこう」というように、ほかのプレイヤーの「能力」をみきわめながら、戦略を変えてもいい。

著者はボードゲームを「療養体験の中で最も、回復と思考のヒントをくれた媒体」としている。能力の優劣による対立から、個性を認め合う共存へ。ボードゲームが心の病の療養に効果があるというだけでなく、人間観さえも変えてしまう力があることを学ばせられる。

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独年間大賞をカラフルにリメイク『マンハッタン』日本語版、7月5日発売

manhattannJ.jpgアークライトは7月5日、高層ビル建築ゲーム『マンハッタン(Manhattan)』日本語版を発売する。ゲームデザイン・A.ザイファルト、イラスト・J.デイヴィス、2~4人用、8歳以上、30分、4200円(税別)。
オリジナルはハンス・イム・グリュック社(ドイツ)が1994年に発売した作品。ドイツ年間ゲーム大賞を受賞し、ロングセラーとなっており、輸入版がメビウスゲームズで扱われていた。今回の日本語版は、マンドゥーゲームズ(韓国)がリデザインしたもので、ビルのパーツがカラフルな透明になっているほか、追加プロモカードが10枚入っている。
世界6大都市で、高層ビルの建設を競う。手番にはカードをプレイして、その位置に自分の色のビルのパーツを配置。階数のマジョリティーで一番上にパーツを置いているプレイヤーがビルのオーナーとなる。ラウンドが終わるたびに世界一高いビル、各都市ごとに所有するビルが一番多いプレイヤー、各ビルで得点が入り、3ラウンドの合計を競う。
シンプルなルールながらインタラクションが強く、誰のビルを乗っ取るかをめぐってさまざまなプレイスタイルが楽しめる作品だ。
内容物:ゲーム盤1枚、建物ブロック96個、プレイヤーボード4枚、得点マーカー4個、親マーカー1個、ルール説明書1冊、建設カード45枚(※カードサイズ:45mm×70mm)
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