コロナ禍でのボードゲームブーム
ボードゲーム好きな司法書士の知り合いからの紹介で、「人と人をつなぐボードゲームの世界」というテーマで『月報司法書士』2022年9月号から1年間連載することになった。ほとんどが法律関係というほかの記事とのギャップが凄まじいが、ボードゲームを知らない人に、大人が楽しむ趣味であることをわかってもらえたらいいなと考えている。
ドイツのボードゲーム賞に日本人作品が入賞
2022年7月、ベルリンでボードゲームの授賞式が行われた。ボードゲーム界のアカデミー賞ともいわれる「ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)」である。40年以上の伝統をもつこの賞に今年、『スカウト』という日本人作品がノミネートされた。メディアではほとんど報じられていないが、7年ぶり3回目の快挙である。惜しくも大賞受賞はならなかったが、日本時間で25時からという大賞発表のライブ配信を、多くの愛好者が固唾を飲んで見守った。
授賞式のスピーチの中で、審査委員長はウクライナ危機に触れ、「ボードゲームは国際的で、寛容と平和的共存を意味します。誰でも一緒に遊べて、世界のどこにいても同じルールでプレイできるからです」と述べている。現実には世界で一方的なルール破りが横行し、不寛容で共存を嫌う社会になりつつある。ドイツのボードゲーム賞であるにもかかわらず、今回のノミネート作品がアメリカ、日本、フランスとすべてドイツ国外の作品だったことも、ウクライナ危機で高まる国際連帯意識と無縁ではない。
ボードゲームブーム
コロナ禍によるステイホームに合わせて、世界中でボードゲームがブームになっている。親子や夫婦で遊ぶ人が増え、ドイツやアメリカではボードゲームの売上がコロナ禍前と比べて2割程度の増加となった。日本でも書店や量販店がボードゲームを扱い始め、テレビ番組ではよくお笑い芸人がボードゲームで盛り上がっている。
しかしボードゲームは子どもの遊びというイメージが強い。今なぜ大人がボードゲームに興じるのだろうか。
①デジタルデトックス
パソコンの前で1日中過ごし、空いた時間にはスマホを見、オフにはネット動画やテレビゲームで過ごす生活は、ずっとスクリーン(液晶画面)を見ていて目も脳も疲労する。そこでデトックス(毒消し)をするためにアウトドアの趣味が人気だが、自宅でちょっとした時間にできるのがボードゲームだ。ボードゲームを遊んでいる間は、スマホを見ることができない。こうして「最新のドラッグ」であるスマホを断つことで、目や脳を休め、リフレッシュすることができる。
②コストパフォーマンス
ボードゲーム愛好者は20~30代に多い。金銭面で将来への不安がある中で、お金をあまりかけないで実質的に楽しめるのも大きなメリットだ。ボードゲームは3000円前後で販売されており、複数人で何度も楽しむことができる。4人で10回遊べば1回あたり75円。こんな安さで何時間も過ごせる趣味はなかなかない(ただし筆者のように重度の愛好者になると新作をどんどん買ってしまうのでその限りではない)。
③バラエティ
東日本大震災直後の節電ブーム、ボードゲームカフェブーム、そしてコロナ禍のステイホームも重なり、ボードゲームの需要は急増しており、今や年間500種類以上の新作が発売されている。1人用から多人数用、キッズからシニアまで、5分くらいで終わるものから数時間かかるものまでバラエティ豊かで選びきれないほどだが、特に普段遊ばない人が手軽に楽しめるボードゲームが充実したことで、YouTubeやテレビで盛んに取り上げられるようになり、手に取る人が増えた。
冒頭で触れた日本人作品『スカウト』も、20分くらいで遊べる手軽なカードゲームである。大富豪(大貧民)のように、手札から同じ数や連番を出して手札を先になくした人が勝つゲームだが、手札を並べ替えてはいけないルールと、前に出した人からカードをもらえる「スカウト」というルールにより、エキサイティングで奥の深いゲームになった。国内でもボードゲーム専門店やネット通販で購入できるのでぜひ遊んでみてほしい。
リアルに如くはなし
私がボードゲームを好んで遊んでいる理由は、かけがえのない仲間とのリアルなつながりである。確かに今は遠くに住んでいてもSNSで簡単に連絡を取り合うことはできるし、ZOOMをつなげばお互いの顔も見えるが、実際に会うのにはかなわない。最近のできごと、美味しかった食べ物、世相に思うこと、懐かしい思い出、そんなとりとめもない話をしながらボードゲームを遊ぶ。すぐとなりに座っているので、ちょっとした仕草や表情も手にとるようにわかる。ポーカーフェイスに心の内を読み、見事な一手に唸り、楽しい瞬間に一緒になって笑う。やがてボードゲームで出会った仲間が旧知の親友となり、休日の半日が心からリラックスできる楽しいひとときとなる。自分も独りでは生きられない「人間」であることを悟る。
孤独は現代の大きな問題である。アメリカの研究で、社会的に孤立している人は、つながりを多く持っている人よりも男性で2.3倍、女性で2.8倍亡くなりやすいという。新型コロナウィルス感染症の流行でうつ病やうつ症状の人の割合が2.2倍になったのも、外出ができなかったり、職を失ったりしたことによる社会的孤立が大きな要因となっている。イギリスでは2018年、ミニスター・フォー・ロンリネス(孤独問題担当大臣)が設置された。
素養も練習もいらず、長い時間をみんなで過ごせるボードゲームは、孤独の解消にうってつけの趣味である。本エッセイでは12回にわたって、人生を充実させるボードゲームの世界と、ボードゲームが映し出す現代世相のさまざまな側面について、司法書士と関連のありそうなトピックを取り上げて、思ったことを書き連ねていきたい。
(月報司法書士9月号に掲載)
キューブ・粘土・紐・イラストでお題を当てる『フェアリー・クラフト』10月29日先行発売
ブシロードクリエイティブは10月29日、「TERIYAKI GAMES」のレーベルで『フェアリー・クラフト―妖精たちと魔法の森―』を先行発売する。企画:志瑞祐、イラスト:兎塚エイジ、4~6人用、12歳以上、60分、4180円(税込)。24セット限定の作者サイン入りパッケージを10月1日より予約受付中。
魔法の森に迷いこんでしまったアリスと、脱出を手助けする妖精になり、ライフが尽きる前に森から脱出する協力ゲーム。ただし、妖精の中には悪戯が大好きな悪戯妖精が紛れており、脱出を妨害する。
リドルカードで今回のお題を決め、キューブ・粘土・紐・イラストからクラフトカードで指定されたものを使ってお題を表現し、当ててもらう。しかしキャストカードで割り当てられた悪戯妖精はミスリードを狙っている。素で表現が下手なのかわざとなのかを見極め、正解に辿り着こう。
内容物:ルールブック 1部、アクリルキューブ 20個、紐 大4本・小8本、粘土 2個、ホワイトシート 2枚、ペン 2本、魔法のトークン 13個+予備7個、リンゴトークン 3個+予備1個、魔法のコンパス 1セット、キャストカード 7枚+予備1枚、クラフトカード 6枚+予備1枚、リドルカード 55枚、衝立(サマリーシート)6枚
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