『図書館とゲーム―イベントから収集へ』
2018年4月から、国内初となるボードゲームの館外貸出サービスを開始して注目されている熊本県立おおづ図書館などの先進的な取り組みをもとに、図書館でボードゲームを取り上げる意義と、実際的な問題を詳説した実用書。格闘系司書こと高倉暁大氏らが執筆している。「図書館実践シリーズ」という専門書だが、草場純氏からの紹介で入手。価格もお手頃である。
本書ではアナログ・デジタルゲームを問わずゲームとして扱い、ポケモンGOやFGO(スマホゲーム)などを扱った事例も紹介しているが、デジタルゲームは再生機器やライセンスの問題があり、収集・保存・貸出は難しいようだ。ボードゲームも、紛失・消耗・破損の問題があるが、多人数で遊べるという点で地域のコミュニケーション手段・認知症予防といった名目が立ちやすい。
第1章でゲームの分類をした後、第2章で事例集としておおづ図書館のボードゲーム館外貸出、博多工業高校で行われた「ボードゲームを使用したコミュニケーション研修」(『ボブジテン』『ディクシット』『はじめての人狼』)などが取り上げられる。予算のとり方や企画の進め方から説き起こされており、一般向けのボードゲーム普及活動を立ち上げようとしている人ならば、図書館関係者でなくても参考になる。
第3章はQ&A方式で企画書の書き方、購入費の項目、著作権法の問題、トラブルの対処など具体的に説かれている。ボードゲームの館内利用は営利・非営利、有料・無料いずれでもOK、館外貸出は非営利・無料の場合OKということである。静かな館内でボードゲームができるのかという疑問には、視聴覚室や会議室など隔離された場所を使うか、そのようなスペースがない場合には休館日を利用したり、予め告知をしたりするという提案がなされている。
第4章は図書館情報資源としてのゲーム、第5章はボードゲームアーカイブの可能性ということで、収集・整理・保存の方法をまとめている。高倉氏が担当した第5章では、すぐ絶版になるボードゲームこそ、アーカイブの枠組みを検討する時期が来ているのかもしれないと熱く語る。
アメリカの図書館協会が年に1回ゲームの日を定めてイベントをしたり、ドイツの図書館でボードゲームの館内利用・館外貸出が一般的に行われたりしているが、おおづ図書館では秋に中高生によるボランティアグループ「図書館ゲーム部」が立ち上がり、世界的にも例を見ない活動を打ち出している。しかし全国的に見て、そのような活動をしているところは皆無に等しい。本書を通して、全国に3300あるという公立図書館で(日本図書館協会調べ)、イベントや貸出用にゲームを導入する動きが広まってほしい。
知略悪略(Mit List und Tücke)
ぎりぎりのラインを見極める
メイフォローのトリックテイキングは非常に難しいと思ったのは、もう20年も前に『シュティッヒルン』を遊んだときのことだった。手札から何を出してもよいということは選択肢がその分増えるわけで、その上取ってはいけないトリックがあると本当に何を出したらいいか分からなくなる。『シュティッヒルン』は初心者向けではなく、楽しめるようになるまではいろいろなタイプのトリックテイキングをプレイする経験を必要とした。
その『シュティッヒルン』の作者が6年後に発表したのがこの作品である。タイトルは「知恵を絞って、やっとの思いで」という意味のドイツ語で、邦題はメビウスゲームズによる(「智」から「知」に変更)。ベルリナーシュピールカルテン(ドイツ)から発売され、アラカルトカードゲーム賞で5位に入賞している。そしてそれがドイツ語版以外では初となる日本語版化。風刺画調のイラストも現代風に改められた。数寄ゲームズとしては『ボトルインプ』に続くトリックテイキングの日本語版だが、より通好みでかなりの冒険だったと思う。
ドイツ語版を遊んだ11年前、「ひとつのミスが死を招く」という見出しでレポートしていた(秋葉原水曜日の会 07/04/18)。その時から自分は経験値を積んできたのだろうか。
全員が1枚ずつカードを出し、勝者(最初に出した色で一番大きい数字のカードを出した人)が好きなものを選んで得点札にし、残りを敗者(それ以外の色で一番小さい数字のカードを出した人)が引き取る。目標は4色のうち2色だけできるだけ多く集めること。最後に、多く集めた2色の枚数の掛け算を、残りの色の枚数で割って得点にする。満遍なく取ってしまうと、1点か0点にしかならない。
最後に出すときはあまり悩まない。全員が出したカードを見て、選んで取りたければ強いカードを、どれを取ってもよければ弱いカード、取りたくなければ中くらいのカードを出す。悩ましいのは最初に出すときと、2番目に出すときだ。それ以降のプレイヤーは何が出たかによって取るか取らないかを調整してくる。ほかの人が集めているカードを餌にして駆け引きを迫るか、取らなくてもいいように数字の低いカードを出すか、あるいは一か八か出すか大いに迷う。下手なカードを出せば、いらないカードばかり付けられてあっという間に火だるまだ。敗者が次のトリックの最初の1枚を出すというルールで、しゃがみっぱなしができないようになっているところも憎い。
良手は相手次第なところもあるので分からないが、「それ出したら要らないカード食らってしまうだろ!」という悪手は確実に存在する。しかし、カードを全く取るためには、悪手のぎりぎり手前を見極めなくてはならない。あまりに安全策だと、要らないカードばかりでなく、欲しいカードも取れなくなってしまう。
ハイリスクで前半から積極的に取りに行くときと、中盤くらいから調整しつつ集めるときがあり、それは手札次第、相手の出方次第である。さらに場札のカウンティング、ほかのプレイヤーの表情も踏まえれば、1トリック1トリックが濃密である。ここまでの深みを感じられたのは、経験によるものか、仲間によるものか。
知略悪略
ゲームデザイン・K.パレシュ/イラスト・Makiko Kodama
数寄ゲームズ(2018年)
4~6人用/10歳以上/30分