ロジックとコミュニケーション~ボードゲームを通して考える日独の違い~
昨日、山形大学のグローバル・スタディーズコースが主催した市民講座に講師として招かれ、講演をしてきた。タイトルは『ロジックとコミュニケーション~ボードゲームを通して考える日独の違い~』。学生だけでなく、学内の先生や、一般の参加者もあって60名ほどが集まった。
ボードゲーム仲間で、講演を依頼して下さったダグラス・グローグ准教授から講師の紹介。ダグラスさんがボードゲームについて調べていて、トム・ヴェルネック氏(バイエルン・ボードゲームアーカイブ)にメールしたところ、私を紹介されて知り合うことになった。ロンドン近郊出身の、大のボードゲームファンである。
稲わらをもって「リアルアグリコラ」とかいってる人
最初に前日の年間ゲーム大賞のニュースを、ドイツ語で報告。ドイツ人の先生もいらっしゃったことを知るのは、質問の時間になってからである(汗)。講演は、まずドイツでどうしてボードゲームがよく遊ばれているのかを分析した。日本とドイツの労働環境の違いを比較し、深夜と日曜日は原則としてお店を営業できない「閉店法」を紹介、年間日照時間の国際比較を行なって、室内娯楽が好まれる背景を探った。
注いで大人まで楽しめるようになったドイツのボードゲーム市場の動きとして、出版社、ゲーム賞、メッセ、ボードゲーム館、ゲーム学を紹介した。
ここからロジックとコミュニケーションの話に入る前に、すごろくやさんの『大人が楽しい 紙ペンゲーム30選』から『マネージャガ』をみんなで遊ぶ。数字を1つ書き、下から名乗りでていって、前の数字との差が10以内なら得点になるというゲームである。お試しで遊んだところ90くらいでストップ。もう1,2回続けてすればまた戦略も出てくるところだが、時間の関係で1回のみ。
ゲームの後はいよいよ本題に入る。まずドイツのボードゲームのルールの論理性を、実際のルールの記述を通してみていく。また「してもよい」のか、「しなければならない」のかという点について、日本語に翻訳するときに迷うことを話した。
それから規律や論理性を重んじるドイツの国民性と、周囲との調和を重んじる日本の国民性を比べ、それぞれ長所にも短所にもなることを指摘。結論として、相手に配慮して自分の意見を述べること、自明だと思っても根拠をつけて丁寧に話すこと、言葉を深読みし過ぎないで額面通りに受け取る習慣をつけることを提案した。このあたりは、以前、論理学の講義をしていたときの話にも通じる。
講演終了後は、学生からいろいろな質問を頂く。またボードゲームに興味のある先生からも問い合わせを頂いて、こちらも刺激された。この講演を知る前から、ホームページをご覧になっていたという方もいらっしゃった。もちこんだ『ボードゲームワールド』も数冊お買い上げ頂いた。
その後、食事をとってダグラスさんたちとボードゲーム。毎週火曜日に研究室で遊んでいるのだという。今回は5人で『ピックス』『花火』『リベルタリア』をプレイ。ダグラスさんは授業でもボードゲームを使って、ルール説明からプレイ全部まで英語で通すという試みを行っている。英語を話すことに躊躇しがちな学生でも、ゲームで熱くなれば話さざるをえない。『ディクシット』など、とてもよい教材になるという。
また火曜日に遊びに行くことを約束して、帰途についた。ボードゲーム関連では初めての講演。ご来聴下さった方々、ありがとうございました。
花火(Hanabi)
阿吽の呼吸で打ち上げる
みんなで協力して、5色の花火カードを順序よく出していくカードゲーム。2013年のドイツ年間ゲーム大賞で小箱のゲームとして初めて大賞に選ばれた。オリジナルはフランス語版で、日本では3年前から発売されていたが、ちょうど大賞受賞に合わせるかのように今月、日本語を含む多言語版が発売されている。富士山と厳島神社をあしらったイラストは多言語版からのデザインで、ドイツ語版、フランス語版は法隆寺があしらわれている。
目的は、各色1から5のカードを順序よく出していくこと。間違ったり、捨て札が多すぎたりすると、しょぼい花火で終わってしまう。なぜ間違うのかというと、自分の手札は裏向きにもつからである。ほかのプレイヤーからは見えるが、自分は見ることができない。
自分の番にできることは、ほかのプレイヤーにヒントを出すか、自分の手札から1枚を打ち上げるか、あるいは1枚を捨てるかの3択。ヒントを出した場合は、8枚あるチップが1枚裏返り、全部裏返るとこれ以上ヒントを出せなくなる。チップを戻すには1枚を捨てるという選択をしなければならないが、闇雲に捨てると、必要なカードがなくなってしまうかもしれない。
ヒントの出し方は、色か数字のいずれか。誰かの手札を指さして、「これとこれが青」「これとこれは2」などという。このヒントを元にして出すカードを選ぶ。ヒントを出す方にすれば、「今度手番が来たらこのカードを出すべし」「このカードは捨ててチップを戻すべし」というメッセージになっている。そのメッセージをうまく読み取らなければならないし、ミスリーディングなメッセージを出してはいけない。言いたいのに言えないもどかしさがこのゲームの面白さを生んでいる。また、協力ゲーム特有の「奉行問題」(経験者が仕切ってほかのプレイヤーが言いなりになってしまうこと)も、各自の知っている情報がちょっとずつずれているために起こらないのもよい。
なおヒントを出すときに、カードを指さす順番や、カードによって声のトーンを変えることで、追加情報を与えることはできるが、その可否はメンバーによって決めておくとよいだろう。そのあたりの決め方を柔軟にできるのがアナログゲームの良さだといえる。
3回間違えば0点で全員の敗北。山札がなくなってから1周したら、その時点で完成した分だけ得点を計算し、「観衆からヤジ」から「伝説級」までの評価を受ける。ファインプレイをお互いに称え合おう。
通常ルールと、カラフルな花火が入った発展ルールの両方でプレイ。通常ルールは、慣れていなかったこともあってヒントがちぐはぐになったが、「観衆も大喜び」で終了。発展ルールのカラフル花火は、色のヒントを出すときに何色にもなるというややこしさがあったが、数字のヒントを多用して「極上の出来」に成功。
ノーヒントでカードを切らなければいけない場面が何度があり、そこは運任せだが(スリルはある)、あとはヒントをいかに効率よく出して推理するかがポイントで、頭を使う。いくつかのヒントを総合して、難しいところのカードを見事に出せたときは皆もほめてくれて嬉しい。
Hanabi
A.ボザ/アバクスシュピーレ(2012年)
2~5人用/8歳以上/25分