チェコゲームズ出版にインタビュー
2017年7月、プラハ滞在の折にチェコゲームズ出版(Czech Games Edition)のオフィスを訪ね、インタビューをしてきた。
チェコゲームズ出版といえば昨年、『コードネーム』でドイツ年間ゲーム大賞を受賞し一躍注目を浴びているところだが、そのほかにも『スルー・ジ・エイジズ』『スペースアラート』『ダンジョンロード』『ピクトマニア』『ツォルキン』『タシュ=カラール』『アドレナリン』『アルケミスト』と数多くのタイトルが日本語版になっている。ヘビー級のゲーマーズゲームから、パーティーゲームまで幅広くカバーしているところが魅力である。
会社の連絡先はプラハ近郊のクラドノ(Kladno)という街になっているが、現在のオフィスはプラハに移転していた。地下鉄B線で中心部から20分、フロウベティン(Hloubětín)駅から徒歩10分ほどの緑豊かな住宅街。一軒家の住宅がオフィスである。22名の社員のほとんどはイベントで外出しており、アポイントを取ってマーケティング・PR担当のヤナ・ゼマンコヴァさんと、ペーテル・カスラヴァさんに応対していただいた。
オフィスになっている住宅
ヤナさんとペーテルさん
チェコゲームズ出版の設立は2007年。今年で10年を迎える。その前年、V.フヴァティル氏ら3名がチェコボードゲームズ(Czech Board Games)名義でエッセン・シュピールに参加し『スルー・ジ・エイジズ』を発表した。チェコボードゲームズは現在も存続し、『心臓発作にならないための10の方法』などパーティー系のゲームを製作しているが、当初はヤポンブランドのように、同人的な活動をしているデザイナーの共同出展グループだった。ここで成功を収めたことから、チェコゲームズ出版の設立に至る。
この当時、チェコでボードゲーム市場は無きに等しいものだったという。1989年までは共産主義政治体制のためボードゲームが手に入らず、『モノポリー』ですら理念に合わないという理由でテーマ変更して販売されていた。ドイツは近くて遠く、90年代に隆盛を誇ったドイツゲームもチェコにはほとんど入っていない。チェコのボードゲーム愛好者の大半は革命後も、アメリカゲームや『マジック:ザ・ギャザリング』を遊んでいた。V.フヴァティル氏のデビュー作『アリーナ(Arena)』は1997年だったが、ほとんど知られていない。
このような状況のため、チェコゲームズ出版は設立当初から英語版を先に出し、国外市場を目指してきた。チェコ語版は現在、ミンドク(Mindok)という会社に制作と販売を依頼しているが、全タイトルがチェコ語版になるわけでなない。通常、初版は英語版を1万~2万部印刷するのに対し、チェコ語版は1000~1500部と、規模は10分の1である。チェコも愛好者が増えているとはいえ、一番大きいイベントで数千人規模。ゲームマーケットには及ばない。ボードゲームカフェも国内初のものが来月オープンするという。日本のボードゲームははじめに日本語版を作り、後から英語版を作るが、この順番が当たり前ではない。
国内ではあまり知られていなかったチェコゲームズ出版がようやく国内でも知られるようになったのは、『コードネーム』の影響が大きい。現在のところ33ヶ言語で200万セット以上販売され、続編の『コードネーム:ピクチャーズ』もミリオンセラーとなっている。中国やロシアで海賊版も出ているが、「我々にはどうしようもない。それだけ成功した証拠だと捉えている」という。
中国で印刷するボードゲーム出版社が増えている中、チェコゲームズ出版はチェコ国内での印刷にこだわる。製品管理の目が届きやすく、追加印刷など小回りのきく製造が可能で、値段もそう変わらないという。驚いたのは『コードネーム』の33ヶ言語の全単語を、スタッフが全てチェックしているところ。中にはローカライズが必要な単語もあるが、ゲームの中で機能するかどうかを見て、修正を依頼する場合もあるという。
ゲーマーズゲームが多い出版社だけに、テストプレイは綿密だ。プロトタイプ(試作品)のテストプレイはほぼ毎日。スタッフはビジネスではなく愛好者として取り組んでいる。毎年3月に国外からゲストを招いてテストプレイ会をしており、アイデア探しにも余念がない。チェコゲーズ出版のモットーは「完成されていないアイデア」を探すこと。『ツォルキン』も歯車を回すゲームという大枠のアイデアから始めて、イタリア人デザイナーをチェコに呼んで開発していった。そうかと思えば、新作の『コードネーム・デュエット』は、アメリカの愛好者がメールで2人用のルールを提案したのがきっかけで生まれた。
『コードネーム』のヒットはチェコゲームズ出版を大きく変えた。資金源が確保され、新作を開発する自由を手に入れたのである。時間をかけて、出したい作品を作り込む。この状況は「『カルカソンヌ』の売上でゲーマーズゲームを作る」というハンス・イム・グリュックにおけるに似ている。チェコゲームズ出版はジェンコンやシュピールなどの大きなイベントの直前まで新作情報を出さないので有名だが、それは直前まで開発しているからだという。
この夏秋に向けて開発している新作は次の通り。ゲーマーズゲームとパーティーゲームが同居していて今後も目が離せない。
『コードネーム:デュエット(Codenames: Duet)』:2人でできるコードネーム
『コードネーム:ディズニー(Codenames: Disney)』:ディズニーのキャラクターを使ったコードネーム。表がキャラクターのイラストで、裏がその名前になっている
『コードネーム:マーヴェル(Codenames: Murvel)』:同じくマーヴェルヒーローが登場
『それが問題だ(That’s the Question)』:V.フヴァティルのパーティーゲーム。悩ましい2択の質問を提示して、どちらを選ぶか予想する
『パルサー2849(Pulsar 2849)』:V.スーヒーの2時間級宇宙開発ゲーム。ダイスを選択してアクションを行う勝利点ゲームで、多様な得点源がある。
『アドレナリン拡張』:人数を増やすだけでなくプレイ感を変える
『タシュカラル拡張』:新パック
ゲーマーズゲーム『パルサー2849』のプロトタイプ
『コードネーム』はディズニー版で新しい層の開拓を狙う
看板デザイナーのV.フヴァティル氏を中心とした新しいアイデアへの好奇心、デザイナーに頼り切りにならずみんなで開発していく熱意と、安価で小回りのきく国内出版体制、これらを武器に、今後もチェコゲームズ出版は国際的に存在感を示しくことになるだろう。
核戦争後の世界を生き延びろ!『アウトリブ』日本語版、8月26日発売
アークライトは8月26日、『アウトリブ(Outlive)』日本語版を発売する。ゲームデザイン・G.オリバー、イラスト・M.コワンブラ、2~4人用、14歳以上、25~100分、6500円(税別)。
ラ・ボワット・ドゥ・ジュ社(フランス)が今年、キックスターターで41万ドル(約4600万円)を集めて製品化した作品。同社の製品の日本語版は、『10ミニッツ・トゥ・キル』に続いて2タイトル目。
最後の水源を巡る核戦争によって破壊された世界が舞台。生存者は推定3万人でなおも減少している中、4個のクランを形成し、地下シェルターで生存競争を繰り広げる。世界中を移動して優れた生存者を集めている集団「コンボイ」に見い出されることが最後の望み。この集団に選ばれると、海中に隠された人類最後の都市に移住できる。
メインシステムはワーカープレイスメントで、英雄を移動させて資源を集め、夜には地下シェルターを拡張して新しい生存者を集める。特別な点は、手下の強さによって移動や集められる資源が変わるところ。それぞれ異なる強さの手下をどこに配置するかで、戦略性とインタラクションが生まれる。
コンボイ到着までの6日間を耐え抜き、選ばれしクランになれるだろうか?
内容物:
ゲーム盤1枚、コンボイボード1枚、シェルターボード4枚、英雄コマ16個、放射能マーカー4個、カード類16枚(※カードサイズ:63×88mm)、トークン類312枚、タイル類128枚
ルール説明書1冊