オレは一体誰なんだ?
昨年暮れに訳出した「日本のミニマリズム」で、フランス人デザイナーのB.フェイドゥッティ氏は、「単一のメカニズムに基づいた超シンプルなゲームで、1ダースのコマやカードだけでプレイでき、禅的な美しさを強調したもの」がブームになりつつあると述べている。そこで言及されたのが、『ラブレター』と『クー』と、この作品だった。自身の作品なので手前味噌になってしまうが、『ラブレター』と同様に、手札が1枚しかないゲームである。フェイドゥッティ氏の代表作である『あやつり人形』を、さらにシンプルにしている。
目標は13金集めること。自分の番には、自分の職業を発表し、その職業の能力を使ってお金を集めていく。ただし、自分がもっている職業を正直にいう必要はない。それどころか、自分がどの職業なのかもどんどん分からなくなっていくのだ。
はじめに1枚ずつ配られる職業カードを、みんなで確認をしてからゲームスタート。手番には、自分のカードを見るか、誰かと交換するか、能力を使うかの3択である。最大のポイントは、交換を机の下で行い、交換したふりをして実際は交換しなくてもよいというルールである。ゲームスタートからの4手番は、これしかできない。そのため最初からどんどんカオスになっていく。
AさんとBさんが交換して、BさんとCさんが交換して、Cさんと自分が交換した。その後、自分の前にあるカードは、Aさん・Bさん・Cさんが前にもっていたものか、前と変わっていないかということになる。カードを見るのは、それだけで手番が終わってしまい、1周する頃には誰かと交換されているかもしれない。
能力を使うとは、例えば王様だったら銀行から3金取るとか、道化だったらほかの人同士のカードを交換するとかいったもので、カードを公開する必要はないから、どの職業を宣言してもよい。ただし、本当の職業をもっている人が名乗り出ると阻止されてしまう上に、罰金を支払う羽目になる。でも、みんなも自分の職業があやふやだから、あまり名乗り出なさそうなところに乗じて適当な職業をいってお金を取ってしまうのである。
ゲーム中にどんなことが起こるかというと、同じ職業を名乗る人が次々と出てくる。しかもそのみんなが自分の職業が何であるかはっきりと分からないため、名乗り出ることもしない。「司教です。一番お金をもっている人から2金もらいます」「私も司教です。2金もらいます。」「私も」「1人しかいないはずですが?」この3人は、カードを交換し合った仲である。お互い確認していないことを担保にして、一種の同盟を結んでいるのだ。この変な連帯感がたまらない。
8人プレイで15分ほど。私は農夫で、もう1人名乗り出てくれればもらえるお金が増えるが、誰も名乗り出てくれない。そのうち自分の手札を確認したhataさんが王様を名乗って3金を集めだす。それは本当なのか分からないまま、交換で流れていく王様。きっと自分のところに来ただろうと思っていたが、ゲームが終わって確認すると、自分の前にあったのはもう1人の農夫だった。勝者は、上記の司教同盟をうまく結んで稼いだstさん。
まだ使っていない職業もあるので、人数が多いときにまた試してみたい。
Mascarade
B.フェイドゥッティ/ルポ・プロドゥクシオン(2013年)
2~13人用/10歳以上/30分