今年10月のエッセンで発表されたドイツゲームの新作が、徐々に輸入され始めている。新作が毎年増え続けている中、傾向を一概に捉えることは難しくなっているが、メジャーなメーカーの作品に絞って見る限り、ボードゲームの質が昨年ぐらいから変わってきているように感じる。
95年の『カタン』以降、ドイツゲームは重量級・フリーク向けに傾倒していく。大手はどこでも毎シーズン数タイトルは、90分くらいかかりそうなルールの多いゲームを発売していた。この中には今日でもフリークから名作・傑作と呼ばれる作品が少なくない。
ところが00年の『カルカソンヌ』あたりから一転してライトユーザー・ファミリー向け路線に変わる。今度は60分以内、できれば30?45分くらいで終わるゲームが主流になっていった。しかし、『カタン』の後を追いかけたほとんどのゲームが消えていったように、『カルカソンヌ』の後を追いかけたファミリーゲームのほとんどは、軽すぎるか昔のゲームの二番煎じになってしまう。
そこに05年、デイズ・オブ・ワンダーやイスタリといった国外のメーカーが活躍し、再びルールの多い重量級・フリーク向けのゲームが評価されるようになってきた。ドイツのメーカーも現在それに追随している。ちょうど5年ごとの変遷である。
今年もその流れにあると見てよいだろう。今年は豊作だった、不作だったというようなことを耳にするが、人気調査で高い評価を得るフリークゲームがいくつもあったという意味では、豊作と呼んでよいかもしれない。
幸いなことに、今年の状況はよくなり、ボードゲーム愛好者がとても気に入るようなゲームが相当あった。(『ゲーマー向けボードゲームの再興』)
しかし今は90年代後半ではない。当時発売されていた数々の名作・傑作と同工異曲であってはならず、それらを乗り越えるようなオリジナリティをもっていなければならない。さらにできればファミリー層にも訴えかけていきたい思惑がある。こうして新作が生き残っていくためのハードルは非常に高くなっているだろう。
その解決策として手っ取り早かったのが、イベントカード・アクションカードではないかと私は見ている。しかも、これまでのドイツゲームにはなかったような効果の強いカード。今年のエッセンの新作では、『陰謀』、『大聖堂』、『遺跡探検』、『ヴェネツィアの柱』、『エミーラ』、『イスパハン』、『バトルロア』など。日本で販売されるときはシール貼り付けや対照表の参照が面倒だ。
ゲームの基本構造をシンプルにして、それをカードで思いっきりいじる。特権的に振舞えるのは気持ちいいし、ゲームにメリハリやドラマ性が生まれるようになった。最下位のプレイヤーがカードに望みを託して最後まで諦めないという「最後までチャンスがあること」にも適う。
しかしその分、カードの引き運ばかりで戦略が立てづらくもなった。『カタン』ぐらいのイベントカード効果なら、内容を予想して対応することがまだできる。しかしあまり効果が強すぎれば、同じカードを引いて仕返しするぐらいしか、対抗策はなくなってしまう。こうしてトップ目が強いカードを引いてしまって場がしらけたり、カードが出揃うと飽きてしまったりして、ノリで楽しむバカゲーになるかもしれない。
奇をてらったテーマ設定、テーマと不釣合いなシステム、そして特殊効果の強いイベントカードの乱発。ドイツゲームが行き着きつつあるデカダンス(退廃)の先には、もうそんな方向しか残されていないのかと思うと、少し寂しくなる。