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年間ゲーム大賞ノミネート分析

ボードゲームのアワードとして世界で最も影響力のあるドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)のノミネートが、予告通り28日に発表された。私の予想はほぼ全敗。11の予想のうち、ノミネート入りが郵便馬車のみ、それは俺のサカナだぜが推薦リスト、ケイラスが特別賞。ノミネート+推薦リスト+特別賞の16タイトル中、プレイ済みも6タイトルに留まっている。

例年以上に多くの作品がノーマークだったことは、ノミネート5タイトル中、現時点で一般発売されているのが郵便馬車のみだったこと*1ドイツの大賞予想トトで票が集まらないゲームが選ばれたことからも分かる*2

ノーマークだった原因は、今回ノミネートや推薦リストに多くのゲームを出したメーカーが、リリース情報を事前に流していなかったことが大きい。アミーゴとファランクスを除き、コスモス(ノミネート2、推薦リスト1)、クイーンゲームズ(ノミネート2、推薦リスト2)、ラベンスバーガー(推薦1)など、ゲームの内容が明らかになったのはエッセンやニュルンベルクの事後である。もっとも、コスモスはエラズント、クイーンゲームズは将軍、ラベンスバーガーはセルティカなど看板ゲームがこけて、3番手、4番手くらいが選ばれているので、メーカーが一番驚いているのかもしれない。

さて、どの作品が栄えある大賞に輝くだろうか。シュピールボックスのフォーラムでは今、盛んに議論されている(ドイツ人、好きだなぁ?)。ノミネート作品の中では小箱の海の盗賊に驚きの声が大きい。このことは、大賞予想トトで予想していた人が1人もいなかったということからも分かる。納得できないという声が聞かれるのがジャスト4ファンローマ水道。フリークとしては、郵便馬車がダントツに期待されており、それが無理ならブルームーンシティにということのようだ。その一方で、子どもも一緒に遊べる家族ゲームならば郵便馬車はありえないのでは?という声もあることにはある。

ノミネート5タイトルの対象年令は8才からか10才から、プレイ人数もだいたい2?4人と大差ない。プレイ時間で2タイトルが30分程度、残りが60分程度と二分される。難易度は1が海の盗賊ジャスト4ファン(この2作品がプレイ時間30分程度)、難易度2がローマ水道郵便馬車、難易度3がブルームーンシティ。この難易度評価は、大賞を予想する上で重要な手掛かりとなる。

かつてからノミネート作品は、大賞受賞はまずあり得ないようなジャンル(2人用やアブストラクト)からも選んでバランスを取ってきたが、それは5タイトルのノミネートになってからも続いているように思われる。今回で言うと、初心者的な位置づけ(難易度1)の海の盗賊、アブストラクト系のジャスト4ファン、フリーク寄り(難易度3)のブルームーンシティは受賞可能性が低いだろう*3。とすると残りはローマ水道郵便馬車ということになる。

ここで、フリークに熱狂的に支持されるゲームは大賞を受賞しにくいという法則がある。一昨年のサンクトペテルブルクがそうであり、4年前のプエルトリコがそうだ。これらの作品は、ドイツゲーム賞で1位を獲得している。郵便馬車の作者は奇しくもプエルトリコと同じザイファルト。難易度2とはされているがフリーク向けという声もあり、残念ながら消えてしまいそうだ。郵便馬車が受賞するとすれば、1990年代後半のフリーク路線回帰を審査員が打ち出すことになるだろうが、一般層を広げるという昨今の方針から考えても、その可能性は薄いといわざるを得ない。

となると、残るのがローマ水道だ。難易度は中庸、フリークからもさほど目を付けられていない*4。今までの傾向を見ると、これが一番可能性が高いのではないか。受賞すれば、クイーンゲームズは2003年のアルハンブラ以来、2年ぶり2回目の受賞となる。発表は7月17日。

*1メビウス頒布会ではローマ水道が3月に発売され、今月末にブルームーンシティジャスト4ファンが発売される予定となっている。あとは海の盗賊を残すのみ。すごいヒット率だ。

*2:この予想の参加者はフリーク層だが、自分の好みではなくあくまで審査員が何を選びそうかという主旨で行われている。その予想の中ではマウアーバウアーラムと名誉クレオパトラと建築士魔法の掃除機ハチエンダが上位ながら推薦リストにも入らなかった。

*3:これによってまたもや、クニツィアの無冠の帝王伝説がささやかれることになるだろう。

*4H@LL9000の評価は中の上くらい、ギークでも6.6、play:gameの評価平均は6.2という良くも悪くもない評価がついている。

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『ゲーム的人生論』

おそらく日本で最も名前の知られたゲームデザイナー、鈴木銀一郎氏が1996年に同タイトルで出版した半生記を加筆したもの。実家の履物商からバーテンダーを経て編集者に至る鈴木氏の職歴と、将棋→囲碁→麻雀→SLG→コンピュータ→TRPGに至るゲーム歴をたどりながら、ひたむきにゲームに向き合う氏の人生観を知ることができる。

ボードゲームではディプロマシーが触れられているだけだが、少女野球チームの監督を願われて勝利に導いた「ラムネの味」、母の死をじかに見て死が怖いものではなくなったという「人生はロールプレイング」、風潮に囚われず物事を考え抜く哲学がゲームに必要であることをを説く「DNAと哲学」など、小説家でもある氏の名文にすっかり引き込まれた。

競馬マフィア企業買収ゲームなど鈴木氏の作品を遊んでも、当然のことながら氏がどういう人物かを知ることはできない。何となくクニツィアの影響があるのだろうかと思う程度である。ヒゲを伸ばした、風変わりなお爺ちゃんというぐらいしか知らなかったが、この本を読んで鈴木氏が真のゲームバカ(最上の賛辞のつもりで)であることが分かった。

例えば氏は囲碁五段、将棋三段くらいの腕前だというが、その上達方法は何段という目標を定めて、手筋辞典や詰将棋を延々何百問も解くのである。麻雀では、徹夜して二三時間眠ってまた徹夜とかいう無茶を続けた。ノルマンディー上陸作戦をもとにした自作SLGでは、テストプレイで1ゲーム40時間。テレビゲームは月200時間ということもあったという。

家族もちとは思えないこういう努力と時間のことを氏はSLGばりに「投入量」と呼ぶが、尋常じゃない。もうここまで来ると効率がいいのか?いう疑問も吹っ飛んでしまい、その迫力にただ圧倒される。毎朝4時か5時に飛び起きて制作を始めるというクニツィアもそうだが、ゲームデザイナーたるもの、これぐらい人生をゲームに割かなければ大成しないのかもしれない。

氏はどちらかというと不器用な生き方をしているし、ゲームデザインの方法も虱潰し風でスマートではない。しかし謙虚でひた向きな姿勢は、時として器用貧乏を凌駕する大きな力になる。1%のひらめきと、99%の努力。思い付きでチョチョイのチョイと作られたような作品はオシャレかもしれないが、長い目で見て次世代につながるゲームは、このような姿勢からしか生まれないのだろう。

ゲーム的人生論

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