コレイカ(Kolejka)
ないのに並ぶ
ポーランドで共産主義時代を懐かしむブームが起きているという。レトロカフェとともに爆発的に売れているのがこのボードゲームだ。発売から1年半で2万本が完売し、ポーランド年間ゲーム大賞を受賞。多言語版まで製造されることになった。その多言語版、ドイツ語、ロシア語、英語、スペイン語と共になぜか日本語が入っており、ポーランドのメーカーと代理店契約を結ぶテンデイズゲームズ(東京・三鷹)が緊急輸入した。
商品がないお店に並ぶ。お店にはたま〜に商品が入荷する。1番前に並んでいる人がそれを買って帰る。残った人は1つ詰めて、次の入荷をじっと待つ。お買物リストが揃う日はいつのことやら……。ポーランドで「世界で最も退屈なゲーム」(もちろん、ほめ言葉だ)と呼ばれているそうだ。
君は社会主義経済を生き抜けるか?東欧のボードゲーム、日本語版発売へ(AFPBB News)
NHK地球テレビ エル・ムンド:ポーランド:共産主義リバイバル?
ゲームの流れは、食料品店や家具屋などの好きなお店に並ぶ、カードをめくって出たお店に商品が少量入荷、行列カードを出して列の順番を変える、先頭に並んでいる人から商品を獲得して帰る……の繰り返し。お買物リストを最初に全部揃えた人が勝つ。
ゲームの中心は行列カードである。列は並んだらそのままではなく、「子供がいるんです!」といきなり先頭に割り込んだり、政権批判で後ろに回されたりと順番はめまぐるしく変わる。順番を変えられる前に知り合いにこっそり売ってもらったり、誤配で別の店に商品を移動したりすることもできる。手札の3枚から1枚ずつ、全員がパスするまで。「おっと、ここで誤配がありまして商品はこちらの店に移ります!」「それもまた誤配で商品はもとのお店に!」「と思ったら棚卸のため閉店となりました!」自分が行列の先頭になって、商品が手に入るかどうか、手に汗握る。決して「退屈なゲーム」ではない。
行列に黒いコマが並んでいるが、これはバイヤーで、この人が買った商品は市場に並ぶ。市場では、日によって1:1、または2:1で交換できる。必要な商品でなくても、行列が短かければ手に入れておいて、市場で必要な商品に取り替えるという戦略もある。もっとも、行列が短いお店なんて、すぐに人が集まってきてしまうが。
私の買い物リストは食品と雑貨が多かったので、ひとまず食料品店に集中的に並ぶ。手札の行列カードがよく、ライバルのぽちょむきんすたーさんを容赦なく押しのけて連続ゲット。邪魔をされてもやり返せるカードがあって、その後も順調に集まり、市場で交換しないまま1位。プレイ時間は3人で40分ぐらい。
終わってから近所のスーパーマーケットに行ってみた。お盆前でレジ前に行列がたくさんできるほどだったが、だからといって売り場を見渡せば売り切れになっているものなどない。そんな当たり前のことがありがたく感じられるようになった。
Kolejka
K.マダージ/ポーランド国民記録機関(2011年)
2〜5人用/12歳以上/60分
テンデイズゲームズ:行列
心臓発作ゲーム(Infarkt)
体に気をつけて!じゃないと死ぬよ
今や誰でも気をつけなければいけない生活習慣病。喫煙、糖尿病、高血圧、メタボリック症候群、高コレステロール血症……40歳くらいになると、健康診断で「要注意」が出ない人のほうが珍しくなる。知り合いと会って健康の話だなんて、年寄りのすることだろうと思っていたが、40代どころか、30代からそんな話が出てしまう世の中である。医者から「このままの生活では死にますよ」と、脅しではなく注意されたという話も聞く。
コレステロール、血圧、体重、うつ度、糖尿度、がん度。この6つの値をできるだけ上げないように注意して生き残ることを目指すチェコの人生ゲーム。ゲーム中の会話が妙にリアルで、身につまされること大である。
毎ラウンドはじめにイベントが並ぶのでその中から1つ選ぶ。「誕生日パーティー」「会社で昇進」「交通事故」「離婚」「祖母の逝去」…いいこともあれば、悪いこともある。でもどんなによさそうなイベントでも、健康によくはない。パーティーを開けば、飲み過ぎ、食い過ぎでコレステロールや糖尿が上がるし、会社で昇進すれば血圧やうつ度が上がる。しかし必ず1つは取らなければならない。現在の体調を考えて選ぶ。
次に、このラウンドの行動を3つ決める。会社(収入を得るがうつ度が上がる)、スーパーマーケット(食料を買う)、自宅(うつ度を下げ食事かパーティーをする)、フィットネスクラブ(お金を払ってうつ度と体重を下げる)、薬局(薬を買う)、蚤の市(食料を交換する)から。お金はうつ度と引き換えに手に入るところがせつない。
食料には健康食と有害食があり、いずれも自宅に行ったときに、食料と飲物のセットで出す。緑茶、コーンフレーク、ワイン(ポリフェノール?)などの健康食は自分で摂っていろいろな値を下げる効果。ステーキ、ウォッカ、タバコなどの有害食は、自宅でパーティーを開いて、両どなりのプレイヤーにご馳走する。「さあどうぞ、召し上がれ♥」断ることはできず、コレステロールや体重やがん度がアップ。
抗うつ剤などの薬は単独で飲める。また全体的に少しずつ改善する健康食と違って、ピンポイントで今やばいところを治療できる。必要な薬が手に入らなければ、蚤の市で交換してもよい。薬の安易な服用が、健康の秘訣。何か間違っている気がする。
値が危険領域に入ると、複合的に体調が悪化する。コレステロールが7以上になると血圧も悪化、血圧が7以上になるとコレステロールも悪化。体重は5以上で糖尿度が悪化、うつ度・がん度は5以上でそれ自体が加速。こうなると健康食ぐらいでは焼け石に水。体重以外、いずれか1つでお10に達すると死亡、脱落となる。
誰かが死亡したとき、全員が香典を支払わなければならず、しかも仲間を亡くしてうつ度が上がる。パーティーに招待してヘヴィーな料理をご馳走したひとは責任を感じてさらにうつ度+1。苦しみばかりの人生でも、生き延びた人が勝者だ。
ゲーム開始直後に昇進した塚本さんが、収入をひたすら薬につぎ込んで健康を維持。私はうつ度に気を遣い、あまり働かずに健康食を食べ続けたが体重が抑えきれず、糖尿が悪化。鴉さんは血圧がやばい感じである。ご馳走を振る舞いまくっていたぽちょむきんすたーさんが、その分自分の健康管理に手が回らず、最初に高コレステロールで心臓発作。残る3人の戦いは、塚本さんがとどめのパーティーで鴉さんと私にとどめを刺し、余裕の1位となった。
「そろそろ血圧がやばい感じだなあ」「早めに抗うつ剤を飲んでおくか」など、ゲーム中の会話が生々しい。ゲームが終わっても、ベーコンやスクランブルエッグに至るまで、「これを食べると体に悪いかな」などと思ってしまい、気がつけば体重が少し減っていた。ダイエットしたい方におすすめ。
Infarkt
V.ブルマー/チェコボードゲームズ(2011年)
2〜5人用/10歳以上/45分
ゲームストア・バネスト:心臓発作ゲーム