『デジタルゲームの教科書』

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ゲーム産業や流通、歴史、国内外のゲームシーン、ネットゲームやケータイゲームなどの新しいジャンル、テクノロジーなど全24テーマについて、各分野のオーソリティが具体例を踏まえて論じる。テーマの幅広さからも分かりやすさからも、まさに教科書である。ゲーム業界を志す人だけでなく消費者としても、製品の背後にあって普段は意識しないことを概説的に知ることができる。
ボードゲームに関しては「ボードゲームからデジタルゲームを捉える」(三宅陽一郎氏)という独立した章で20ページにわたって取り上げられている。ボードゲームのことを知らない人のために簡単な業界展望を行い、それからIGDA(国際ゲーム開発者協会)において行われた鈴木銀一郎氏の講演をもとに、特にデザイン面からデジタルゲームとの対比でボードゲームを論じる。そして身体性、場を共有する喜び、場の一回性など、ボードゲーム特有の要素が、デジタルゲームでは吸収・再現しきれないものとして残っていると結ぶ。
ほかにもARG(Alterenate Reality Game)はすでにデジタルゲームの枠組みを超えており、ボードゲームのもつアナログ性と融合している部分もある。ARGについては、オフィス新大陸が『RYOMA:the Secret Story』というタイトルを手がけており、国内のボードゲームシーンとどこかでリンクする可能性もある。
あとはおおむねデジタルゲームの話だが、同じゲームである以上、ボードゲームの話としても通用するところが少なくない。例えば、「転換期を迎える国内ゲーム市場」ではゼロ年代に起こったパラダイムシフトとして、ライトユーザー層の流入、価値の多様化、コアユーザー向け路線の縮小などが挙げられているが、これはドイツ年間ゲーム大賞がファミリー路線に舵を切ったのと規を一にしている。
また「海外産のゲームの日本展開における課題」では、翻訳の内容やリリース日などがあるが、日本語版が次々と発売されているボードゲームでも課題になりつつある。どこまでローカライズしたらよいかということもそろそろ考えなければならないだろう。
「ゲーム業界に広がるインディペンデントの流れ」では同人・インディーズゲームの特徴として志向性(即自的か手段的か)、自律性、柔軟性、開発スピード、ユーザー任せのデバッグ、流通、ユーザーとの距離、売上という8つの観点が述べられており、規模は比べ物にならないとしても、先月のゲームマーケットで発売された国産ゲームにも該当する点が多い。現在の傾向として完成度が上昇し、新規参入が難しくなっているというところもよく似ている。
このように、デジタルゲームに親しんでいる人だけでなく、ボードゲーム愛好者でも読むところはたくさんある。500ページ以上という厚さで2,500円はお得。
ドイツでは第1回ドイツ・ゲームデザイナー会議の発表をまとめた”Spiele entwickeln”(2006年)という本がある。フリーゼ、カサソラ、クラマー、マイヤーなどが自身のゲーム開発理論をシステマチックにまとめている(ドイツ語だが)。日本でも、もう少しボードゲームの認知度が上がって『ボードゲームの教科書』が出たらなあ、などと夢想した。

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