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日本語ルールのクオリティ

翻訳者の記名について(Board Game Case Studies)
ボードゲーム愛好者は、「しなければならない」のか「してもしなくてもよい」のか、どのカードでもいいのか特定のカードなのか、1つだけか複数でもよいのかなど、細部を非常に気にする。それが翻訳で明らかでないと原文にあたり、違っていると悪い翻訳ということになる。
問題の多くは、翻訳者以外の人が一度読むだけでほとんど解決する。訳文が曖昧だったり、まったく別の意味で取られることを、翻訳者はしばしば気づかないものだ。したがって、発売前に第三者によるチェックを徹底してほしいという結論になるわけだが、翻訳だけに帰せられない問題もある。それは原文のクオリティだ。
一般にドイツのメジャーメーカーは、論理性を重んじるお国柄なのか、長年のノウハウの蓄積があるのか、ルールの構成がしっかりしており、細部にわたって曖昧な箇所がない。これがオランダ、イタリア、アメリカにいくと怪しくなる。『ダコタ』はルールとサマリーシートで食い違う箇所があったし、ファランクスのゲームはゲームの勝利条件が最初にしか書いていない。
また、ドイツゲームの英語版では、英訳にするときの誤訳もある。誤訳とまでいかなくとも、ドイツ語から直接日本語に訳すのと、英語を経由するのとでは、ニュアンスがだいぶ変わってしまう。ドイツ語と英語のルールが両方あるとき、私がドイツ語から訳すのはそのためである。
これは私の印象だが、ドイツ語より英語、英語より日本語のほうが曖昧な表現を許すような気がする(論理学者によれば、日本語は論理的な言語ではないというのは間違っているそうだが)。日本語で厳密に書こうとすればするほど、法律の文章のように分かりにくくなっていく。読みやすさと正確さの両立は難しい。
それからドイツでもマイナーメーカーはいい加減なものがある。ましてやドイツ以外のマイナーメーカーのルールには、注釈なしではゲームにならないものもある。普通に翻訳しても読めるドイツのメジャーメーカーと、FAQなどを徹底的に織り込んでリライトしなければならない非ドイツ・マイナーメーカーでは、どちらの翻訳者が讃えられるべきだろうか。
最後に、今年は発売前に日本語ルールを公開するボランティアの有志が出ていることは歓迎すべきことである。今は翻訳権がどうのこうのという時代ではない。先に公開された日本語ルールを見て、訳語や表現を検討すればよりよいルールができあがるだろう。今回ホビージャパンの翻訳を請け負ったが、すでに公開されているものがあったので、ドイツ語・英語・日本語を相互参照できたのはとても助かった。販売される翻訳は、公開されているものよりクオリティが高くなくてはと気合を入れている。

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ルナ(Luna)

集え、ルナさまのもとへ

7つの島と中央の神殿をめぐって月の神官の祭に参加し、名声ポイントを集めるゲーム。ローゼンベルクの収穫3部作の1つ『洛陽の門にて』を昨年発売したホールゲームズの第2弾で、フリーク向けで評判の良いS.フェルトを起用した。
基本的な目標は、月の神官ルナがいる島で最多数を取ることと、7つの島に祭壇をできるだけたくさん建設することと、中央の神殿で儀式を行うことの3つ。いずれも周到な用意が必要となる。
システムは「ワーカームーブメント」と名付けられているが、ダイナミックなアクションポイント制である。島の上にいる自分のコマでアクションを行い、アクションに使ったコマは島のわきに降りる。コマはだんだんと島の上からなくなっていき、一定数パスをしたらラウンド終了。たくさんアクションしようと思っても、ほかの人が次々パスをするとすぐ終わってしまうので、ほかの動向をよく見ておこう。
アクションは13種類。島のチップを取る、コマを増やす、祭壇を作る、別の島に移動する、神殿に入る、神殿の中で儀式を始める、評議員を昇格する、パスするなど。はじめはその数の多さに戸惑うが、サマリーシートに図解入りで説明されており、得点への道筋が見えてくると迷わない。
1つ目の目標、月の神官ルナは毎ラウンド、7つの島をぐるぐる回る。彼女がいる島で最多数を取るには、前のラウンドからコマを集めておかなくてはならない。しかも、島のわきにいるコマは含まないため、別のアクションができない。ほかの人と競争になるときついが、得点が大きいので報われる。
一方、背教者も7つの島を回っており、この島にいると失点になってしまう。背教者のいる島から脱出できるかもポイントだ。
2つ目の目標である祭壇を作るには、まず祭壇の島でチップを取り、ルナや背教者と同じく7つの島を回っている親方のいる島でコマを使う必要がある。これだけの条件を揃えて毎ラウンド1つずつ作っていくのは相当難しいが、これまた得点が大きい。
3つ目の目標である中央の神殿へは、7つの島から神殿の周りの小道に行き、小道から神殿に入るという2段階が必要である。マークが同じ島からしかいけない上に、早い者勝ちで、しかも神殿の中では後から来たコマに追い出されることもあるので油断できない。
このように、どの目標も複数のアクションの積み重ねが必要で、限られたコマをうまくやりくりする必要がある。ラウンド数が少ないので時間は長くないが、毎回やりたいことはたくさんあるのにコマの足りなさに悩まされるゲームだ。
序盤から神殿狙い。後から追い出されまくったが、あらゆる手を尽くして祭壇をほぼ毎ラウンド建設。幸いルナの得点が期せずして転がりこんで1位。3人プレイだったので手を広げられたが、4人だったらもう少し得点を絞らなければならないだろう。悩みどころいっぱいの重量級ドイツゲームは数が少なくなっているので、こういうゲームがリリースされ続けているのは嬉しい。
Luna
S.フェルト/ホールゲームズ(2010年)
1〜4人用/12歳以上/プレイヤー人数×25分
ホビージャパンから発売予定