今年のオーストリアゲーム大賞「シュピール・デア・シュピーレ(ボードゲームの中のボードゲーム)」がトランスヨーロッパに決まった。トランスアメリカのマップだけを変えたもので、ルール変更はほとんどないことを考えるとなぜこれが?という疑問を禁じえない。
過去の受賞作を見ても、これまでニューエントデッカー、プエブロ、アーサー王、頭脳絶好調が受賞してきたが、同じく焼き直しのニューエントデッカーと、発売するかしないというタイミングでインパクトだけで受賞してしまったアーサー王は、少なくともドイツではあまり評価されなかった。
オーストリア唯一のボードゲームメーカーと言ってもいいピアトニクについても、ドイツでの評価を確立するに至っていないように思われる。日本へは代理店の関係で入りにくいらしいが、話題になったのは古代ローマの新ゲーム、ハニーベア、香港などクニツィアの作品と、あと一部だけで、特に最近はたくさん発表しているのに評価が低い(フリント船長の財宝はよかったが)。
ここに、同じドイツ語圏でありながらオーストリアにおけるボードゲームの毛色の違いを見てしまう。カタンなどはそこそこ人気があるようだから、ボードゲームの理解度が低いというわけではないだろう。そうではなくて、オーストリア人がボードゲームに求めるものがそもそも違うのではないか。ドイツ年間ゲーム大賞でオーストリアゲーム大賞に入賞したのは、過去5年でカルカソンヌだけだった(審査員賞なので、意図的に外すということはありえる)。
オーストリアゲーム大賞を受賞し、ドイツでも評価されたプエブロと頭脳絶好調は、シンプルさが大きな売りだ。ルールを読まないと遊べない点で敷居が高いボードゲームにとって、シンプルであることが一般に受け入れられる必須条件ともいえる。しかしシンプルでありながら新しく、かつ楽しいボードゲームを作るのは実はかなり難しい。ピアトニクの不振もそのあたりにありそうだ。
翻ってみれば日本も、いやドイツでさえ、今この苦しみにはまりこんでいるような気がする。シンプルなゲームを作っても、面白くなければ売れないのだ。だからテーマで勝負したり、いっそのことフリークゲームに回帰したり、暗中模索が続けられている。
【後日談】アカデミーのカサン氏に「どうして焼き直しのトランスヨーロッパが?」という尋ねたところ、こんな返事が返ってきた。ゲームを選ぶという立場にある人は、これぐらいの自信がなければ。
「我々審査員は我々の決定基準に基づいてトランスヨーロッパに決定しました。この決定に釈明は必要ありません。」