文化盗用の境界線

(月報司法書士11月号掲載)

日本がテーマのフランスゲーム

フランスのボードゲームデザイナー、A.ボザは親日家として知られる。何度も来日しており、『花火』『東海道』『タケノコ』『ガイジンダッシュ』など、日本をテーマにしたボードゲームをたくさん発表している。

その中でもとりわけ『花火』は、ドイツ年間ゲーム大賞にも選ばれた氏の代表作である。花火師チームとなり、みんなで協力して見事な花火を打ち上げることを目指す。自分の手札だけ見ることができないという制約の中、お互いにヒントを出し合い、順序よくカードを出していくところが、阿吽の呼吸で花火を打ち上げているような気持ちにさせる。

他にも日本をテーマにしたボードゲームは欧米で人気で、毎年数多く発売されている。日本人としては嬉しいばかりだが、欧米のゲームデザイナーがウィキペディアだけに頼り、間違った日本の姿を描いてしまうことに、文化盗用を指摘する人もいる。

敬意なく流用される恐れ

文化盗用とは、狭義にはかつて支配的な立場にあった文化圏の人が、抑圧されたマイノリティの服装などを流用することで、例えばネイティブアメリカンの羽帽子を非ネイティブアメリカンがかぶったり、アフリカンの象徴的なドレッドロックス(何本もの束に絡めた髪型)を白人がしたりすることを指す。植民地時代に搾取された苦い歴史や、それに起因する差別問題と関連付けられ、「盗人猛々しい」と批判の対象になる。

広義には、過去に支配・被支配関係がない文化圏同士でも、十分な理解や敬意なく流用すれば文化盗用とみなされることもある。日本人の多くは海外の人が和服を着たり、日本アニメのコスプレをしたりしても、不快に思わないどころか嬉しくさえある(海外ではそれだけで批判されることもある)。しかしアメリカで下着ブランド名に「KIMONO」という名前が付けられたときは「着物は下着じゃない!」と日本からも抗議の声が多く上がったし、逆にお笑い芸人が顔を黒塗りメイクにし、アフロヘアにしたときには、海外から人種差別の批判が多く寄せられた。

欧米出版社の取り組み

筆者は10年ほど前、ドイツのボードゲーム出版社が江戸時代をテーマにしたボードゲームを制作中だと知らされ、おかしいところはないか早い段階でチェックさせてほしいと申し出たことがある。しかしそれは叶わないまま、発売された作品を見て愕然とした。ゲームに登場する豊臣、細川、鍋島、前田、真田を「部族」と呼び、お寺にお参りすると「祝福」チップがもらえる。僧侶の「ヒロ」を誘拐したり、芸者の「マリコ」を暗殺したりもする。日本にはツッコミ文化があるので、勘違いを笑い飛ばして遊べるが、制作スタッフに日本人が入っていないのは明らかだった。

昨年、ドイツのボードゲーム雑誌で日本のボードゲーム業界が紹介されたとき、挿絵に富士山やセーラー服と共に、なぜかアオザイ(ベトナムの民族衣装)が描かれていた。それを指摘したときには、編集部から今後は十分なチェックに努めたいという謝罪の返事があったが、これも日本人が1人でもチェックしていれば防げたミスである。

近年、欧米のボードゲーム出版社は過度ともいえるぐらい対策を強化している。植民地時代や奴隷制度が登場する歴史ものを封印し、代わって動物・SF・ファンタジーが主流になっている。アフリカ人に「Nワード(黒人への差別用語)」を使ったとしてイタリア人のボードゲームデザイナーが契約を打ち切られた。プエルトリコを描いたボードゲームは、褐色のコマが奴隷を想起させるからといって紫色に変わり、さらにプエルトリコ系のユーチューバーに時代考証を依頼してスペインから自治権を得た時代に舞台を変更した。一見、文化の盗用とは無縁に見えるファンタジーゲームでさえ、文化コンサルタントを雇って、意図せず現実の文化と関連付けられる要素がないかチェックしてもらうまでになっている。

試行錯誤で理解を深める

異文化の理解は大切だが、多少の勘違いも許さないような不寛容な社会では、逆に多様性が損なわれてしまう。正義を振りかざして他人を批判することが目的になれば(「ポリコレ棒で殴る」などと揶揄される)、批判を避けるため当たり障りなくすることが最適解になってしまう。異文化の理解は、批判や失敗を恐れて何もしないよりも、試行錯誤を繰り返す中で深まっていくものだろう。

異文化理解というと大仰に感じるかもしれないが、隣人の理解がその始まりである。家族、友人、近所の人たちの考えは、自分の考えと違って当たり前。違うことに不寛容にならず、すれ違いを恐れないで理解を深めていきたい。

『ito(イト)』という最近大はやりのカードゲームは、1~100の数字カードの中からランダムに1枚ずつ各プレイヤーに配られ、小さい順に出すことを目指す協力ゲームである。ただし配られたカードの数字は、「食べ物の人気」などのテーマ(数字が大きいほど人気がある食べ物)で伝えなければならない。皆に伝わるよう、自分の常識をフル動員したつもりが思い切りずれるのも、その反対に感性が見事に一致して成功するのも楽しい。

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