グラバー(Glover)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

詐欺と信頼回復
glover.jpg
世界遺産で長崎の観光名所となっているグラバー園。その中心となっている建物は、スコットランド出身の商人トーマス・ブレーク・グラバー(1838-1911)の元邸宅である。幕末の長崎を舞台に、彼と取引をして武器や艦船を手に入れ、名声を競うボードゲーム。長崎在住で、当サイトで4コマ漫画『ボドゲde遊ぶよ!!』を連載している赤瀬よぐ氏の作品で、第2回東京ドイツゲーム賞を受賞してニューゲームズオーダー社から製品化された。現代のユーロ系ゲームではほとんど見られなくなった交渉ゲームである。とかく重くなりがちな交渉を、非公開の要素を加えることでライトに仕上げている。
ゲームはラウンド制で、各ラウンドは商品の生産、交渉による交換、そして揃った商品による新しい能力や得点の獲得という順で進む。自分が生産できる商品は基本的に1種類だが、新しい能力や得点を獲得するには何種類も揃えなければならない。そこで積極的な交換が必要となる。
交換は、各ラウンドに1人1回ずつ、ほかの誰かと行うことができる。まず山札から「交渉カード」を3枚引き、1枚を捨てて1枚を山札に戻し、残り1枚を裏にして自分の前に置く。この「交渉カード」がゲームの心臓部分といっていいだろう。
自分が出せる商品を提示し、ほかのプレイヤーに交換をもちかける。「白3個出すよ。青以外何でもいいから3個ほしい」「白4個出してくれたら、もう1個つけられるけど」「3個全部違う色で出せるよ」このあたりの交渉は自由。商談がまとまったら、問題の交渉カードをオープンする。
交渉カードには、相手に商品を1個返す「謙虚」から、受け取るだけ受け取って相手に商品を渡さない「完全詐欺」まで6種類があり、これによって交換内容が変わる(ただしどんな場合も相手には1個、商品が保証される)。この交渉カードが商談前には伏せられていることで、ブラフの要素と計算できないゆらぎが生まれる。
交渉カードの内容は見せなければ相手に伝えてもよいが、実は「粗悪品」なのに「優良品」だなどと嘘もつける。あるいは、「ちょっと信頼できないですけど、損はさせません!」などとぼかした言い方にしてどのように受け止めるかは相手次第にしておくこともできる。細部まで詰めることができない分、気楽に交渉でき、会話も盛り上がり、交渉カードの公開によってドラマが生まれる。
さらに、交渉カードによって「信頼度」が増減する。信頼度が高くないと、いくら商品を多く集めてもグラバーさんは交換に応じてくれない。最も得点の高い「艦船」(9点)は信頼度4以上が必要で、最高の信頼度5まで上げると、毎ラウンド1点の「礼状」が無料で受け取れる。したがって悪い交渉カードを出して儲けた場合には、別の手段を使って信頼度回復に努めなければならない。
信頼度を回復するには商品を支払うか、毎回無料で信頼が回復する「洋風邸宅」を建てるという方法がある。しかし「洋風邸宅」を建てると「信頼度を下げてもいいんだな」と判断され、交渉フェイズで警戒されることになるだろう。このように、「信頼度」と別に、そのプレイヤーのメタ信頼度がこのゲームにはある。メタ信頼度を失ってでも商品を増やすか、薄利でも誠実な商売をするか。
5人プレイで60分。相手は損をしない交渉カード「不正入手」を序盤に使ったため信頼度は低め。そこで早々と「洋風邸宅」を建てて信頼回復に努めたが、最高値まで上がり、礼状を増やす「乗馬倶楽部」を使えるほどになった。そうなると「洋風邸宅」は要らなくなるもので、その分ほかの施設を使えず商品の数も増えなくて最下位。今回は序盤に生産能力を上げて、同じ色でも商品をたくさん作っておき、複数の人との交換に使うというやり方で鴉さんが1位。
施設タイルはゲームごとに変えることができ、ラウンドごとに交替してプレイヤーにさまざまなメリットをもたらす協力者も変わるので、遊ぶごとにゲームの展開は変わる。交渉が重くなく、また遊んでみたいと思う作品だ。
グラバー
ゲームデザイン&イラスト・赤瀬よぐ/ニューゲームズオーダー(2018年)
3~5人用/10歳以上/60分