ベルギーのボードゲーム製造会社カルタ・ムンディがシュピール1日目の夕方に開いたセミナー「You create it, we make it.」を聴講した。
カルタ・ムンディはヨーロッパのボードゲーム製造最大手で、各社の印刷・裁断・箱詰め・梱包までを行い、『アグリコラ』も『ドミニオン』も、ここが製造を担当している。近年はボードゲームの製作数が増え、キャパシティいっぱいいっぱいという状況だ。今回のシュピールでもぎりぎり間に合ったケースが相次いだという。
そのカルタムンディのセミナーの目的は、iPadなどのデジタルデバイスを使った新しい技術を紹介し、デジタルと融合したボードゲームを開発するパートナーを探すものである。すでにタッチパネルで認識できる「iCards」を開発し、タッチパネルの上にカードをかざしたり、移動したりして遊べるゲームも制作している。
自社の宣伝ばかりではいけないと思ったのか、動画レビューサイト「Dice Tower」のT.ヴァーセル氏と、ルックアウトシュピーレのK.フランツ氏が招待されて短い講演を行った。
T.ヴァーセル氏は、スマートフォンをひとつのギミックとして捉え、新しいタイプのゲームを生み出し、デジタルゲームからの愛好者を呼び込む可能性を提示。特にスマホ世代には、デジタルデバイスとのリンクが必要であると説いた。
これに対しK.フランツ氏は「何で私が呼ばれたのか分からない」としつつ、ゲームをアップグレードするのは技術ではなく楽しさが先立たなければならないといった。『アルケミスト』(チェコゲーム出版)でスマホのアプリを使うことでゲーム進行をスムーズにした例を挙げつつ、ダイスを振るといった手続きは「感情的な要素」があるためアプリにしたくないことや、デジタル処理が早くなりすぎて慣れない人にとってはダウンタイムが目立ってしまう恐れを指摘した。
イラストはコンピュータで作画され、宣伝や口コミはネットで行われるというように、ボードゲームの周辺ではすでにデジタル化がどんどん進行している。それがさらに進んで、『アニュビスの仮面』のようにボードゲーム自体にもデジタルデバイスが中心的に利用されるケースが出てきた。しかしこの新しい技術は、アナログゲームの性質と相容れない部分もある。今後の活用方法について考えると、ゲームとは何かという原点に立ち返る必要も出てきそうで、なかなか興味深い問題である。