フランスのボードゲームデザイナー、B.フェデュッティ氏はFacebookの投稿で、フランスで本業をやめてフルタイムのボードゲームデザイナーになる若者が増えていることに警鐘を鳴らし、本業をやめないでボードゲームを制作することを勧めている。
ギガミック社で話し合った話題のひとつに、「1、2タイトルが中ヒットした後、すべてを投げ出してフルタイムになる若いボードゲームデザイナーが増えている」ことがあったとフェデュッティ氏。ボードゲーム市場では供給が需要を上回るスピードで増加し、すでに20年前から飽和状態にあり、継続して収入を得られる見込みは低いという。BGGの登録ボードゲーム数は、現在年間5000タイトルを超えているが、20年前はその3分の1程度だった。
フェデュッティ氏は昨年の記事でも、『操り人形』『インカの黄金』『マスカレード』『ドワーフキング』の印税が収入の8割を占めている現状を公開し、「もし私のカタログにこの4つの古い作品がなかったら、つまり市場が今ほど乱立しておらず、居場所を見つけるのがずっと簡単だった時代に初めて出版されたゲームがなかったら、私はごくわずかな収入しか得られなかっただろう」と述べている。「ボードゲーム制作は執筆や音楽よりも時間のかからない活動であり、本業をしながら行うことができる」というフェデュッティ氏が高校教師をやめたのは昨年、62歳のことである。
逆説的だが、ゲーム制作は比較的少ない作業時間で済む活動である一方、時間を費やせば多くの仕事ができるわけではない。ボードゲームデザイナーは、文筆業よりもはるかに創作スピードが早いが、印税は同様に受け取れる。しかし、より多くの時間を割いたからといって、より多くのアイデアを思いつくわけでも、より効率的になるわけでもない。ボードゲーム制作は、アイデアが浮かんだら頭の片隅にサッとメモを取り、空いた時間にそれを形にするため、文筆業と異なり本業と両立しやすい仕事なのだ。遊び心にあふれた創造に誘惑されるなら、私はそのような進め方を勧める。そうすれば、自分の実力が十分かどうか、そしてもっと重要なことだが、自分の運が十分かどうかわかるだろう。(Des chiffres Figures)
フェデュッティ氏は引き続きFacebookの投稿で、来週アメリカで開催される「GAMAエキスポ」にて、このテーマでディスカッションするといい、ボードゲーム制作をフルタイムジョブにしないほうがよい理由を4つ挙げている。
- 金銭的なリスク「今売れているゲームがあるからといって、10年後も売れているとは限らないし、他のヒット作を出せると限らない。ヒットすることはあるかもしれないが、ボードゲーム市場は過密化しており、その可能性はますます低くなっている」
- 情熱を職業にする危うさ「何の意味もないところがゲームのよさであって、社会的・政治的に役立つ活動をしている時や、食べていけることをしている時の方が精神的に満足できる」
- 創作活動は孤独「逆説的なことだが、ボードゲームは社会的な活動だが、ボードゲーム創作は孤独な活動だ。話をする仕事仲間がいなくなってしまう」
- AIの可能性「今のところ、AIはごく平凡なゲームしか作れないが、それも長くは続かないかもしれない。配管工事や農業の方がずっと確実」
日本ではゲームマーケットの存在によって制作物を発表するハードルが低いため、作品が国内外の出版社の目に止まってメジャーデビューする前からフルタイムになりたいデザイナーは、フランス以上にいるかもしれない。しかしプロ・アマを問わず入れ替わりが激しい中で、一時的な売れ行きに左右されず継続的に創作活動ができるよう、「うっかり離職」を防ぎ、本業との両立や、別業務との複業化などさまざまな可能性を検討してほしい。
カナイセイジ氏、林尚志氏と対談するフェデュッティ氏。ゲームマーケット2018大阪