ボードゲームの初心者未満

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20年ほど前のエッセイで、ボードゲームで初心者/経験者というタイプ分けはあまり意味がないのではないだろうかという考察を行った。現代のボードゲームがルールがわかりやすく、運の要素もほどよくあって経験がなくても勝つチャンスが十分にあるように作られているからで、「初心者はルールが多いと分かりづらいだろうから、簡単なゲームをさせよう」という余計な親切心が、物足りなさや見下された感じを与えてしまう可能性もある。つまり、『カルカソンヌ』ぐらいのミドル級(プレイ時間30分前後)なら、誰に勧めても楽しんでもらえるのではないかと考えていた。

初心者論は愛好者間で定期的に議論される話で、そのたびに人それぞれであって「初心者」と一緒くたに括らないほうがよいという結論になる。しかし近年、ルール説明30秒、プレイ時間5~10分ほどの超ライトゲームがたくさんリリースされるのに伴い、それしか遊ばない層も出現し、「初心者」は一層複雑になってきた。以下のツイートも「初心者」が一様でないことを物語っているが、それと同時に、興味を持った人におすすめするゲームの難しさも浮き彫りになっている。

『カルカソンヌ』はともかくとして、『ドメモ』はボードゲームでは相当ルールが簡単だが、ルールが簡単か難しいかよりも、思考ゲーム自体が求められていない可能性も考慮に入れておかなければならない。一方で、最初からミドル級の思考ゲームを出したほうが良い場合もあって、ちょっと興味を持った知人に、何を紹介するかは永遠の課題である。自分の中の「定番」「鉄板」は絶えず見直しておいたほうがよい。

超ライトなゲームだけを遊ぶ「層」といっても多様かつ流動的であるため、クラスタというよりもマルチレイヤーと捉えたほうがよいかもしれない。

  • 受動的で誘われたら付き合いで遊ぶ「ノンプレイヤー」
  • 話題になっているものはとりあえずやってみる「ミーハー」
  • みんなで盛り上がれる楽しいことを求めている「パリピ」
  • 特にやることもないので来ている「暇つぶし」

この方たちの多くはボードゲーム愛好者(ボードゲームを趣味とする人)ではないという点で共通する。おそらく「初心者」「入門者」「ビギナー」ですらない。ボードゲームを(趣味として)始めたという意識も、継続的に遊んでいるという意識もないからである(それだけボードゲームは日常的なものになっているともいえる)。「初心者未満」「初心者以外」というべきか。

このような言い方をすると、マニアがそのような人たちを見下している/排除していると感じる人もいるかもしれない。しかしそのような意図は全くないどころか、ボードゲーム市場の拡大を牽引している層として、愛好者にとってもありがたい存在だと思っている。かつてハンス社(ドイツ)が「『カルカソンヌ』の売上でゲーマーズゲームを作っている」と言われていたが、今や日本でも『ito』や『ドブル』の売上で、昔だったら個人輸入するしかなかったようなゲーマーズゲームの日本語版がリリースされている。また、その中から一定の割合でボードゲーム愛好者になる人もいるだろう。変なヒエラルキーができて閉鎖的になった趣味に将来はない。

問題は、(ガチな)ボードゲーム愛好者が、スタンスもプライオリティも異なる人たちと、どのような接点をもてるかということである。愛好者にとって遊び相手が増えることは嬉しいが、趣味の押し付けになってしまっては好ましくない。大切なのは相手の興味・関心を慎重に見極めて、それ以上にならないような出し方をすること。上記のような人たちの多くはボードゲーム自体にさほど興味がないので、特に親しい間柄でもなければ、控えめな出し方をしたほうがよさそうだ。例えば、

  • 相手から話題を振られない限り出さない
  • さらりと「いろんなボードゲームがあるんですよ」
  • テレビで紹介された・有名人が遊んでいた話
  • 近くにあるボードゲームカフェの話
  • 「興味があったら今度お誘いしますよ」ぐらいで閉める

ミドル級でも楽しんでくれる可能性もあるが、低く見積もっておくのがよい。ボードゲームの世界はライトとヘビーの二極化が叫ばれて久しいが、趣味ではない人も含めると、もはや違う世界に住んでいるといってもいいほどかけ離れている。「混ぜるな危険」の可能性もなくはないが、ほどよい接点を見つけてつながることを意識しておきたいものだ。

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