今年7月にオープンした山形・酒田の「シェ・ピエール」を訪ねた。フランス出身のピエール・ガンバリーニ氏とガンバリーニ杏子氏が営む異色のボードゲームカフェである。
昭和の雰囲気を漂わせる中心部のアーケード街にオープン。もとは靴屋さんだったという
地方都市のアーケード街といえば、今やシャッター街の代名詞となっているが、酒田の「中通り商店街」はまだ頑張っている方だ。県内唯一となったデパート「マリーン5清水屋」を中心に400mにわたるアーケード街が形成されており、金物屋、文房具屋、八百屋、飲食店などが営業し、人も歩いている。その一角にオープンしたボードゲームカフェは、まるで昔からあったかのように周囲に溶け込んでいる。
ガンバリーニ夫妻。日本人でも覚えやすい姓はボローニャ語で「海老」の意味があるという
酒田は日本海沿岸の県北に位置し、『おしん』の奉公先で有名になったところである。夫妻が酒田に移住したのはさまざまな偶然が重なっている。フランスで映画制作を学んだ後、アジアに興味があってタイにやってきたピエール氏。貯蓄のためフランスに帰国し、次は日本に行こうと思っていたところで杏子氏と知り合う。最初は東京に住み、投資会社に勤めていたが、通訳の仕事で酒田の人と知り合いになり、「今度遊びに来てよ」との誘いを本気にして酒田を訪れたところ、大のお気に入りに。杏子氏も呼び寄せて移住することになった。
酒田は、ピエール氏の故郷である南フランスのマントン/Menton(地中海沿岸、イタリア国境そばの港町で、国際ゲームフェスティバルが行われるカンヌとも近い)を思わせる港町であること、飲み屋とかでよそから来た人に気軽に話しかけてくる商人の町であること、そして広大な庄内平野をバックにした美味しい米の町であることがミックスして、好きになったという。
南フランスのハーブと塩を使ったポテトソテーに、フランスの白ビールを提供
ピエール氏は現在38歳。親日家で知られるA.ボザ氏と同年代である。7~8歳で2時間級の戦略ボードゲーム『fief 2』を遊び、10歳ころからは『ウォーハンマー』を経由してTRPGに移った。タイ滞在で10年間のブランクがあって、来日した8年前からはキックスターターで2万円クラス超大箱ボードゲームを入手するようになる。「デザインするときのストーリーやゲーム制作のプロセスを含めてのパッケージを考えれば、2万円は高くない」とピエール氏。店内には国内ではまずお目にかかれないキックスターター発のボードゲームが100タイトルほど並んでいる。
キックスターター発の超大箱ゲームがずらり
もっとも、英語のテキストがびっしりで1ゲーム5時間もかかるようなゲームがお店で遊ばれることはなく、閉店後の午前0時からピエール氏が夫婦かソロプレイで『セブンス・コンティネント』などにチャレンジしているという。根っからのガチゲーマーである。
もうひとつ、興味を引くのが昭和のボードゲームだ。オークションのジャンク品などで集めたというボードゲームも、見たことがない品々が並ぶ。ピエール氏は大の昭和好きであり、できることなら60~70年代の日本にタイムトラベルしてみたいという。「百恵ちゃん」が大好きで、店内ではレコードを流している。これっきりこれっきりこれっきりもう、これっきーりですか~~♪ シェ・ピエールがこの商店街に馴染んでいる理由がわかったような気がした。
『運命ゲーム』は任天堂のボードゲーム。そして「百恵ちゃん」
もちろん、キックスターターのボードゲームと、昭和のボードゲームばかりではない。市内の大学生や年配の夫婦が訪れて遊ぶのは『オセロ』『ジェンガ』から『ディクシット』まで定番ゲームで、そのような作品も充実している。しかし気がつくと、ピエール氏のお勧めでキックスターターの小箱を遊んでいるというわけだ。珍しいゲームが遊びたい愛好者はGoToしてみてはいかが。
ボードゲームカフェバー Chez Pierre
山形県酒田市二番町9-17/TEL:090-7561-5844
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