『街コロ』SdJノミネートは日本初か2回目か

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『街コロ』が今年のドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres、以下SdJ)にノミネートされた。まことにめでたいことである。デザイナーの菅沼正夫氏、ドイツ市場に紹介したヤポンブランドの健部伸明氏をはじめ、関係者のご労苦に深く敬意を表するものである。

実はSdJが始まった1979年、日本の作品が候補になったことがある。『将軍(Shogun)』という2人用ゲームで、松本テルオ氏がデザインし、エポック社から発売されていたものをラベンスバーガー(ドイツ)がドイツ語版にした。磁石を使って移動力が変わる変わった将棋である(TGiWレビュー)。そこで今回のノミネート、日本初なのか、『将軍』以来36年ぶり2回目なのかはっきりしない。というのも、選考方法が当時と現在では異なるからだ。

SdJは、選考方法でいうと3つの時代に分けられる(詳しくは拙著『ボードゲームワールド』26ページ参照)。
第1期(1979~1998):10タイトル程度のAuswahlliste(候補リスト)を発表、その中から大賞を決定
第2期(1999~2003):まず12タイトル程度のAuswahllisteを発表、その中から3タイトルのNominierungliste(ノミネートリスト)、そして大賞を決定
第3期(2004~現在):3~5タイトルのNominierunglisteと、6~10タイトルのEmpfehlungliste(推薦リスト)を発表、Nominierunglisteから大賞を決定

『将軍』は1979年のAuswahllisteに入り、『街コロ』は2015年のNominierunglisteに入った。問題は、AuswahllisteとNominierunglisteを異なるものとみなすかどうかである。異なるものであれば、日本人作品初のノミネート、同じものであれば2回目のノミネート、ということになる。

私の見解では、名前は異なるものであるが、内容は同じものである。大賞の可能性が全くない推薦リストと違って、この中から直接大賞が選ばれているからだ。そのため、当時からAuswahllisteは日本で「ノミネート」と翻訳されていた(『ノイエ』など)。ただの推薦ではなく、大賞の可能性がある推薦である。

ノミネート:候補者に推薦すること。(コンクールなどの出場者として)指名すること。(広辞苑)

一方、AuswahllisteとNominierunglisteを異なるものとみなす見解もある。第2期に、Auswahllisteと大賞の間にNominierunglisteが挿入され、Auswahllisteに入るだけでは大賞の可能性があまり高くなくなった。その後に作られたEmpfehlunglisteは、こうなったAuswahllisteから移行したものと考える。実際、Auswahllisteには設立当初から、さまざまなタイプの愛好者に対応するためだけに選ばれ、大賞はないだろうといわれるものもあった。あとは名称の問題で、Auswahllisteは「候補」なのだから「ノミネート」ではないといえる。

確かに第2期のAuswahllisteはノミネートではないが、これは大賞の可能性がない(なくなった)という点でノミネートではないのであって、第1期のAuswahllisteとは区別しなければならない。 また、名称の問題であるならば、より厳密に「2004年から現行制度になって初めて」というべきであり、史上初とまではいうことができないだろう。

以上から、『街コロ』は日本人作品のノミネートとして2回目であるというのが私個人の見解である。

もちろん、この見解によって『街コロ』の価値が少しも損なわれることはない。「文化財としてのボードゲームを家族や社会に広げること」というSdJの理念に、実にかなった作品だと思う。大賞を取れば史上初になるのは異論がないので、ぜひ大賞をとってほしい。

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