『ボードゲーム・ジャンクション』で安田氏が2000年以降のボードゲームの展開として提示しているキーワードのひとつとして、アメリカのボードゲーム復活やイタリア・フランス・イギリス・チェコ・ポーランドなど周辺諸国への広がりがある。一方、ドイツゲームは”むずかしゲー”と”かんたんゲー”の分裂によって、「やや方向性を欠く結果」となり、ドイツ中心から世界メインへ移行しつつあるとする。
安田氏はすでに2003年ごろ「ドイツゲームは(内容が)ちょっぴりバブル気味」「最近はドイツゲームもマンネリ気味」(『ゲームを斬る!』)と書いており、ドイツゲームが凋落した分、非ドイツゲームによってボードゲーム界の隆盛が保たれているという見方のようだ。
拙著『ドイツゲームでしょう!』では、90年代以降のドイツゲームシーンを、『カタン』以前、『カタン』以降『カルカソンヌ』より前、『カルカソンヌ』以降という3つの時代に分けた。そしてこのうち『カルカソンヌ』以降の時代は、ドイツ年間ゲーム大賞のターゲットであるファミリーゲームやキッズゲームと、ドイツゲーム賞がサポートするフリークゲームに二極化している時代とみた。安田氏の”むずかしゲー”と”かんたんゲー”の分裂と同意見である。
ドイツゲーム賞で10位以内のゲームのうち、1〜2タイトルに留まっていた外国ゲームが、2009年は一挙に4タイトルに増えた。2010年の新作は今のところ『ヴァスコダガマ』(イタリア)『エンデバー』(アメリカ)『ダンジョンロード』(チェコ)あたりが優勢で、ドイツゲームの『エジツィア』『マカオ』『権力闘争』は押され気味。ニュルンベルクの新作に期待をかけたいところだが、こちらはリメイクの嵐。
とはいえ、売れ行き自体は衰えていない。2007年の大賞作『ズーロレット』はドイツゲーム賞で5位、翌年の大賞作『ケルト』は8位と散々な結果だったが、売り上げはそれぞれ29万、35万と大賞受賞作の水準である30万セットをほぼクリアしている。ハンス・イム・グリュックのブルンホファー社長は、ドイツゲーム賞で1位になったからと言って、売り上げが増えたりしないと述べている。リメイクに見向きもしないのは、ごく少数のフリークに限っての話である。
確かに現在のドイツゲームに最先端という感じはなくなった。90年代に出たアイデアを使い回し、手直しすることで生き延びているとも取れる。でもそれは、よいアイデアを末永く大事に遊び続けるということでもあり、一般に支持されているのはこの路線なのだろう。珠玉のようなゲームが乱立した90年代に、10年かけて一般の人が追いついてきたとも言える。
というわけでボードゲームが国際化しているのは間違いないが、ドイツゲーム市場はまだまだ元気である。風変わりなものは飽きられやすいが、ドイツゲームには末永く遊べる安定感がある。目新しいものがないというだけで判断することはできない。リメイクの嵐には、それなりの理由がある。