書苑新社から89年に発売された幻のゲーム研究書が、このたびグランペールから復刊された。アナログゲームの面白さを幅広い視点でアプローチした読み応えのある本である。
第1章「ルールとは何か」では、ルールのあり方からゲームの特徴を描き出す。古いゲームなどで正しいルールが判然としない場合の決定方法として現地主義(実際にやっている人が正しい)、合理主義(整合性があるほうが正しい)、功利主義(面白ければOK)、文献主義(記述に忠実に)の4つが紹介されていて、ルール解釈に迷ったときなど有用である。
第2章「ゲームの楽しみを探る四つの味わい」ではゲームの面白さを思考・偶然・交渉・体験という4つの要素から分析し、それぞれの典型的なゲームを例示する。簡潔にして的を射た分析で、実際この4つの組み合わせで、ボードゲームの楽しみはほぼ網羅されるといってよい。
第3章「ゲームの分類学」では、アナログゲームの系統的な分類を試みる。ボードを使わない「テーブルゲーム」とボードを使う「ボードゲーム」に大別し、続いてプレイヤーのスタート地点について対照型・非対称型に分けて、最終的に18の枝に分かれるが、用語の正確な使用や新しいゲームの考案に役立つだろう。
第4章「ゲームの確定性定理と非確定性定理」では、完全情報・有限・二人・ゼロサムの要素を満たしたいわゆるアブストラクトゲームでは必勝戦略が(理論上)あること、あるいは必ず引き分けにもちこめることを証明。本書中最も知的刺激にあふれる章だ。
第5章「読みと感覚」では先の先を読むという「読み」と何となく正しそうという手をうつ「感覚」を典型的なゲームから例示。第6章「運と実力」では相反しながらゲームを性格づけるこの2つの要素が実は不可分であることを説く。ゲームのパラメータを考えるときに有用だろう。
第7章「ゲームにおける奥の深さ」では間口の狭さ(覚えなければいけないルールの多さ)に比して奥が深いゲームが評価される傾向を指摘する。初心者がむずかしいと感じる条件をひっくり返せば、いつも議論になる初心者の定義にもなる。特に、ルールは簡単でも何をしたらよいか分からないゲーム(『ニムト』)は初心者向きではないという説を裏付けている。
巻末コラム「歴史は遊ぶ」では古今東西の歴史に現れるゲームの話。皇帝や政治家、貴族たちは昔から本業を忘れるほどゲームに興じてきたようである。実に博学。さらに本書に登場したゲームのルール9つを紹介している。知らないゲームも多くて楽しい。
例示されるゲームはほとんどアブストラクトゲームかトランプゲームになっているのがやや味気ないが、それはこの本の全体としてゲームの原理を明らかにする狙いがあるためだろう。新たに加筆されたコラムでは『マジック:ザ・ギャザリング』やコンピュータの発達にも触れられているが、テーマを重んじながらもウォーシミュレーションとは異なる現代のドイツゲームについてはほとんど触れられていない。この本の初版が出版された90年代以降、何かしら新しい展開があるのか興味のあるところである。
ゲーム一般に熟達したい人、ゲームの面白さをはっきりした言葉で表したい人、新しいゲームを創りたい人などなど、ゲームのことが好きで、もっと深く知りたい人にお薦めの書である。
・グランペール『ゲーム探検隊』