『ツイクスト』の権利をめぐって

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ランドルフの2人用ボードゲーム『ツイクスト(Twixt)』が2019年、権利関係で決着がつかないまま強行発売された。このあたりの事情を、G.コルネット氏がシュピールボックス誌(2018年第5号)に寄稿している。
TGiWニュース:『ツイクスト』再版プロジェクト、権利問題でキャンセル link

アメリカ人のランドルフが『ツイクスト』を紙ペンゲームとして考案したのは1957年、ウィーンに在住していた時のことである。そして1962年、『ツイクスト』の初版がアメリカの3M社から発売され、大成功を収める。この収入でランドルフは70年代中頃まで7年間、日本に滞在し将棋や囲碁を学んだ。

『ツイクスト』はその後何度か再版されたが、1998年にドイツのコスモス社が再版して以来絶版。その後ランドルフは2004年、ヴェネツィアで生涯を終えた。『ツイクスト』などランドルフ作品の権利は2013年、アメリカ在住の甥マイケル・カッツ氏が相続し保有している。

そのような中、2018年にアメリカ・ヒューストン在住のウェイン・ドレザル氏がキックスターターで『ツイクスト』再版プロジェクト linkを立ち上げた。ところがこれがカッツ氏の許諾を得ていないことが明らかになり、コメント欄は炎上。2週間で中断を余儀なくされたが、アメリカで登録した商標に基づいて再版を強行した。

ドレザル氏は、『ツイクスト』の権利はカッツ氏にはなく、パブリックドメインになっているという立場を取っている。アメリカで著作権は1980年代まで、デザイナーではなく、その作品を最初に出版したところ(『ツイクスト』の場合は3M社)にあるとみなされており、ランドルフは単にルールのコンセプトを構想しただけなので、そもそも発売されたボードゲームの権利者ではないという。その後、3M社もアバロンヒル社も権利の更新を行わなかったため、パブリックドメインとなったとする。

これに対し、ドイツ・ボードゲームデザイナー連盟(SAZ)は、『ツイクスト』はオーストリアで考案されたもので、ヨーロッパの著作権法が適用されると主張する。ヨーロッパの著作権法は「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」に基づき、作品の発売時ではなく発案された瞬間から保護され、登録も不要であるばかりでなく、権利を放棄することすらできない。そのため『ツイクスト』が3M社と契約して出版されても権利はランドルフのもとにあり、さらにベルヌ条約では著作者の死後50年以上、権利が保護されると定められているため、早くとも2054年まで相続人が権利を保有していることになる。

アメリカも1989年にベルヌ条約に加盟し、著作権法を改正した。問題は『ツイクスト』がそれ以前の作品だったことから、アメリカの(旧)著作権法か、ヨーロッパの著作権法かで見解が分かれているわけである。

さらにドレザル氏は、ボードゲームの権利はグラフィックとストーリーだけで、ルールには適用されないと主張している。これについてコルネット氏は「世間に広まっている誤解」であるという。ドイツ連邦裁判所がすでに1961年、「ゲームのアイデアは確かにそのような著作権の保護を受けないが、ゲームのルールは、文書として保護されるものである。ただし、十分に独自性のあるとみなされることが条件となる。この独自性は、単に表現に基づくものではなく、独自の知的活動に帰せられる思考様式から生じる」という見解を出している。少なくともドイツでは、文面を変えても同じ内容のルールならば、著作権の保護対象となるのだ。

ドイツ以外ではまだそこまでルールの著作権保護が進んでいないので、「誤解」とまで言い切れないが、ルールが『ドブル』と同じだった「あおもり絵合わせカードゲーム」について批判が相次いだように(名誉のため追記しておくと、この作品は批判を受けてクラウドファンディングを中止し、オリジナルルールで発売されることになっている)、道義的には賛同しない人が多いだろう。実際、アマゾンの販売ページでも「このような心ないパクり商品を堂々と出す業者がいることが残念でならない」「これは海賊版である。デザイナーの権利を大切にする出版社にお金を使おう」といったコメントが寄せられている。

デザイナー名を冠したボードゲームの先駆けとなったランドルフの作品というだけでなく、素晴らしい名作だけに、正式ライセンス版の早急な復刻が望まれる(追記:2020年11月に、正式ライセンス版がジーピー社から発売された)。

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