たまたま手に取った雑誌に面白い記事があったので訳出。記者の許可が取れましたので公開します。しばらくはてなダイアリーに置いた後、TGW下に移します。
ライナー・クニツィア
?ボードゲームに捧げる人生?
ウド・バルチ
「私にとって大事なのは、いつもでないにせよ同じ場所をさらに深く掘り下げることだ。」ライナー・クニツィアは90年代の初め、瞬く間にマイスターの座につき、そのうちにオールラウンドのデザイナーになった。子どもゲームからアメン・ラーまで、ほとんど全てのターゲットをカバーする。今年46才になる彼はもはや単発ではなく、ボードゲームを一連のものとして構想を練っている。
ウィンザー、最近ではウィーンに済んでいる彼が1997年、ボードゲームを専門職に移してからというもの、開発はどんどん加速している。ほとんど全てのドイツのメーカーからボードゲームを発表し、クニツィアは今「国際的にいろいろな国をものにし、できるだけたくさんのメーカー、できるだけたくさんの言語で発表したい」という。スターウォーズやシンプソン、ミッキーマウスのようなライセンスものといった新しい仕事が彼をひきつけた。「機械工」として認められているクニツィアが「ロード・オブ・ザ・リング」に優れた手腕を見せ、本のゲーム化のマイルストーンを打ち立てたことは当時、世間を仰天させたものだ。しかしクニツィアの野望はとうの昔にさらに一歩進んでいる。アーサー王のような電子テクノロジーでボードゲームの新しい境界線を超え出る。そして2004年にはコスモス社で「新境地」を開くことになっている*1。
オールラウンダーへの転進にあたってクニツィアはマニアの支持を失った。「全ての人々に合うものを作ることは決してできません。」彼はつらい経験をして、もう批評には付き合わないことにした。「私は自分のゲームに自信をもっています。批評家の意見が違うならば、それは所詮そうなんでしょう。」その代わりクニツィアは一般客をどんどん引きつけている。「人々に楽しさをもたらす」というのが彼のモットーだ。その裏にはひとかたならぬスローガンがある。それはもはや使命感といえる。「ボードゲームを作るというのは人々の人生を豊かにできる数少ない職業のひとつです。それは素晴らしいことですよ。このモチベーションだけが長い時間に耐えうるものだと思うんです。私がつぎ込む仕事とエネルギーは、こうして意味を持ちます。私がとても感謝しているのは、私のできることが社会への立派な貢献になっているからです。」
ゲームデザイナーを職業にしたクニツィアは、他の追随を許さない。それはアウトプットにおいてそうであるだけではない。一週間全部を、彼はひとつだけの目的「ゲームを開発すること」に費やしている。朝4時と5時の間に「何かが私をベッドから駆り立てます。待っていることができないのです。」それから午前中は邪魔を排して休憩なしに仕事。午後は事務仕事やビジネス関係があり、そうでなければほぼ毎日テストプレイである。夕方には一般プレイヤーと、その後にはフリークと、日によっては幼稚園で。クニツィアは日常の仕事をできるだけなくし、デザイナーとして自由でいようとする。例えば庭は庭師に任せ、PRの日程も切り詰め、テーマ調査や試作品の製作、シミュレーションのプログラムは親しい仲間の友人が行う。一部支払ってはいるが、たいていは趣味のうちである。
「やりたいことはたくさんあるのに、手番は少ない」というのがクニツィアの原理のひとつである。「自由」は彼の頭の中で最も重要な概念だが、今それが意味するのは、人生で自立した決定を行い、目標を定め、しなければいけないことよりもしたいことを優先するということだ。「ひとつのことを好むと同時にたくさんのことを同時にする」人間として、クニツィアが「ノー」ということはたくさんあり過ぎる。イギリスにある建設財政研究所の理事のポストを彼は辞任した。彼は家庭生活に「ノー」をつきつけ、週末や余暇にするべきことをほとんどやらない。さらに「私はずっと働きづめというわけではありませんよ。私がいつもやってきたことはただひとつ、私にとって楽しいことだけです。それに対して人々はまだお金を払ってくれるのです。」そして休暇は?「毎年夏にはスコットランドに行こうと思っています。そこの風景は感激ものですからね。でもいつも計画倒れですね。ちょうど面白いプロジェクトが来るんです。」
クニツィアはゲームを一元的に見ない。「誰でもそうだと思いますが、我々は長所の90%を逃していると思います。でも私はやりたいことだけをやっているので、間違ったこともしていないのです。」デザイナーは孤独なだけでなく、根気のいる存在だという。テスト、検討、メーカーとの連絡、ゲーム祭。「それはとてもとても広く、とても社会的な分野でもあります。ひとつのゲームでたくさんの人をつなぎ合わせることができ、私の人生は本当に満たされる。それが一方的な感覚だとは思いません。私は世界で一番幸せな人間ですよ。」
(フェアプレイ66号)
*1:この記事は2003年のものであるが、今から見れば「新境地」とは頭脳絶好調のことであろう
貴重なインタビュー記事の翻訳、どうもありがとうございます。色々なものに「ノー」を言ってきたからこそ今のクニツィアがあるのですね。あらためて考えさせられました。
クニチーのゲームに対する真摯な姿を感じることができました。彼から大量の新作が発表されるもんだから「名前だけ貸してるんじゃないか」という噂もありましたが、やっぱ噂にすぎませんね。いい記事を紹介していただかありがとうございます。
このところクニツィアに関しては、いろいろ考えさせられる記事がたくさんでてきましたね。日本語で読めるようにしてくださって、ありがとうございます。スコットランドの風景の中でボードゲームの構想をしている雄姿が、目に浮かぶようです(実現してほしいですね)。
先日のけがわさんのアンケートと合わせて、大変興味深い記事ですね。ゲームデザイナーの中でもかなり稀有な例だとは思いますが、私もオールラウンドデザイナーを目指しているので、一つのお手本として大変参考になりました。ありがとうございます。
コメントありがとうございます。私も、この記事をはじめに読んだときはクニツィア10人説とか冗談で言っていたのが吹っ飛びました。「一事を必ずなさんと思はば、たの事の破るるをもいたむべからず。人の嘲りをも恥ずべからず。(徒然草)」ですね。でも中途半端に真似しようとすると危険です(笑)。