ボードゲームシンポジウム 05/11/11

ボードゲームシンポジウム 05/11/11

秋の空にも冬の身を引き締める風が吹き始める季節、大阪市内のホテルで「ボードゲームシンポジウムOSAKA’05~日本ボードゲーム界の挑戦~」が開かれた。NPO法人世界のボードゲームを広める会『ゆうもあ』が会員や関係者を対象に主催したもので、昨年の第1回に引き続き2回目。
 このシンポジウムは、ボードゲームの普及をめざしてメーカー・輸入代理店・ショップ・ユーザーがお互いに知らない情報を持ち寄り、意見交換をするという主旨で行われている。今回の参加者は『ゆうもあ』の一階理事長、ハバ社・セレクタ社の公式輸入代理店であるジョルダンの宮野氏、ドイツの主要メーカーの代理店兼ショップのメビウスからメビウスママこと能勢さん(夫人)。
 司会の末原ゆうもあ副理事長が開会の挨拶を述べた後、まずお三方がそれぞれの立場から30分程度の講演をした。

1.日本でボードゲームを広める特効薬は?
(一階良知@世界のボードゲームを広める会『ゆうもあ』)

はじめに『ゆうもあ』理事長の一階氏から『ゆうもあ』の組織説明と、関係者がどのように手をつないでいくのがよいかの提案がなされた。

ゆうもあの実態

「ゆうもあゲーム会(全国5ヶ所)」や地域の文化祭などでの出展など、『ゆうもあ』のメイン活動は主に家族・初心者向けに行われていることから、フリークにとって『ゆうもあ』はなかなか縁遠い存在かもしれない。唯一存在感を示している情報誌『シュピール』が諸般の事情で刊行が遅れていることもあるだろう。そこで、一階氏がはじめに『ゆうもあ』の実態を数字で示したことは大きな意義があった。
 『ゆうもあ』がゲームを遊ぶ場を提供しているイベントは昨年で72回、延べ参加者数は2000人を超えた。一昨年から50%増加である。「おもちゃフォーラム」や「わくわく木の遊園地」など、通りかかった参加者が遊んでいくものも含めれば、ゆうもあを通してゲームに触れた人の数はまだまだ多い。どのイベントでも満員で、ボードゲームの魅力には目をみはるものがあり、スタッフも自信をつけてきているという。
 そのほか、日本ボードゲーム大賞の投票者数は昨年388名、ホームページのヒット数は2年7ヶ月で25万アクセス、テレビ出演は年に5,6回、講演も年に5件ぐらいある。2003年に32名で始まった会員数も100人(2005年9月現在、賛助含む)を突破した。ただ、会員数は200名ほどになるまでは、採算を取るのは難しいそうだ。
 だからこそ、ボランティアで運営されている『ゆうもあ』の武器は「人」しかない。100種類を超えるゲームのどれを出されても説明でき、ボードゲームをコーディネートし、記事を執筆するなど、全国13都道府県(賛助も含めると26都道府県)に人材を擁しており、充実感という報酬で頑張っている。
 立場もユーザーだけでなく、メーカー・代理店・小売店までさまざまな方が会員で、それぞれの事情や情報が集約されるという利点もある。もちろん、会員がゲームサークル、ゆうもあゲーム会、地域イベントに参加しており、そこから一般消費者のニーズを直接把握していることも大きな力だ。

日本ボードゲーム
界の問題

このような活動をもとに、一階氏はボードゲームに携わる人たちへ問題を提起した。
 まず、メーカーは人生ゲーム・ウノのその先に進まないで同工異曲を繰り返していること。もちろんこれはもっと複雑なゲームを作れということでは決してない。シンプルで奥が深いというのがボードゲームの理想だし、それを実現するのは非常に難しいものだ。だからこそ、メーカーにはもっとチャレンジをしてほしいのである。
 輸入代理店としては、似たゲームの取り扱いが多いことが指摘された。海外では多種多様なゲームが発売されているのに、例えば子ども向けだったらメモリーゲームや認識ゲームしか日本に入らない。それが売れ筋だとしても、同じようなものばかり提供していたのでは飽きられるだろう。意欲的な作品もどんどん試すべきではないか。
 次に流通・小売店に対しては品揃えの悪さ。例えば『ゆうもあ』でも頻繁に遊ばれている定番クラスのボードゲーム・カードゲームが20タイトルあったとして、それを全部買えるお店は今日本にない。だから折角面白いゲームを紹介しても「どこで買えるの?」と言われたとき二の句が告げないのである。そもそも、売りにくい商材(説明がたいへん、かさばる、単価高い)であることもあってゲームを扱うお店が増えないのが問題である。
 そしてフリークに対しては、一般受けするゲームを誤解しているという問題。自分たちが面白いと思うゲームは誰でも面白いと思い込み、ゲームを知らない人の立場に立てない。しかも自分が楽しみたい気持ちがどうしても先にたってしまうし、さらに圧倒的少数ということもあって普及のあてにはならないのが現状である。『ゆうもあ』の会員の多くはフリークなので、この問題を乗り越えるため発想を転換しつつあるようだ。
 最後に一般消費者には、良いゲームの情報を知らないことが問題とされた。なにしろ毎年発売される新作は日本に入るだけでも100種類を超え、尋常でなく多いのである。ボードゲームには興味があっても、その種類の多さに戸惑っている人も少なくない。

ボードゲームを
広める特効薬

これらの問題の根本にあるのは、「8:2の法則が成り立っていない」ことだと一階氏は言う。「8:2の法則」というのは、私が聞いたことがあるのは「会社の売り上げの8割は全従業員の2割の人が生み出している」というものだったが、ビジネスのいろいろな場面で言われることらしい。ボードゲームの場合は、「8割の売り上げを2割のアイテムであげる」ということになる。より具体的には、「ブロックス」のようなキラータイトルを新たに生み出して、ほっといても売れるゲーム、広くコンスタントに遊ばれる定番にしようということだ。
 ドイツは年間ゲーム大賞が「8:2の法則」の樹立に大きな役割を果たしており、受賞作のカタンやカルカソンヌが業界を牽引している。子どもゲームでは年月をかけて一般社会に浸透させてきたラベンスバーガー社の功績が大きい。
 もっとも、売り上げの8割まで売れるようなゲームは簡単に見つかるものではない。その条件は、子どもをターゲットに含むこと、大人でも十分に楽しめる(子どもだましではない)こと、ルールが簡単、コンポーネントに華がある、遊ぶ時間が短い(30分程度)、日本語コンポーネント、値ごろ感などが全部満たされていなければならない。その点で「ブロックス」はお手本なのである。ボードゲームを広める特効薬というのは、「ブロックス」級のゲームがこれから出てくるということなのだ。
 『ゆうもあ』ではこの対策として、新たにお薦めボードゲームの認定を進めている。新作だけから選ばれる日本ボードゲーム大賞とは別に、一般消費者の反応から長年の実績をもとに選出するもので、2005年度に10数個、以降年に5個程度ずつぐらいの割合で「売れる(売りやすい)ゲーム」「入手しやすいゲーム」を育成していく。またこうしたゲームを揃えているお店を紹介したり、チラシを配ったりしてイベント参加者の誘導も進めるという。

 現在はまだ暗中模索であったり、特定の人に業務が集中したりして不安も抱えている『ゆうもあ』だが、このように理念に筋が通っている限り、その期するところは近いうちに必ず達成するだろうと信じる気持ちになった。

2.このゲーム、日本ではどうかな?~日本で販売するときの苦慮と工夫~
(宮野亮@(株)ジョルダン)

次に子どもゲームの輸入代理店という立場で、株式会社ジョルダンの宮野氏が何を輸入するかという選択の難しさを講演した。

ジョルダンとは?

 ジョルダンはヨーロッパの木製玩具の輸入・卸で、創業30年を迎える。木製玩具だから、取り扱い品目の大半はおしゃぶり、積み木、パズルなどで1200品目、うちゲームは1割にも満たない。しかしドイツの子どもゲームメーカーを代表するハバ社とセレクタ社という二大メーカーの正規輸入代理店であり、日本のボードゲーム界への影響力はとても強い。
 ハバ社は今年のカタログで286タイトル、セレクタ社は60タイトルのゲームを発表しているが、そのうちジョルダンが発売したものはそれぞれ50タイトル、30タイトル。どういう基準で発売するゲームを選んでいるのだろうか。

ドイツメーカーが
製品化するまで

その前に、ドイツのメーカーが新作を発売するに至るまでの話。新作ゲームの候補は、エッセンのボードゲームメッセなどで特別窓口が作られ、アマチュアデザイナーがずらりと並んで試作品をプレゼンテーションする。その数は年間1000アイデア。これらを社内で検討し、アイデアのすばらしさやデザインの良さで選別した後、社内テスト、外部テスト(幼稚園、学校、ゲーム愛好者など)を経て製品化を決定。そして製造行程の決定、安全性の検討、デザインの決定、部品の外部調達などを経てようやく製品化される。社内開発を別にして、1000のアイデアから製品化までたどり着くのは30~40に過ぎない。
 したがって製品化されただけでも十分面白いことの証左となるのだが、全部を輸入することはできない。何を輸入して何を輸入しないかは、国内の入手状況に関わる重要な判断となる。

代理店が販売
するまで

ジョルダンでは、ニュルンベルクの展示会で説明を聞き、メーカーカタログや英文説明書を読んで情報を収集し、商品を取り寄せてテストプレイし、既存のゲームと内容がかぶらないように選別していく。選ぶときの基準としては、売れ筋のジャンルを参考にするという。例えば「カヤナック(Kayanak)」、「ねことねずみの大レース(VivaTopo!)」はさいころ運+戦略系というジャンルで一番の売れ筋。今年の「水晶をとりもどせ(MagoMagino)」もここに入るだろう。ただし売れる売れないの格差が激しいという。次は「スティッキー(Zitterlix)」、「ワニに乗る(Tierauf Tier)」などのバランス系、それから記憶力系、スピード系などの順で売れている。サイコロ運だけ、ロト、ドミノ、テクニックなどはあまり売れないそうだ。
 もちろんジャンルだけではなく、難しすぎるもの、意外性がないもの、インパクトがないもの、まどろっこしいもの、条件付けが多いものなどは売れなかったという。

日本語ルール
の添付

さて、ドイツのゲームはそのまま日本で売るわけにはいかない。日本語説明書つくりは輸入代理店の大事な仕事だ。現在、日本語ルールをデフォルトで添付しているセレクタ社の場合、ドイツにいる人が説明書を日本語に翻訳しているが、それもジョルダンが校正している。
 説明書の工夫としては、最初のストーリー説明はシンプルにするため削除し、その後もゲーム信仰と関係のない文章は外す。 「妖精を見つけたら、詩を奏でましょう」「ペンギン歩きが一番上手にできる子から始めます」などという記述がそうだ。これには異論も出たが、ルールはできるだけ短くがモットーだ。
 また削除するだけが仕事ではない。ドイツ人には当たり前のことでも、準備の仕方や簡略ルールを丁寧に入れるようにしている。「カヤナック」では「ゲーム1」として釣るだけを楽しむ簡易ルールにし、「ゲーム2」で通常ルール、「ゲーム3」で氷と水滴を取った準簡易ルールを説明している。元のルールには通常ルールしかない。作者の意図を変えていいのかなという心配もあるそうだが、会場からは「カヤナックを通常ルールで遊ぶことはまずない」と、簡易ルールの掲載を支持する声が聞かれた。

最後に日本語タイトルのつけ方。ジョルダンでは1.そのままカタカナにする、2.こんな遊びですよということが分かるようなタイトルにする、3.語呂がよいタイトルにするという点に気をつけているそうだ。

ドイツ人は日本語を知らないわけで、ルール変更からのタイムラグやレイアウトをぐちゃぐちゃにされてしまう恐れ(ひらがな「い」の左半分で行がえされたこともあったとか)もあるなど、心配はたえない。輸入代理店の苦労を垣間見た。

3.メビウスママのボードゲームのおはなし
(能勢真由美@(有)メビウスゲームズ)

3番目のスピーカーはボードゲーム愛好者にはおなじみ、水道橋にあるゲームショップ「メビウス」を切り盛りするメビウスママこと能勢さん。店長であるご主人の手伝いをしながら、家族連れや子どもゲームの説明をしたり、ウェブで発信したりして裾野を広げている。お話はメビウスの歴史を家族の視点から見たもので、面白い裏話が聞けた。

メビウス小史

 1993年3月、メビウスは靖国神社の向かいに開店する。このとき娘さんは2歳半、息子さんは6ヶ月。アナログ系ゲームが衰退していた時期で、何も知らずに始めたのは無謀な賭けだったという。写真・クリーニング・携帯電話レンタルの取次ぎをして「万屋」として経営していたことを知る人は多いが、開店のとき町会に挨拶に行って、ボードゲームの説明を求められたご主人が「大人のおもちゃのようなものです」と言ったのがもとで会長が開店反対にやってきたという話は初耳だった(笑)。
 しかもそれまで輸入ゲームを担ってきたショップ、プレイシングスが1994年末に閉店する。これがどん底であると同時に、転機にもなった。翌年、「清水の舞台から飛び降りた」気持ちで行ってきたニュルンベルクの玩具展示会でボードゲームを買い付け、メビウス頒布会が始まる。日本語ルールはJAGAやniftyのフォーラムを通して有志で作られた。とはいえこの時期は、コンポーネントを見ながら想像して遊んだことが多かったらしい。ようやくトントンになって万屋を脱却できたのが1999年だというから、7年間もよく耐えたものだ。
 2000年にはゲームマーケットが開かれ、デジタルゲーム批判の風潮も手伝ってアナログゲームの機運が高まってきた。メビウスママさんもお店番だけから脱するべく、ゲームのことを勉強し始め、「メビウスママのひとりごと」を書き始める。そのうちに2004年、8坪の九段店から約3倍の水道橋店に移転し、現在に至る。15人から始まった頒布会は10年で現在100人。送ったゲームの数は430点に及ぶ。10年間ずっと継続してきた人も3,4人いるそうで、いったいどこにしまっているのか不思議だという。

家庭で学ぶ

テストプレイの必要性などから能勢家では前からボードゲームを遊んできた。負けたお子さんが泣いたり、奥さんがなかなかルールを覚えられなくて夫婦げんかになったりしたが、それがゲームやインストを学ぶよい経験になっている。
 しかし、子どもが友達とゲームをするかというとそうでもないそうだ。スポーツクラブ、習い事、塾……近頃の子どもはどんどん忙しくなってきており、子どもが子どもにゲームを紹介するチャンスはほとんどない。それでも、JAGAでは中高生が幼稚園児にゲームを説明する場面が見られたり、メビウスママのひとりごとブログに「中学受験」などで検索して来た人が「ゲームがないと変になるんです」と言ってゲームを買って言ったりもするという。

メビウスのターゲットは主に30才前後の男性ボードゲームだったが、メビウスママの活躍で家族や子どもも視野に入ってきたようだ。フットワークの軽さを生かした今後の展開が楽しみである。

4.あらゆる層へのボードゲーム普及に向けて
(パネルディスカッション)

日本語ルール

質疑応答の焦点は、日本語ルールの問題だった。ジョルダンがルール以外のストーリーなどは省くとしたことに対し、子どもがゲームに入り込んでいくのにそういった道具立ては必要ではないのかという意見が出された。スタートプレイヤーを一風変わった方法で決めるのも、ゲームを盛り上げるときがある。これについてはメビウスのように、字体を変えてルールとストーリーを分けたり、ルールはサマリーを別に添付しておくという案もあるだろう。
 インストにしても、ルールの長短よりも現実の日常語で説明できることが子どもや一般向けにはより大切なことだ。ルールをそのまま読むのではすぐに飽きられてしまう。直訳調ではなく、遊ぶ人の理解度まで考慮したルール作りも考えていかなければならないだろう。分かりにくいルールはボードゲームの普及にとってネックになるので、その質はもっと向上させる余地がある。訳者の技量の向上が期待されている。
 しかし、多種の新作が小ロットで次々と入ってくる現在、訳を作るコストに見合わないことが多い。大手がなかなか参入できないのも、これが一因だろう。

箱の日本語

 箱の日本語化も意見の分かれるところである。ドライマギアの社長リュッティンガー氏は、「韓国人は箱に韓国語が書かれていないと買わないが、日本人は逆に日本語を入れないでと頼んでくる」といつも語り草にしている。これは作り話ではなくて、販売する側から見て日本語が入ると陳腐になるから本当に頼んでいるのだという。いわゆる日本人の舶来信仰だが、その内情にはレイアウトをチェックできない不安もあるそうだ。
 しかしたくさんのボードゲームが輸入され、輸入玩具ではなくてボードゲームとして認知されつつある現在では少しずつ事情が変わってきている。箱に少しでも日本語が入っていたほうが、一般消費者にとってありがたいのは間違いないことだ。
 かといってカタンの完全日本語化は拡張セットとのコンパチビリティーを失わせ、拡張を遊びたい人は結局ドイツ語版の購入が必要になってしまった。このように遊ぶ上で支障が出たのは大きな問題だが、それだけでなくそのゲームに込められた文化的な背景まで奪胎してしまうことは、プラスマイナスの両面があることを銘記しなければなるまい。

今後の課題

ミクシィで集まっている水曜日の会、フリーペーパー『R25』のゲーム合宿など、一般の若者が気軽に遊べるようになってきた現在、ボードゲームはオタクの趣味だけではなくなりつつある。どういう場(遊ぶ機会と買う機会)を作っていくか、子どもやシルバー、友人の友人にどうしたら広めていけるかまでは今回話し合う時間がなくなってしまったが、次回のシンポジウムがあるとすれば実践面のノウハウを聞いてみたいと思った。

参加者はゆうもあ会員がほとんどだったが、前回のスピーカーである名古屋バネストの中野さんや、岡山の現代玩具博物館の方や、今年エッセンに出展したグラパックジャパンの方までわざわざいらしていた。懇親会、二次会、三次会まで大いに盛り上がり、熱いボードゲーム談義が繰り広げられた。次回は東京にて、ゲームマーケットの前日に開催される予定。

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