Posted in あ行 

エルパソ(El Paso)

度胸だけでは勝てない
5つのダイスが全部保安官になるまで粘って、たくさんのチップを集めるゲーム。私の大好きなデザイナー、S.ドーラはこのところキッズゲームばかりで、『アパッチ』(アバクス社)以来2年ぶりのファミリーゲームである。私がこのデザイナーを好きなのは、余計なルールを徹底的にそぎ落とし、ゲームの楽しさを凝縮しているところにある。このゲームも作りはいたってシンプルだが、バーストとバッティングの妙が楽しめる。
舞台はテキサス。プレイヤーは7つの街を1つずつ襲う。街にチップが並べられたら、まずどのチップを狙うかをカードで選択。そしてダイスを振り、セーフだったらほしいチップをもらう。さらに次のカードを出し、ダイスを振り、チップをもらうというのを繰り返す。
カードには数字が書いてあり、同じ品物を選んだ人がいたら、数字の大きい順に取る。でもチップは価値の小さい順に重なっており、最初に取るとしょぼいチップになってしまう。でもチップの枚数には限りがあるから、数字が小さいカードだともらえないこともある。さらに、ダイスでそのマークが出ないともらえないチップもあり、リスクの高いバッティングを狙うべきか、安全確実に行くべきか迷う。
ダイスは5つあり、どれも3分の1で保安官の目が出る。保安官の目が出たダイスは脇によけておき、5つ全部が保安官になったらバースト。その時点で街に残っているプレイヤーは取っ捕まってしまう。それまでに取ったチップは全部没収。なので危ないなと思ったら、適当なタイミングで街を出よう。
つまり、バッティングのリスクとバーストのリスクを同時に抱えるゲームなのである。度胸がないと勝てはしない。
とはいえ、ただの運試しではない。なぜかというと、次の街で換金(得点化)できるチップが決まっていて、どのチップを選ぶべきか、どのチップを取ったら次の街にいってよいかが変わるからである。次の街で馬が高く売れるなら、まず馬を狙い、馬が手に入ったらとっととずらかってもよい。裏をかいて馬を取らずに、バースト覚悟でぎりぎりまで粘ってほかのチップをかき集めるのもよいだろう。
最後の街エルパソは、生き残れば全部のチップが高額レートで換金できる。「もう1回!」「まだまだ行ける!」とつい欲張って保安官に捕まらないようにしたい。
序盤からバーストしまくっていたkarokuさん。ダイスが残り1個になっても粘っているので無謀だなと思っていると、終盤の街で一か八かの賭けに出て大幅リード。そのまま逃げ切って勝利した。実は序盤は換金レートが低いので、バーストしてもしなくても1〜2点ぐらいの差にしかならない。それなのに私はすぐに抜けるチキンで、儲け幅が小さい。一度だけ勝負に出たがうまくいかなかった。
度胸と計画性のほかに、このゲームに必要なものはプレイヤーの性格の違い。無謀からチキン、理論派から直感派まで、いろんな性格のプレイヤーがいたほうが面白いだろう。そしてお互いに「もうやめたらいいんじゃ?」「えー、もう抜けんの?」などとツッコミながら遊ぶとよい。
El Paso
S.ドーラ作/ツォッホ出版(2009年)
2〜5人用/10歳以上/45分
メビウスゲームズ:エルパソ

Posted in 雑誌・書籍

『ボードゲーム・ジャンクション』書評

待望のボードゲーム書籍『ボードゲーム・ジャンクション』が先月下旬に発売された。著者のひとりである安田均氏のボードゲーム関連書籍としては『安田均のボードゲーム大好き』(2002年、幻冬舎コミックス)、『ゲームを斬る』(2006年、新紀元社)があるが、それらと比べるとサイズが一回り大きくなり(B5判)、カラーページが32ページ、白黒ページにも写真満載で、ビジュアル面が強化されている。系統としては『ボードゲーム天国』や『ボードゲームキングダム』(2003〜2005年、オフィス新大陸著)に近いカタログ本といった体裁である。
構成はカラーページでボードゲームの写真と基本データだけを掲載し、その内容は本文で詳しく取り上げる。
トップバッターは「安田均のボードゲーム紹介」。00年代のボードゲームを2年ごと5つの時代に区分し、その時期の特徴とベスト10と準ベストを挙げる。ドイツゲームの世界的な認知が進み、アメリカ・フランス・イタリアなどからもその影響を受けた作品が出始める様子を克明に描き出す。リソース・マネージメント、「むずかしゲー」と「かんたんゲー」の相克、セレクトカードゲームというキーワードを柱に、90タイトルにも及ぶ傑作を紹介。最近ボードゲームを始めた人は「これまでのあらすじ」のようなものが分かり、10年以上のプレイヤーには面白いゲームを再発見する機会を与えている。
次に江川晃氏による「ボードゲーム注目作」。2004年以降に発売されたボードゲームを1タイトル1ページでじっくり紹介する。16タイトル中、ドイツゲームは6タイトルに留め、アメリカなど非ドイツゲームを積極的に取り上げており、世界的なボードゲームの広がりを一望できる。
そして秋口ぎぐる氏による「ボードゲームリプレイ」。15タイトルについて、実際に遊んでいるときの発言を、ルールを交えながら楽しくレポートする。リプレイは、TRPGでは盛んに作られているものの、ボードゲームではあまり見かけないだけに、これは見ものである。1タイトルに5ページもかけており、臨場感たっぷり。笑いどころもたっぷり。
それから笠井道子氏による「ウニ頭にもできるもん」。難しいゲームは苦手な方に、簡単お手軽なゲームを15タイトル紹介する。すでに絶版で入手が難しいものもあるが、家族や、子供と一緒に遊ぶゲームを探している方には大いに参考になるだろう。
最後に著者4人に柘植めぐみ氏を加えての「ボードゲーム大好き座談会」。各自がオススメゲームを選び、ほかのメンバーがツッコミを入れる。それぞれの性格が見えてきて、オススメゲームの傾向が違うのも頷ける。
カタログ形式だから、どこから読んでもかまわないし、好きなところだけ読んでもいい。でも全部読んだら、過去10年のボードゲームの流れは十分に把握できるだろう。2003年ごろにドイツゲームについて「パワーが減じている」と評した(『ゲームを斬る』)安田氏が、非ドイツ圏での活況に触れて「ボードゲームは今後きっと伸びますよ!」と本を締めくくっているのが興味深い。ちょっとこの頃ボードゲームに飽きてきたという方にも、新しい刺激になるにちがいない。