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『ゲームを斬る』

グループSNE代表でRPG界の重鎮、安田均氏の新著。氏にはファンタジー、RPG関係で多数の著書があるが、ボードゲーム関係も扱ったものとしては『ボードゲーム大好き!』(幻冬社)に続いて2冊目。

内容はソニーマガジンズ『月刊AX』連載「安田均のゲームバトルロイヤル」(2000.5-2001.3)、ウェブ連載「安田均のゲームバトルロイヤルII」(2001.3-2003.1)、『RPGamer』連載(2003春-2005秋)、『ロール&ロール』連載(2003.6-2005.8)の計49本を再録し、7ページのまえがきと4ページのあとがきを加筆したもの。

ドイツゲームの紹介だった前回とは異なり、21世紀のアナログゲーム事情をボードゲームにRPG、TCGも加えて幅広く書き綴っている。ボードゲームの素材を使ってRPGを遊んでしまう方法(第二部ROUND1#1-3)とRPGの新しい様相(第二部ROUND2#1-7)は「d20システム」などRPGの知識が前提となって敷居が高いが、ボードゲームのレビュー(第一部)は面白さが十分伝わってきてとても遊びたくなった。

「アクワイア」の現代のM&Aを先取りしているとする点や、「電力会社」の鉄道ゲームとの比較、「カヤナック」の夜店感覚など、凡庸でないゲームの切り口にも感心。古い鉄道ゲームから、「キャッシュフロー101」まで、普通の人がなかなか遊べないゲームの紹介も興味深い。評論としてはドイツゲームを「閉鎖系」、アメリカゲームを「開放系」として分析した「キャメロットの影」(第二部ROUND2#13)が秀逸。

だが後半になると、連載元の雑誌の性格だから致し方ないのかもしれないが、ボードゲームがRPGのオマケとして扱われているように感じた。これはおそらく氏のボードゲーム史観にもよるのではないかと思われる。

氏は2001年に「アフリカ」「ニューエントデッカー」などをNDSG(ノンデジタル・ストラテジーゲーム)としてエポック社よりプロデュースし、この時期に『ボードゲーム大好き!』や『アクアステップアップ』で集中的にドイツのボードゲームを紹介していたが、本書でも「ドイツゲームは(内容が)ちょっぴりバブル気味」「最近はドイツゲームもマンネリ気味」とある通り、2003年、2004年はドイツのボードゲームを見限ってRPGに戻った感があった。

それが、「マンチキン」「丘の上の裏切り者の館」「ルーンバウンド」など、RPGとボードゲームを融合したようなゲームに刺激を受けて、再び(今度はアメリカの)ボードゲームに目を向け始めたと見られる。最後は「キャメロットの影」で締めくくられ、ドイツゲームへの回帰はもはやない。本書は連載が時系列に並べられ、氏の関心の変遷を見て取ることができる。

アメリカのボードゲームをドイツが発展させ、そのドイツがネタ切れになって、再びアメリカがその次の段階を担う――この一本線が氏のボードゲーム史観のようだ。

確かに2003年の大賞「アルハンブラ」、2004年の大賞「乗車券」は今ひとつ新味に欠けたかもしれない。しかしこの間にも「コロレット」、「サンクトペテルブルグ」、「頭脳絶好調」などのドイツゲームらしい、しかもオリジナリティあふれる新作はコンスタントに出ており、ドイツゲームが凋落したとは思われない。

ドイツゲームの幹はまだまだ細っておらず、ドイツゲームの幹から伸びたアメリカ、フランス、イタリア、そして日本の枝が徐々に花を咲かせつつあるという状況ではないかと私は見ている。

RPG風ボードゲームもその数は少ない。ボードゲームの主流はまだ陣取り系だし、だからといって同工異曲というわけでもない。ドイツゲームを雛形としてアメリカにはアメリカ流のRPG・TCGなどと融合した発展が、イタリアにはパーティゲーム方向への発展が、フランスには折衷的な発展がある(日本はまだ模倣の段階だが、その中から日本的な変容も芽生え始めている)。

つまり、ボードゲームの根幹部分がアメリカに移行したのではなくて、ドイツゲームのグローバリゼーションと、その後に続く各国でのローカリゼーションが起こっていると捉えればよいのではないだろうか(このことは、安田氏も「エヴォ」レビューの追記で触れている)。

もっとも私の見方にも反論の余地はある。現代ボードゲームがこれだけ国際化した現在、もともとボードゲームの本流がどの国にあったのかというような議論がすでに意味をなさなくなっているのかもしれない。

それでもアナログゲーム評論という、本書の試みをさらに本格的にしていくための道具立てとして、多角的な視点から大いに議論されるのが望ましい。その意味で数々のヒントと問いかけを投げかける本書はその端緒となるものだと思う。

ゲームを斬る!

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ドイツ年間ゲーム大賞予想

ドイツ年間ゲーム大賞(SdJ)のノミネート発表と推薦リスト発表が5月28日に行われる。5タイトルだけのノミネートになって3年目、今年もどんなゲームが発表されるか楽しみだ。

昨年(ナイアガラ、ヒマラヤ、80日間世界一周、ジャンボ、勝利への道)、一昨年(乗車券、墓場の吸血鬼、頭脳絶好調、マハラジャ、サンクトペテルブルグ)の傾向を見ると、本命となるファミリー向け(プレイ時間60分クラス)、フリーク向け、ギミックもの、アブストラクトまたは2人用をほどよく織り交ぜているようだ。

小箱のカードゲームは入っていない。前から言われていたことだが、SdJは「年間ボードゲーム大賞」なのである。単価が高くないとロゴライセンス収入が上がらないという噂もある。『フェアプレイ』誌のアラカルト・カードゲーム賞はこうした態度へのアンチテーゼなのだろう。今年は「フェットナップ」「ディアボロ」などのカードゲームがよかったが、これが入る望みは薄い。

メーカーではコスモス3回(80日間世界一周、ジャンボ、頭脳絶好調)とツォッホ2回(ナイアガラ、墓場の吸血鬼)、デザイナーはクラマー2回(勝利への道、マハラジャ)となっているが、そのあたりの配慮はあまり感じられない。せいぜいあまりマイナーなメーカーからは入らないというくらい。デイズ・オブ・ワンダーの「乗車券」が受賞したことで、外国メーカーは受賞しづらいということもなくなった。

リメイク、ボード・カードの焼き直しも「アルハンブラ」の受賞であまり問題にならなくなっている。

このような傾向から、今年のノミネートを予想してみた。大賞の予想は郵便馬車。ドイツゲーム賞を受賞する可能性もあり、フリーク色が強いが乗車券がありならこれもありだろう。

  • ファミリー向け:★郵便馬車
  • フリーク向け:ハチエンダ
  • ギミックもの:クレオパトラと建築士組合 魔法の掃除機
  • アブストラクト:オイそれはオレの魚だぜ

推薦リストにラムと名誉、ケイラス、セルティカ、アクアダクト、王の請願、ピュンクトあたりと見る。さて結果やいかに?

追記;Boardgame NewsのR.トロンキスト氏も23日に大賞の予想を発表した。「必ずしも私のお気に入りではない。審査員が好みそうなもの。」郵便馬車、魔法使いの夜、キャメロットを覆う影、メソポタミア、エラズント、アクアダクト、オルトレマーレ、ブルームーンシティの8つ。アウグスブルク1520とクレオパトラは発売時期が遅れたため入らず、乗車券メルクリンは乗車券が大賞だったからもうありえず、ハチエンダは郵便馬車の影に隠れる。魔法の掃除機も可能性小。ケイラスはプエルトリコと同様大賞は取れないとする。

私もかなり重めのゲームをあげているが、あっちはそれ以上だ。フリークには大賞の審査員など務まらないということか。