『アナログの逆襲: 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる』

リアルなモノや体験を好む新世代、デジタル有力企業GAFAでのアナログな発想や創造性重視、教育界での人間的な共感・コミュニケーションの再構築というように、アナログをデジタルの先にあるものとみなし、その隠れた力を明らかにする。著者はカナダ・トロント在住のジャーナリスト。
ボードゲーム愛好者にとってトロントといえばボードゲームカフェ「スネーク・アンド・ラテズ(Snakes & Lattes) 」だが(エッセンで会ったローゼンベルクも「どうしてトロントのボードゲームカフェはそんなに盛況なのか?」と不思議がっていた)、第4章に39ページにわたって詳しく触れられている。およそ120席あるが、週末の順番待ちは3時間に及ぶという。予約ソフトウェアを開発し、2号店もオープンした。オーナーのベン・カスタニー氏がボードゲームを始めたきっかけやオープンまでの道のり、客の求めるものに切り込んでいく。
カスタニー氏はボードゲームカフェのオープンに際し、排他的なオタク文化を徹底的に排除しようとしたことが分かる。「私はオタク・ゲーマーやオタク文化に反対だ。だから、あらゆる人を歓迎すること、この場所をオタク文化からできるだけ遠い場所にすることをいちばんの目標にした」その目論見は当たり、ゲームオタクは10%にも満たず、アルコールを置かなかったこともあって、バーやクラブに代わる健全な場所で楽しみたい若者、特に若い女性グループやデート・カップルが集まったという。
「テーブルゲーム」(本書ではボードゲームとカードゲームの総称としてそう呼ばれている)の魅力は社会的交流であるという。ゲーム中に相互解放(coliberation)=ある社会空間に一緒にいると、それぞれが他者を解き放ち、より完全になり充実し、より自分らしくいられることが起きるのだ。この人との関わり方がデジタルゲームのかなわないところである。
とはいえ、デジタルゲームを貶めている論調ではない。ボードゲームブーム再来は、ビデオゲームがオタク文化の一般化ともたらしたことに起因すると説く。「ここ6年ほどでオタクの世界が若年化して、女性がずいぶん増えた」というのは日本でも起こっている現象である。ボードゲームギークやYoutubeでのゲーム実況、オープンソースのゲームデザインソフト、そしてキックスターターといったデジタルツールも、ボードゲームブームの重要な要因とされている。
カフェでお客の好みを瞬時に探り当て、その場にふさわしいゲームを提供する「ゲーム・グル」の資質も興味深い。『モノポリー』をしたいと言われたら、展開が早くて勝者が確定しやすい『フォーセール』や『アイム・ザ・ボス』を勧めるという彼らが、トリビアゲームが好きだという著者たちに『タイムライン』を紹介し、ついで『クワトロ』『ジャイプル』ともってきた順番にはなるほどと感心させられる。新作の選別では、マイノリティへの微妙な差別的描写があったり、小さなコマがたくさんあったりして弾かれたというエピソードが面白い。
『カタン』の北米市場展開、日本ではほとんど馴染みのない『カーズ・アゲンスト・ヒューマニティ』の製作話など、日本では知られていなかった話も多く、読み応えのある内容で、自分がなぜボードゲームを趣味にしているのかという問題にも一定の解答を与えてくれる。「ユーロゲームとアメリカゲームのハイブリッド化」といった見方は、イメージの違いはあるものの(ユーロゲームは展開が早いがルールが複雑で無味乾燥、アメリカゲームは展開が遅いがカラフルでポップなデザインと書かれている)、ボードゲーム評論にも応用できそうだ。

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