山形新聞連載コラム(4):パンデミックという協力ゲーム
4月26日の日曜随想掲載分。前回はこちら
新型コロナウィルス騒動で「パンデミック(世界的大流行)」という言葉がよく聞かれるようになったが、同じ名前のボードゲームがある。03年の新型肺炎SARSの流行をヒントにしてアメリカのゲームデザイナー、マット・リーコック氏が作った。通常のゲームは、スポーツがそうであるように個人やチームで勝敗を競うが、「パンデミック」は協力型ボードゲームで、全員が同じチームの仲間としてプレイし、ワクチンを発見できれば勝利、その前にいくつかの都市でアウトブレイク(感染症の大流行)が起こるか、世界全体で病原体が一定数以上になるか、時間が尽きれば敗北となる。
ワクチンを発見するのは時間がかかるため、それまで病原体を除去したり、都市をロックダウン(封鎖)したりして感染拡大を防ぐ。感染症治療に熟練した医師、知識を集めて治療法を開発する研究者、他の専門家の移動を助ける通信指令員など、それぞれ異なる役割と独自のスキルを活かして、ワクチンの開発という長期的目標と、感染症の拡大防止という短期的目標を両立しなければならない。
まさしくこのゲームと同じことが今、世界で起こっている。リーコック氏はニューヨークタイムズ誌への寄稿で、次のように語っている(筆者訳)。
私の希望は、『パンデミック』がこの危機の時代に行動モデルを提供できることです。私たち全員が、役割を果たすために世界中を駆け巡るヒーローである必要はありません。私たちはそれぞれ特別なスキルを持っており、街や州全体の封鎖をより安全で辛抱しやすくできます。私たちは効果的にコミュニケーションをとり、友人や愛する人に手を差し伸べなければなりません。協力して近所に住む老人の世話をし、可能な限り在宅で仕事をする方法を見つけなければなりません。また、子供たちを楽しませ続けるため、入手困難な物資を手に入れるのを助けるため、最前線の医療従事者を支援するため、アイデアを調整し、共有しなければなりません。ウイルスの蔓延を遅らせるため、真剣な集団行動と犠牲を払うことになるでしょう。買いだめや便乗値上げは危機に際してあってはなりません。私たちは皆、自分の強みを発揮し、短期的な脅威と長期的な目標のバランスを取り、共通の利益のために犠牲を払う必要があります。コミュニケーションと調整、そして効果的な協力ができれば、私たちはこの容赦のない恐ろしい敵をきっと克服できるでしょう。
この中で印象深いのは「子供たちを楽しませ続ける」という言葉である。ただ楽しませるのではなく、楽しませ続けるというのは大変なことだ。ただ新しいおもちゃを買って与えるだけではすぐ飽きられる。子供に寄り添い、いろんなメニューを考え、散歩でも料理でも、一緒にできる楽しいことを見つけていくには、家族や地域の「協力」が不可欠だ。
今、県内は臨時休校が続いており、子供たちは家で退屈な毎日を送っている。大人は仕事がなくなって収入が減り、この先の見通しもますます立たなくなってきた。しかし、こんな時代でも子供たちには笑顔でいてほしい。将来への希望を失わず、毎日楽しいことを見つけ、努力することを忘れず、知識やスキルを伸ばしてほしい。実は、そう考えて行動することが、大人にとっても生きる気力につながるのではないだろうか。
母校でもある地元小学校で今年、PTA会長として創立百周年を迎えることになった。記念式典も寄付金集めも厳しい状況だが、記念事業の目玉である滑り台とターザンロープは何とか設置できるよう関係者と調整を行っている。こんな時代だからこそ、子供たちを楽しませ続けるために。