日本語版バブル

アークライト移籍になって初のGameLinkを読んで驚いたことは、フリーゼ特集の記事の充実ぶり(ストーンRさんが全作品をレビューしたほか、ドイツからの寄稿を翻訳掲載)もそうだが、日本語版と、国産オリジナルで誌面のほとんどが占められていることだ。
アークライトの『サンダーストーン』『究極の人狼』、ホビージャパンの『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』『ルアーブル拡張:グランアモー』『ドミニオン:繁栄』のほか、今度のエッセンで発売されるフリーゼの『ファミリア』と『ビール侯爵』、昨年の『ファクトリーマネージャー』が全て日本語版に。さらに『ギフトトラップ』の日本版まで予定されているではないか。これにデッキ構築カードゲームを加えると、本当に話題に事欠かない。メビウスとバネストの輸入ゲームを紹介する余裕がないほどだ。
日本語版はプレイアビリティを確実に高める。初めて遊ぶときに楽なだけでなく、2回目以降も気軽に取り出せるようになる。対照表とにらめっこして遊ぶのではこうはいかない。また、プレイアビリティが高ければ、繰り返し遊びたくなり、いろんなゲームを渉猟するよりも、同じゲームを何度も遊ぶというスタイルがもっと広まるかもしれない。
『アグリコラ』を定期的に遊んでいる話をよく聞くが、『アグリコラ』自体の魅力に加えて、日本語版の存在によるところが大きいだろう。あれがシールだったら、ここまでプレイ人口は広がらない。
また、日本語版は規定数のロット生産を前提としているため、安定供給が可能になる。輸入ゲームはどうしても、1回目の便が売り切れてから次が入るまでにタイムラグがあり、人気ゲームではほしいときに買えないことが多い。これに対して日本語版はアマゾンでもゲームショップでも、いつでも買えるようになっているのは非常に大きい(その分、価格競争が起こって安く買えるというのも、消費者にはメリットである)。コンポーネントを日本語化する必要がないゲームでも日本語版で発売されるのは、この点が大きい。
愛好者としては大いに歓迎するところだが、これだけ目白押しだと、韓国のコーリアボードゲームズ社のようになることも心配になってくる。『キューバ』や『プエルトリコ』などのフリークタイトルに次々と韓国語化し、トイザらスなどで展開したものの、ボードゲームカフェブームが終わったこともあって息切れしてしまったのである。
現在ホビージャパンとアークライトが競うように日本語版を発売しているが、中にはどれくらい売れるか心配になるタイトルもなくはない。あまり売れないタイトルが出てくると、数年で日本語版化事業自体が撤退してしまうかもしれない。そうすると、その後に日本語版が待望される傑作が発売されたときに、どのメーカーも手出してできない恐れがある。
新作はこの頃、オリジナルと同時発売になりつつあるが、製品化前にルールや概要だけで検討しなければならないため、リスクが高い。半年か1年ぐらい遅く発売するのは最悪で、大方オリジナル版が出回ってしまって買う人がいない。メーカーやデザイナーの信頼度を加味しつつ、複数の目利きで判断するのが望ましい。
それよりも、高評価を得ながらも、言語依存度の高さや絶版で今ひとつ広がっていない過去の名作に力を入れてはどうか。『カタンの開拓者』『あやつり人形』『電力会社』『砂漠を越えて』『コロッサルアリーナ』『インジーニアス』『サムライ』などのように、過去の傑作が安定して手に入る状況を作ることが裾野を広げる。
また、アイテムを絞ったら広報にもっと力を入れることもできるかもしれない。といず広場やあみあみの先行予約でやっと発売が明らかになるようでは、うっかりオリジナル版を買ってしまう人も出かねない。
というわけで日本語版は手当たり次第ではなく、厳選して持続可能にというのが、私の意見である。その「厳選」が実際難しいのは承知のうえで。

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