ボードゲームと保守主義

ゲームリンクの原稿を書くためにネットで調べ物をしていて、ドイツでは保守主義という理由から、ボードゲームをプッシュする人がいるのではないかと感じた。
子供中心に面白いゲームを選ぶ賞「キッズゲームエキスパート(Kinderspielexperten)」を運営しているのは、カトリック青年同盟ダルムシュタット支部(BDKJ)。地域の青少年の健全育成と保護を目的とする団体である。また、今年からドイツ年間キッズゲーム大賞に後援することになったドイツ連邦家族省大臣のK.シュレーダー氏は中道右派ドイツキリスト教民主同盟(CDU)の政治家である。さまざまなメディアに右往左往しないよう、ボードゲームによる家族回帰を訴える。
ドイツ年間ゲーム大賞審査員のB.レーライン氏はコンピュータゲームとの対比でボードゲームの長所を述べる。「ボードゲームでは、コンピュータゲームも同じですが、何らかの役割を演じます。自分が騎士になったり、ファンタジーのキャラクターになったりするわけです。でも相手はスクリーンです。ボードゲームでの相手は人間です。一緒に笑い、怒り、ときには協力することだってあります。アクシデントも起こります。テーブルを掴んだり、ボールが下に落ちたりして笑う。こんなことがコンピュータゲームには全くありません。ほかにも、ボードゲームは世代をつなぎます。母と子供、祖父母と孫が一緒に同じ卓を囲むのです。こんな娯楽はほかにありません。」
テレビゲームやネットゲームを貶すことによってボードゲームを持ち上げるのは、日本でもしばしば見られる論調である。テレビゲームやネットゲームの流行を考えれば、確かにそれは事実かもしれないが、伝統を守って急激な改革に反対する保守主義が根底にあるのではないか。
ドイツにおいてボードゲーム(Gesellschaftsspiel、広義のマルチプレイヤーゲーム)は文化といってよい。シュミットの創立は1907年、ラベンスバーガーは1883年、コスモスは1822年、ASSはなんと1765年の創立である。こんなに古くからボードゲームが作られていた。家族でボードゲームを遊ぶ中で、祖父母から親、親から子へと遊びが受け継がれていく。これに対してテレビゲームやインターネットは、そんな伝統を脅かす改革勢力である。ドイツ人がしばしばネガティブに捉えるアメリカ資本主義の象徴とも捉えられる。テレビゲームやネットゲームでは社会性が身に付かない、受動的になってしまうと目くじらを立てるのは、革新的なものに対する拒絶反応にも見える。
日本でボードゲームをプッシュしている人には、懐古趣味ぐらいならともかく、このような保守主義はないだろう。むしろ逆に、常に革新的なものを求める舶来主義があるかもしれない。ドイツ製とか木製というと、教育によさそうとか思ってしまう人は少なくない。幸い、囲碁や将棋が伝統的に広められているのでバランスが取れている。
保守主義にせよ、舶来主義にせよ、そんな主義主張がないとボードゲームを出せないのは悲しいものだが、大人というのはただ楽しいだけではすまないのかもしれない。

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