日本ボードゲーム大賞の逡巡

(1)誰が選ぶか ゲームマーケットが終わり、今年のシュピレッタ賞はアップル・トゥ・アップルに決定した。昨年のブロックスに引き続き、シュピレッタ賞と日本ボードゲーム大賞(JBP、国産部門)が一致を見たことになる。
 どちらも一般投票で決まる賞だから結果が似通うのは当然のことだし、ビバリーは本当にいいところに目をつけてくると思う。しかし、現時点で2つしかない日本のボードゲームアワードが一致してしまうことに問題を感じなくもない。
 その辺のデパートでもおもちゃ屋でも買うことができるドイツと違って、日本は流通が非常に限られている。その中で一般投票をすれば、単純に販売数に応じて順位が決まることになりやすい。
 しかし実際は面白くても流通に乗りにくいために評価される機会が少ないゲームもあれば、反対に面白さはそこそこなのにメーカーの力であちこちのお店に置かれ、たくさんの人が手にするゲームもある。面白さと販売数が比例関係にあるとは言えないのである。
 これを突き詰めると、ドイツ年間ゲーム大賞のような選考委員会制度が浮上してくる。ショップやメーカー関係者を除くボードゲームのエクスパート(サークル運営者やジャーナリスト)が相談して、一番お勧めのゲームを選び出す。
 しかし今の日本にそのような人たちがどれほどいるだろうか。いたとしても、どうやって連携を取っていくことができるだろうか。ドイツ年間ゲーム大賞では審査員がマールブルクに集結して缶詰状態でテストプレイをし続ける。エッセンもニュルンベルクもない日本では、年に1回集まることすら難しい。
 そのような訳で今のところ、日本ボードゲーム大賞は誰でも審査員というかたちの一般投票がベストだと思っている。投票してくださるのはそれぞれ経験豊富な方々ばかりのようなので(100タイトル近いノミネート作品が並んでいるところで怯まずに投票できるには、それなりの数を遊んでいなければならない)、実質的には選考委員会になっているとも言える。このことはシュピレッタ賞に投票するゲームマーケット来場者にも当てはまるだろう。ゲームマーケットに足を運ぶこと自体、もうそれだけで相当造詣が深いしるしである。
 しかし誰が選ぶかという問題は、日本の趨勢を常に鑑みつつ考えていかなければならないところである。ひとまず日本ボードゲーム大賞のノミネートまでは、何とかゆうもあの自力でできるようにしていきたい。
(日本ボードゲーム大賞は、「世界のボードゲームを広める会・ゆうもあ」主催によるボードゲーム・カードゲームの賞で、日本人が購入したり遊んだりするときの指針としてもらうために制定されました。ターゲットをフリークだけでなく子供・家族に広げるため、また日本語パッケージのゲーム製作を促進するため、4つの部門を設けています。選考方法などについてはゆうもあ内でも話し合われていますが、外部からも広く意見をお伺いしたいと思い、ここに書くことにしました。コメントでもメールでもご意見をお待ちしております。)
2004/3/30
(2)広報
 日本ボードゲーム大賞(JBP)の結果は、各ショップ・サークル、インターネット(ゆうもあ・Spielbox・各メーカーサイト)、情報誌『シュピール』、会員誌『ゆうもりすと』で広報されている。しかしボードゲーム自体がマイナーなジャンルであることもあって、一般にはまだまだ知られていない状況だ。
 コロレットも宝石商もタイトルを聞いただけでピンとくるコアなファン層の外延に、いかにしてこの賞の存在を知らせていくかは、なかなか難しい、しかし大切な問題だ。
 現在広報を行っているところは、世間の目からはほとんど触れられていない。『シュピール』の流通もまだまだ少ないし、ショップやインターネットでの広報も十分とはいえないだろう(人手不足なんです)。
 また昨年ぐらいから徐々に新聞や雑誌でドイツ系ボードゲームが取り上げられる機会が増えたが、当然のことながら初めて接する人をターゲットにしており、定番ゲームの紹介だけでめいっぱいになってしまう。今年の新作とかトレンドといったところまではなかなか手が回らない。
 一番世間の目に触れているのは、ビバリーがトイざラスなどの広告でロゴを使っていることだろう。これはJBPの知名度向上にとってかなり大きい。しかしそれ以外となると、ショップにたまたま立ち寄った人とか、ネットサーフィンで流れ着いた人とか、ゆうもあのゲーム会に参加した人ぐらいなもので、はなはだ心もとない。
 もっともボードゲームはひとつの趣味であり、好き嫌いや適性もあるだろうから、世間の誰にでも受け入れられるわけではない。例えば最近のテレビゲームに飽きたというファミコン世代、子供の知育玩具を求めている親や教師、安くひまをつぶせるものを探している学生、ちょっと変わった時間を過ごしたいカップル、アトラクションがネタ切れ気味の老人会、何かコレクションしたいという人、おしゃれなインテリアがほしい人などなど、いろいろな切り口から予備軍にアタックしていかなければならない。
 しかしこれらの予備軍にいきなり「今年はコロレットです!」と言ったところで無意味に等しいか、反対にこの趣味を近寄りがたいものしてしまう恐れすらある。JBP以前の普及活動を積み重ねていかなければならない、ボードゲームの一般理解が先だということになってしまう。
 これが日本ボードゲーム大賞本体の広報が難しいという所以である。それならばゆうもあのゲーム会活動を継続しつつ、次第に浸透するのを待つということになろうが、これはややもするとオタク化・縮小化を招きかねない。外部との交流をもたないで内側だけで自己完結していると、次第に外からの風が入らなくなり腐ってくるものだ。
 「外に出ていく精神」…抽象的であるが、理屈ではない。JBPの広報に限らずゆうもあの活動全般についてこのことを常に意識して自己を奮起させたい。無視されようが出る杭は打たれようがやるしかない。それにしてもどこに出ていったらよいのか……ご意見求む(笑)。(Thanks to Mr.Hasegawa, who suggested many things on this topic.)
I CANNOT choose the best. The best chooses me. (Tagore,”Stray Birds”)
2004/4/2
(3)部門分け
医者が患者を診察して薬を処方するように、集まっている人たちの性格や今の気分、その場の雰囲気を見極めて最適のゲームを出せるならば一番よい。多少刺激の強い薬を出すこともできるだろう。
それに比べれば日本ボードゲーム大賞はよく売れた市販の売薬のようなもので、誰でもたいてい楽しめる分だけ、当たり障りないという欠点もありうる。そこでカスタマイズするために、現在4つの部門が設定されている。
海外ゲーム・入門者部門
ルールが比較的易しく、初心者でもすぐに楽しめるゲーム。家族向け。トランスアメリカ、コロレット。「入門者」でなくとも、フリークが重いゲームの合間に遊んだり、軽いゲームを好む人がよく遊んだりするので、とにかく広い層に受け入れられているということ。
海外ゲーム・フリーク部門
より発展的な内容で、ゲームに慣れた人が楽しめるゲーム。 プエルトリコ、宝石商。フリークが集うウェブ(国内・海外問わず)やサークルではこの賞が一番注目され、話題にもなるが、実世界ではこれらのゲームをやりこんでいる人はむしろ少数派であることに注意しておきたい。
国産ゲーム部門
日本語パッケージで一般発売されたもので面白いゲーム。ブロックス、アップル・トゥ・アップル。国産オリジナルだけでなく、日本のメーカーがローカライズした海外ものでもよい。但し日本語のルールが添付されているだけのものは除外。当初想定していなかったが、サンファンのように海外産日本語パッケージゲームも入るので「国産」という名称は検討しなければならない。
子どもゲーム部門
8歳くらいまでの子どもが理解でき、かつ親などの大人も一緒に楽しめるゲーム。穴掘りモグラ、ねことねずみの大レース。大人も一緒に楽しめるというのは、子供だましと感じることがなく、大人だけで遊んでも盛り上がれるという意味。子供ゲームの新作はそれほど多くないことから、入手できるものであれば発売年は問わない。
この部門分けは、必要最小限の構成を意識して作られたが問題がないわけではない。
入門者とフリーク部門の境界に基準がないこと。今年はアルハンブラが両部門でノミネートされ、どちらにおいても3位に終わった。どちらの部門に挙げるべきか迷うようなゲームはたくさんあるので、大いに悩むことになるだろう。
同じく入門者と子ども部門の境界も曖昧である。現時点ではドイツに倣って最低対象年齢によって機械的に(8才までなら子ども、9才からは入門者)分けているが、この境界線上にあるゲームも多い。
フリーク部門の孤立。フリーク部門にノミネートされるようなゲームは値段が高く、時間もかかるため頻繁に遊ばれていない。その結果、投票数自体が少なく、また投票があったとしてもウェブなどでの評価が投票時の先入観となったり、入門者寄りの相対的に軽めなゲームに比重が移ったりしがちになる。遊ぶ人が増えて票数が増えるのが一番だが、フリーク部門については選考委員会制など、別な選考方法が相応しいのかもしれない。
国産ゲームと海外ゲームを分ける必然性。現時点において国産ゲームは発展途上で、海外ゲームと一緒にすると負けてしまうという見方から、国産ゲームをもっと注目してもらうためと、外国語が苦手な方が安心して遊べるために別立てされているが、将来的に国産ゲームにどんどん傑作が出てきて、国際的にも評価が高まってくるならば分ける必要が薄れるだろう。
大賞が4つもあるということによるインパクトの薄れ。今はさまざまな層からボードゲームに着目してもらうという実利を取って別々にしているが、海外の賞のようにひとつを決めたいという気持ちも当然ある。さらに大賞は国産ゲームにとってもらいたいというのも日本人としての人情。4つの部門を全て平等に扱うのか、どれかひとつをクローズアップしていくのかはこれからの課題となる。
このように見ていくと、各部門がずいぶん異なった方向性をもっていることに気づく。一方で選考方法はいずれも投票なのだから、方向性とマッチしていないところがあるかもしれない。とはいえ部門別に選考方法を変えるなどといった煩瑣なことはできないので、方向性を投票者に十分周知しつつ選んでもらうということになるだろう。
年間ゲーム大賞も何年かに一度選考方法を変えている(最終ノミネートや今年から始まる5タイトルオンリーノミネート)ようだし、部門分けも何年か後に構成しなおしたい。
2004/4/11
(4)境界線
ドイツ年間ゲーム大賞の発表も迫り、だいたいおさえておくべきところはほぼ日本でも発売されたと思う。そこで、今年の日本ボードゲーム大賞についても考える時期が近づいてきた。これから10月にかけて、投票の前提となるノミネートリストが作られる。
これまでのノミネートリストは膨大で、見ただけで投票する気がなくなってしまうという声も聞かれた。ノミネートは輸入代理店への推薦依頼、それとゆうもあスタッフからの推薦で選んでいたが、輸入代理店は当然ながら自社取扱品を推すので百貨店のカタログのようになってしまう。さらに国内産ゲームの部門については新作を網羅的に載せたが、これが予想外に多い。そこでもっとノミネートを絞り込むべきという反省点が挙げられた。
できるだけ多くの人に気軽に投票してもらえるよう、投票される確率の高いものだけに絞り込んだリスト。これが今年の目標である。ゆうもあ内のスタッフ推薦はもう少し待って、ゲームが一通り出揃ってからお願いしていく予定だが、その前に知り合いと非公式にあれこれ話し合っている。
そこで意見が分かれた点がいくつかあるので、ここに掲載し、お読みの皆さんの自由なご意見を請う次第。まだ非公式段階なので、意見が必ずしも反映されるとは限りませんが、よろしくお願いします。
メイクンブレイクは入門者部門、子ども部門?
時間内に積み木を組み立てるというプリミティブなゲームで、ゆうもあゲーム会でも好評な様子。でも小さいお友達には無理かな?
七つの印・乗車券は入門者部門、フリーク部門?
七つの印はルールはシンプルながらトリックテイキングの知識が楽しさの前提。初めての人には敷居が高いか? 乗車券は初心者からフリークまで楽しめるのが売りだが、日本人にはどうだろうか?
サンファンは国内ゲーム部門か?
まもなくメビウスから発売される完全日本語版。これまでの基準だと「総日本語パッケージで一般発売」を満たすため、国内ゲーム部門になってしまうがどうも違和感あり。昨年のアップルトゥアップル、一昨年のブロックスは国内メーカーによるものだったのでオリジナル版が海外産でも違和感をさほど感じなかったが(でもよく見るとAtoAはMade in China)、輸入代理店が海外で作らせているケースはどう考えるべきか?
…でもこういうのを考えるのはとても好きです。
2004/6/23
第3回(2004)から日本ボードゲーム大賞は主催団体であるゆうもあのスタッフによって構成された選考機関がノミネートした上で一般投票にかけるという仕組みを採用した。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。