スタイル、好み、経験 ―仲間づくりの一助として―

日本では、ここ1,2年でボードゲームが目に見えて広がってきた。カプコンによる『カタン』の発売や『ブロックス』のヒットから、マスコミで取り上げられる機会も増え、全国各地でゲームサークルが立ち上げられてる。また家族や仲間内でも遊ばれるようになり、プレイ人口はどんどん増えているものと見られる。

その結果、特に都市部では新しいゲーム仲間を求めて愛好者の交流が活発になってきた。今はインターネットで調べればすぐに情報が得られる。ゲーム会の開催をホームページで告知すれば、見ず知らずの人が結構遠くから参加することだって少なくない。ネットで知り合い、ゲーム会で初めて顔を合わせるということは、今や当たり前のようになってきている。

こうした動きの中で、「周りが内輪の仲間ばかりで疎外感を味わった」とか、「とんでもない人に参加されてたいへんな思いをした」という話をちらほら聞くようになった。特に、不特定多数の参加を募るゲームサークルにおいて顕著になることが多いようだ。ボードゲームを愛好する同好の士が集まったはずなのに、楽しめないことがあるのはどうしてだろうか?

ゲーム会には主催者が意図する方向性がある。一方、参加者にもそれぞれの嗜好がある。この2つがずれたままで歩み寄りがないとゲーム会は全く楽しくなくなる。いかに双方が(参加者が多い場合には参加者がより多く)歩み寄れるかがカギとなりそうだ。


初心者/経験者


ボードゲーム、特にドイツゲームで初心者/経験者というタイプ分けはあまり意味がないのではないだろうか。もちろん、経験は無駄になるものでは決してない。ルール理解も早くなるだろうし、ゲームから引き出される楽しさも増えるだろう。だが初心者は赤ちゃんではない。見下すことはおろか、親切にしすぎるのも考えものである。

将棋、囲碁などの伝統ゲームやモノポリー、アクワイアなどのアメリカゲームでは経験がものをいった。ハンデをつけたり、わざと手ぬるい打ち方をしない限り、経験者が断然有利である。したがってゲーム会ではレベル分けでもしないと楽しめないことになり、また新参者には敷居が高くならざるを得ない。

一方、ドイツゲームはわかりやすいルールと、ほどよい運の要素によって初心者でも入り込みやすく、また勝つチャンスも十分にあるように作られている。まったく興味のない人はともかく、そこそこやる気があれば遊ぶことができ、楽しむこともできる。これはマニアよりも一般をターゲットにしているドイツゲームの大きな利点だと思う。

それなのに経験者が初心者を一律に特別扱いするのは、あまり好ましいことではない。例えば「初心者はルールが多いと分かりづらいだろうから、簡単なゲームをさせよう」という余計な親切心が、初心者に「ボードゲームって所詮子供の遊びなんだな」といった印象を抱かせることになりかねない。さらには「初心者には『ニムト』でも遊んでもらって、我々経験者はこっちでアレアのゲームやってるから」などという初心者を見下したような態度は、ゲーム会を分裂させてしまうことだろう。

確かにルールの理解度では経験者の方がよく理解できる可能性が高いだろう。しかしだからといって初心者はみんな簡単なルールしか分からないということにはならない。初心者でもデジタルゲームの経験があって、ルール説明をうまくすれば戦略性の高いゲームにすんなり入り込めるだろうし、経験者だって難しいゲームはダメという人もいる。また初心者がゲーム会に溶け込めないかというとそうでもなく、経験者でも浮いてしまってさっぱりということもある。

実際のところ問題なのは、ゲームの好みやプレイスタイルである。これらの多くは経験に左右されるだろうが、経験がないからといって好みやスタイルもないということにはならない。初心者には初心者なりに、どういうゲームが気に入るか、またどういうプレイスタイルが合っているか潜在的にあり、それは決して一様ではない。

初心者か経験者かという色眼鏡で見ずに、その人自身のもつ志向性をよく見よう。

これに代わるパラメータとして、人生におけるプライオリティというものを提案する。わざわざゲームをするために時間を作る人ほどプライオリティが高く、余った時間に付き合い程度という人は低いと考える。人生にはいろいろな価値観や趣味があるので、どちらが優れているという訳ではないのは言うまでもない。しかし、プライオリティの高さが極端に異なる人同士で遊ぶのは、つらいことがあるかもしれない。


トーナメントプレイ/カジュアルプレイ


さてプレイスタイルとして愛好者を大きく分けるものに、「勝敗重視か否か」がある。ここではトーナメントプレイ/カジュアルプレイと呼ぶ。

トーナメントプレイは、勝つことを第一とするプレイスタイルだ。ドイツゲームでは勝敗に拘泥するよりもコミュニケーションを楽しむことが性質上推奨されているが、戦略を研究し、作戦を練ってベストの手を打つことに楽しさを覚える人がいるのも確かだ。こういう人たちの間では、ひとつのゲームで大会を開いたり、運の要素を抑えたゲームが好まれることになる。

一方、カジュアルプレイは、勝敗も気にするけど、楽しむことを第一とするプレイスタイルである。コミュニケーションを大切にし、場としての盛り上がりに価値を見出す。あまり長考することもなく、負けを決するようなまずい手でも気にしない。こういう人たちの間では、軽いゲームや新しいゲームを次々と遊んだり、運の要素が高いゲームが好まれるだろう。

このプレイスタイルの違いは想像以上に大きく、トーナメントプレイを主とするゲーム会にカジュアルプレイの人が行って不快な緊張を強いられたり、反対にカジュアルプレイのゲーム会にトーナメントプレイの人が行って物足りなさを感じたりするということはよく聞く。ゲーム会に溶け込めないならば、その大きな原因になっているのではないだろうか。

この2つのスタイルはどちらが優れているというものではない。自分のスタイルを分析し、それにあったゲーム会に参加する(または主催する)ことがストレスを減らす方法になるだろうと思う。もちろん、TPOでどちらのプレイスタイルでも楽しめるのが一番お得なのは言うまでもない。


クローズ/オープン


人付き合いには、狭く深くというタイプと、広く浅くというタイプがあるが、ゲーム仲間にもこのことが当てはまる。前から知っている人同士でないとどうも落ち着かない、知らない人とはなかなか打ち解けられないという人見知りの人は、自然にゲーム会がクローズになっていく。新しい人と出会うのが好きで、同じ人と深くつきあうのは気が進まない人はオープンな会を好むだろう。

クローズ志向のゲーム会に単独で新参者が入れば浮くのは当然のことだし、歓迎されないかもしれない。一方、オープン志向のゲーム会は新参者が入りやすいだろうが、定着してくれるかは分からない。クローズは親密だけど閉鎖的、オープンは開放的だけど浅薄という、どちらにも一長一短がある。これもどちらが優れているというものではない。

自分のスタイルを分析して、クローズ志向ならば気心の知れた仲間を集めてプライベートな会を、オープン志向ならば多少遠くのゲーム会に足を伸ばしたり、広く宣伝していろいろな人を集めてみたりするのもよいだろう。

付言すると、近年は付かず離れずの人間関係が好まれるためかオープン志向が増えているように見受けられるが、今、目の前に座って一緒にゲームしている人をコンピュータープレイヤーであるかの如く扱い、ひとつの人格を持った人間として見ていないような状況になっているとするならば由々しきことである。オープンにしろクローズにしろ、ボードゲームは一緒に遊ぶプレイヤーがいなければ成り立たないことを銘記し、敬意をもって接したいものである。


パワープレイ/ランダムプレイ


トーナメントプレイ/カジュアルプレイに多少関連するが、同じゲームを繰り返し遊ぶというプレイスタイル(パワープレイ)と、いろいろなゲームを転々と遊ぶプレイスタイル(ランダムプレイ)がある。前者は勝敗にこだわり戦略を研究したい人だけでなく、ルールを覚えるのに苦労する人にも見られ、後者は勝敗にこだわらず新しい刺激・楽しさを探したい人に見られる。

マナーとしては、他の人があまり遊びたくないようなゲームを強硬に主張したり、反対に他の人が遊びたがっているゲームをむげに断ったりしないのは当然のことですが、ゲーム会の方向性としてどちらにするかは参加者でよく話し合っておく必要があるだろう。これもどちらが優れているというものではない。


重め指向/軽め指向


何時間もかかる戦略ゲームを好むか、何十分かで終わる軽いゲームを好むかも考えなくてはいけない要素である。軽いゲームを好む人に長時間ゲームは酷だし、戦略ゲームを好む人に軽いゲームの連続は物足りない。

とはいえ、この指向は相容れないものではないと思う。重いゲームを遊んだ後には軽いゲームで息抜きをするなど、参加者に応じて上手に組み立てよう。


旧作指向/新作指向


傑作といわれる旧作をじっくり味わうか、発売されたばかりで評価も定まっていない新作を試すかという方向性の違いがある(中には日本で紹介されたことがなく、評価も定まっていない謎の旧作を遊んでみるということもあるがここでは考慮しない)。傑作とされている旧作は外れが少ないだろうが、新しいゲームの楽しさを発見するのも喜びである。これも重め・軽めと同様どちらかに偏ることなく、バランスよく織りまぜるのが正解と言えそうだ。


仲間作りは年月を要する


以上、円滑で楽しいゲーム会をめざして考察してきた。自分の持っている方向性と、参加者やゲーム会全体の方向性が近いほど、楽しい会になると思う。

ただし、この方向性は動かしがたいものではない。自分のスタイルと正反対の人もいるということを理解して、お互いに歩み寄ればよい関係が築いていけると思う。そのためには、何度か遊んでみながら関係を模索しなければならない。こちらが好みだと思っても相手がそうであるとは限らず、相手が好みと思っても私が嫌だということがあって、そこをしばらくつき合わせていく必要がある。ゲームと同じで食わず嫌いはダメですが、1,2度で判断するのも不十分だろう。

ボードゲームは確かに初対面でも人と人の垣根を簡単に取り払える素晴らしいツールだが、残念ながら万能ではない。最初からゲームが受け付けない人もいるし、1度や2度遊んだだけで万全の信頼関係ができるはずもない。仲間作りには長い年月が必要なのだ。

自分が年老いても、近所にゲーム仲間がいて昔話などをしながら遊べたら最高ですね!


おまけ:プレイスタイルチェックシート


中央の「どちらでもない・どちらでもOK」から、どちら寄りかをチェック。自分の性向を探るのにお役立てください。一例として私のものと、私がよく行っていたサークルのものを分析してみた。

なお、このスタイルシートは、タイプが合わない人・サークルを排除するためのものではなく、相対的なスタイルのずれを認識することで関係改善に役立てるためのものである。そのためには結局のところ、いろいろなスタイルに対応できる寛容性が大切だと思う。

Play Style Check Sheet(おの)

プライオリティ高  ■□□□□  プライオリティ低
トーナメントプレイ  □□□■□  カジュアルプレイ
クローズ  □■□□□  オープン
パワープレイ  □□□□■  ランダムプレイ
重め  □□□■□  軽め
旧作  □□□□■  新作

Play Style Check Sheet(YBGC)

プライオリティ高  □■□□□  プライオリティ低
トーナメントプレイ  □□□□■  カジュアルプレイ
クローズ  □□□■□  オープン
パワープレイ  □□□□■  ランダムプレイ
重め  □■□□□  軽め
旧作  □□■□□  新作

利用例:WEIRD WORKS 田中屋本舗 play:game 名工大シュミレーションゲーム友の会
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