書籍『ユーロゲーム』9月30日発売、データDL可
2012年にアメリカで出版されたボードゲームの研究書の翻訳。著者はオーストラリアの研究者で、博士論文を一般向けに書籍化したもの。タイトルにあるユーロゲームを中心に、ボードゲームを趣味として遊ぶホビーゲーミングの歴史と文化を扱う。
ユーロゲームといっても多様であるため漏れなく包括する定義ではなく、多くのものに見られる9つの特徴を挙げ、詳細に分析している。
①高品質な内容物、②具象的なゲームボード、③短くて比較的単純なルール、④お金や勝利点の相対的蓄積量を競う、⑤非対決的なメカニクス、⑥不完全情報、⑦個々人の達成を強調する歴史などのテーマ、⑧コントロール可能で軽減されたランダム要素、⑨1~2時間のプレイ時間
本書はゲーム研究に留まらない。Boardgamegeekユーザー調査からボードゲーム愛好者(ホビーゲーマー)の多くが「特定の知的レクリエーションに対して過大な関心を持つ、教育水準の高い男性」であると分析。必然的にコレクターになりやすいことを示す。そして最後に、プレイヤーはボードゲームのどこに「悦び」「快」を見出しているか、他人のそれと両立しないときにどう折り合いをつけているかを考察し、合理的プレイヤー・快楽主義的プレイヤー・社交的プレイヤー/プレイスタイルの分類を行っている。
訳者のひとりである沢田氏は今年、「ユーロゲームの誕生と消失」(『現代風俗学研究』第20号)という論文を発表しており、先日のゲームマーケットライブでは「ユーロゲームとは何か」という2時間の講義を行っているが、どちらもこの書籍を参照した内容で、ボードゲームという趣味に新しい視点を与えてくれる。
小中学生のためのボードゲーム発明体験教室
近くの学習塾で、「ボードゲーム発明体験」というシリーズ授業があり、その中の1回を担当した。対象は小学校低学年・小学校高学年・中高生の3クラス。第1回でトランプゲームを遊んで面白いところを付箋に書き、第2回でトランプゲームのルールを変えて新しいゲームにし、第3回で海外のボードゲーム(『ディクシット』と『アズール』)を遊ぶ。第4回でボードゲームの歴史やトレンドを俯瞰してから、第5~10回で作る・遊ぶ・改良するというのを繰り返していく。
私が担当した第4回は、まず「ボードゲーム」などの呼称で含まれるもの・含まれないものの話から、カジノ、SLG、TRPG、TCG、ミニチュアゲームなど一大ジャンルを形成しているアナログゲームを紹介。それから「伝統ゲーム」「20世紀のマスマーケットゲーム」「90年代からのドイツ・ユーロ・モダンボードゲーム」「10年代からの日本ゲーム」と時代を下りながら、代表的な作品とそれぞれのカテゴリーの特徴(プレイ人数、ターゲット層、プレイ時間、運の要素、テーマ、作者の明示)について話した。
さらに現在の3つの流れとしてファミリーゲーム、ゲーマーズゲーム、パーティーゲームがあるとし、その新しいトレンドとして協力ゲーム、謎解きゲーム、1人用ゲームがあること、新しいトレンドの背景にはネガティブなインタラクションの回避があることを指摘した。
ただ話を聞いているだけでは退屈だろうと思い、途中途中で実際にボードゲームを出してちょっとだけ遊んでもらった。伝統ゲームで『投扇興』、パーティーゲームで『ジャストワン』、日本ゲームで『はぁって言うゲーム』、協力・謎解きゲームで『ミクロマクロ・クライムシティ』を紹介。百聞は一見にしかずである。
そしてこれからボードゲームを作る上で、チェックポイントを10点ほど提示。最後にインクルージョンという、国内外のボードゲームシーンで取り組まれている動きについて話し、ボードゲーム以外にも応用してほしい視点を提示した。
ボードゲームにはコミュニケーションツールという側面がある。その側面から見たとき、新しいボードゲームを考案するということは、新しいコミュニケーションの取り方を見つけるということになる。世の中にはさまざまなタイプの人がいること、どういう人ともうまくコミュニケーションを取るにはいろいろな工夫が必要なこと、そういう工夫を諦めて人と関わらないようにするのは一番楽な方法かもしれないけれども、それでも辛抱強く他人と関わるといいことがあるかもしれないことなどを子どもたちに学んでほしい。
学習塾で「ボードゲーム発明体験」。6回の授業で今のボードゲームを遊びつつ、トランプのルールを改良したり、新しいゲームを考えたりします。そのうち1回を担当して、現在のトレンドを紹介。 pic.twitter.com/phvd9yMjlq
— TableGamesintheWorld (@hourei) July 24, 2021