遺跡の発掘競争『ペルガモン』日本語版、10月4日発売
オリジナルは2011年、エッガートシュピーレ(ドイツ)から発売されたものを2022年にイーグル・グリフォンゲームズ(アメリカ)が再版した。パッケージの背景色が茶色から青色に変更されている。現在のトルコにあるペルガモン遺跡の発掘競争ゲーム。
コマを置いて資金を得るが、資金が少なければ少ないほど、手番が早くなる。お金は発掘だけでなく、発掘品の保管や、価値を高めるための研磨に必要だが、手番が遅くなるといい場所がなくなるかもしれない。
発掘現場では、発掘権をとった場所でお金を払って発掘できる。深く掘るほどお金がかかるが、価値のある発掘品が得られるだろう。発掘品は2つのパーツに分かれており、これを組み合わせて博物館で展示する。価値の高い発掘品で最もたくさんの訪問者を集めたプレイヤーが勝利する。
コロナ禍でのボードゲームブーム
ボードゲーム好きな司法書士の知り合いからの紹介で、「人と人をつなぐボードゲームの世界」というテーマで『月報司法書士』2022年9月号から1年間連載することになった。ほとんどが法律関係というほかの記事とのギャップが凄まじいが、ボードゲームを知らない人に、大人が楽しむ趣味であることをわかってもらえたらいいなと考えている。
ドイツのボードゲーム賞に日本人作品が入賞
授賞式のスピーチの中で、審査委員長はウクライナ危機に触れ、「ボードゲームは国際的で、寛容と平和的共存を意味します。誰でも一緒に遊べて、世界のどこにいても同じルールでプレイできるからです」と述べている。現実には世界で一方的なルール破りが横行し、不寛容で共存を嫌う社会になりつつある。ドイツのボードゲーム賞であるにもかかわらず、今回のノミネート作品がアメリカ、日本、フランスとすべてドイツ国外の作品だったことも、ウクライナ危機で高まる国際連帯意識と無縁ではない。
ボードゲームブーム
コロナ禍によるステイホームに合わせて、世界中でボードゲームがブームになっている。親子や夫婦で遊ぶ人が増え、ドイツやアメリカではボードゲームの売上がコロナ禍前と比べて2割程度の増加となった。日本でも書店や量販店がボードゲームを扱い始め、テレビ番組ではよくお笑い芸人がボードゲームで盛り上がっている。
しかしボードゲームは子どもの遊びというイメージが強い。今なぜ大人がボードゲームに興じるのだろうか。
①デジタルデトックス
パソコンの前で1日中過ごし、空いた時間にはスマホを見、オフにはネット動画やテレビゲームで過ごす生活は、ずっとスクリーン(液晶画面)を見ていて目も脳も疲労する。そこでデトックス(毒消し)をするためにアウトドアの趣味が人気だが、自宅でちょっとした時間にできるのがボードゲームだ。ボードゲームを遊んでいる間は、スマホを見ることができない。こうして「最新のドラッグ」であるスマホを断つことで、目や脳を休め、リフレッシュすることができる。
②コストパフォーマンス
ボードゲーム愛好者は20~30代に多い。金銭面で将来への不安がある中で、お金をあまりかけないで実質的に楽しめるのも大きなメリットだ。ボードゲームは3000円前後で販売されており、複数人で何度も楽しむことができる。4人で10回遊べば1回あたり75円。こんな安さで何時間も過ごせる趣味はなかなかない(ただし筆者のように重度の愛好者になると新作をどんどん買ってしまうのでその限りではない)。
③バラエティ
東日本大震災直後の節電ブーム、ボードゲームカフェブーム、そしてコロナ禍のステイホームも重なり、ボードゲームの需要は急増しており、今や年間500種類以上の新作が発売されている。1人用から多人数用、キッズからシニアまで、5分くらいで終わるものから数時間かかるものまでバラエティ豊かで選びきれないほどだが、特に普段遊ばない人が手軽に楽しめるボードゲームが充実したことで、YouTubeやテレビで盛んに取り上げられるようになり、手に取る人が増えた。
冒頭で触れた日本人作品『スカウト』も、20分くらいで遊べる手軽なカードゲームである。大富豪(大貧民)のように、手札から同じ数や連番を出して手札を先になくした人が勝つゲームだが、手札を並べ替えてはいけないルールと、前に出した人からカードをもらえる「スカウト」というルールにより、エキサイティングで奥の深いゲームになった。国内でもボードゲーム専門店やネット通販で購入できるのでぜひ遊んでみてほしい。
リアルに如くはなし
私がボードゲームを好んで遊んでいる理由は、かけがえのない仲間とのリアルなつながりである。確かに今は遠くに住んでいてもSNSで簡単に連絡を取り合うことはできるし、ZOOMをつなげばお互いの顔も見えるが、実際に会うのにはかなわない。最近のできごと、美味しかった食べ物、世相に思うこと、懐かしい思い出、そんなとりとめもない話をしながらボードゲームを遊ぶ。すぐとなりに座っているので、ちょっとした仕草や表情も手にとるようにわかる。ポーカーフェイスに心の内を読み、見事な一手に唸り、楽しい瞬間に一緒になって笑う。やがてボードゲームで出会った仲間が旧知の親友となり、休日の半日が心からリラックスできる楽しいひとときとなる。自分も独りでは生きられない「人間」であることを悟る。
孤独は現代の大きな問題である。アメリカの研究で、社会的に孤立している人は、つながりを多く持っている人よりも男性で2.3倍、女性で2.8倍亡くなりやすいという。新型コロナウィルス感染症の流行でうつ病やうつ症状の人の割合が2.2倍になったのも、外出ができなかったり、職を失ったりしたことによる社会的孤立が大きな要因となっている。イギリスでは2018年、ミニスター・フォー・ロンリネス(孤独問題担当大臣)が設置された。
素養も練習もいらず、長い時間をみんなで過ごせるボードゲームは、孤独の解消にうってつけの趣味である。本エッセイでは12回にわたって、人生を充実させるボードゲームの世界と、ボードゲームが映し出す現代世相のさまざまな側面について、司法書士と関連のありそうなトピックを取り上げて、思ったことを書き連ねていきたい。
(月報司法書士9月号に掲載)