Posted in エッセイ

勝利点とは何か?

ボードゲームでは、しばしば「勝利点(英・victory point、独・Siegpunkt)」というものが用いられる。『カタン』では10勝利点を先に獲得すれば勝利となるし、『ドミニオン』ではゲーム中に役に立たない屋敷・公領・属州が終了時に勝利点になり、『アグリコラ』では農場の出来栄えを勝利点に換算する。ほかにも勝利点を使うゲームは枚挙に暇がない。
BGGには「勝利点はいつから使われるようになったのか」という議論はあるが、勝利点とは何か調べても、「勝利に必要なポイント」ぐらいの説明しかない。『ゲームメカニクス大全』では、「デザイナーはゲームのテーマによりふさわしい勝利を定義するべく、勝利点以外の方法を模索するべきである(Chapter 5:ゲーム終了と勝利)」と記載され、テーマのないニュートラルなものとみなされている。
確かに勝利点に特定のテーマはないが、ゲーム内での用いられ方により、何を意味するか類推することはできる。そこには私たちが、何を目指してゲームに取り組むのかという問題が内包されている。
1.勝利点はお金ではない
人生ゲームで「なんで終わった時にたくさんお金持ってる人が勝ちなの?」と子どもが尋ねた話が話題になっている。勝敗をお金ではなく、勝利点で決めるゲームはこの疑問に一つの答えを出すものだろう。「人生に勝敗があるとすれば、お金とは別な、何か大事なもので決まるんだよ」と。「大事なもの」のためにお金は必要なこともあるが、あくまで二次的なものでしかない。


確かに『スモールワールド』など、勝利点をお金のように出し入れするゲームもたくさんあるが、勝利点=お金とはみなされない。「プレイヤーは通常、お金をテーマにしていないほうが勝利点の使用に慎重になる(『ゲームメカニクス大全』)。」「投資」できるお金と違って、一度獲得したら失いたくないものが勝利点なのである。それでは失いたくないものとは何か。
2.勝利点は名誉である
『村の人生』や『キングドミノ』など、勝利点と呼ばずに「名声(名誉)点」で勝敗を決めるゲームもある。ドイツゲームによくある設定で、プレイヤーが一族/王国/お店などを率いて、その名声を競うというものである。お金も使うゲームの場合、高い名声点を得るにはそれなりの大枚をはたかなければならない。「名声は買えるのか?」という問題は残るが、実社会でも寄付行為などにはそのような一面があるのは確かだ。
『ティーフェンタールの酒場』の勝利点はその酒場の名声、『ウイングスパン』の勝利点はその自然公園の名声と考えると分かりやすい。『ドミニオン』の勝利点は主に土地からもたらされるが、影響力、あるいはそこからもたらされる名誉と考えることもできる。しかし、名誉欲が満たされるというのは、金銭欲が満たされるのとさほど違わないようにも思われる。
3.勝利点は幸福度である
珍しいケースではあるが、『サンタマリア』では勝利点に代わるものとして「幸福点」がある。このゲームは入植地の住民の幸福度で勝敗を決める。植民地の征服を前提とした幸福というのもどうかと思うが、お金とは別の価値軸が提示されているのは確かだ。『カタン』の勝利点も、開拓地の住民の暮しやすさと考えれば幸福度を競っているともいえるだろう。
「幸せはお金では買えない」という言説は広く浸透しているが、経済学的にはGDPが増加すると生活満足度も上昇するという分析もある。お金の影響はもちろんゼロではないが、時代はいかにお金を稼ぐかよりも、限られたお金でいかに幸福になれるかという方向に移っている。お金から幸福度への効率的な変換という視点は、ゲーム内と実社会の両方において通用する考え方であろう。
4.勝利点は承認である
名誉と幸福度はゲームの中での出来事だが、メタゲーム的な観点で、勝利点は他プレイヤーからどれくらい承認されているかを表す尺度であると考えることもできる。目標カードに記されたリソースを揃えたり、タイルをきれいに並べたりすることで、他プレイヤーから得られる称賛を、その素晴らしさによって数値化し、出来栄えの最も良かったプレイヤーを勝者とする。『アズール』の勝利点はそのように解釈できる。
協力ゲームやチーム戦ゲームでの勝利点は、メンバー全員がお互いにどれくらいまで承認しあえるかという尺度になる。成績がよければよいほど、お互いを頼もしく感じ、たくさん褒め合うことになるだろう。
以上、「お金とは異なる勝敗の基準」という文脈で勝利点を考えてみた。これらはひとつの解釈であってほかの可能性もありうるが、上記をまとめると心理学者A.マズローの説く人間の5段階欲求※1のうち上位の「社会的欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」が満たされることになりそうだ。ささやかながら高次の欲求が満たされたとき、私たちは文字通り「優勝」※2することができる。
※1 人間の欲求を生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求、自己実現の欲求という5段階の階層で理論化したもの。
※2 「高揚感を味わう」「おいしい料理を食べる」という意味のネットスラング。

Posted in 国産新作ゲーム

アークライトから「ミステリーポータブルシリーズ」3タイトル、10月29日発売

アークライトゲームズは10月29日、「ミステリーポータブルシリーズ」として3タイトルを発売する。ミステリーをテーマにした体験型ゲームで、カードを使用した謎解きや、マーダーミステリーなど、基本的に一度しか体験できないゲームをお手頃な価格でリリースしていく。
第1弾はマーダーミステリーゲーム『消えたパンツと空飛ぶサカナ』。ある朝、シェアハウスで暮らす春魚サワラはお気に入りの下着がなくなっていることに気付く。もしかしたら誰かが盗んだのかも!? 住人を呼び出し下着の行方を追いますが、事件は意外な方向に進み……? 物語の登場人物になりきり、犯人を推理する(犯人は逃げ切る)ことを目指す。ゲームデザイン・かわぐちまさし(ディアシュピール)、5人用、15歳以上、60分、2000円(税別)。
デザインを手掛けたかわぐちまさし氏は東中野のボードゲームカフェ「ディアシュピール」店主で、国内外のマーダーミステリー作品を早い段階から上演している。
内容物:封筒A(シナリオブック×5、カード×20、遊び方説明書×1)、封筒B(シナリオブック×5、カード×14、回答用紙×5、遊び方説明書×1)、封筒C(真相・目的確認書×1)
kietapantsu2.jpg
第2弾は協力型推理ゲーム『白猫はどこに消えた? ~寝古屋探偵 最初の事件~』。猫の言葉が分かるという特技を活かし、猫捜しを主とした探偵業を始めた寝古屋さん。彼と調査対象の会話が、30枚のカードに書かれている。この情報をヒントに、迷子の白猫の居場所を見つけよう。カードをめくるだけのルールで、会話も楽しめる推理ゲームだ。ゲームデザイン・秋山真琴、イラスト・雛川まつり、1~5人用、10歳以上、45分、2000円(税別)。
デザイン担当の秋山真琴氏はボードゲームサークル「ミスボド」主催で、ゲームマーケット大賞の審査員も務めた。ブログ「雲上四季」では謎解きやボードゲームを数多くレポートしている。
内容物:情報カード 30枚、遊び方説明書 1冊、封筒(エンディングの書封入)1通

第3弾はクトゥルフ神話がテーマの推理ゲーム『インスマスから届いた手紙』。呪われた町インスマスで恐ろしい体験をした過去を持つ5人の男女。彼らが忘れてしまった子供の頃の記憶が、30枚のカードに断片的に書かれている。この情報をヒントに、プレイヤー全員で呪われた子供の正体を解き明かす。ゲームデザイン・内山靖二郎(ルール原案・秋山真琴)、イラスト・ノッツォ、1~5人用、10歳以上、45分、2000円(税別)。
内山靖二郎氏はライトノベル作家で、クトゥルフ神話TRPGのシナリオやリプレイも発表している。
内容物:情報カード 30枚、封筒 1通、遊び方説明書 1冊、アフターストーリーブック 1冊