ふたつの『セカンドベスト』はなぜ作られたか

2人用アブストラクトゲーム『セカンドベスト』がJELLY JELLY GAMESから発売された1ヶ月後、ダイソーからも発売された。JELLY JELLY GAMES版は総木製で4400円、ダイソー版はEVA樹脂コマと紙製で110円である。これだけの短期間に同じゲームが2社から発売されるのは珍しい。なぜそうなったのか、競合する心配はないのかを、JELLY JELLY GAMESの白坂翔氏、大創出版の西田大氏、そして『セカンドベスト』デザイナーのダイキチ氏(Qlios/ボードゲーム帝国)に伺った。

2020年暮れ、ダイソーから発売された『トウキョウのハト エサバ・バトル』について、ダイキチ氏が自身の作品『宇宙将棋』の盗作ではないかとツイートした一件があった。暮しとボードゲーム「パクリ問題と著作権を語る夕べ」で取り上げられたのでご記憶の方もいると思う。大創出版としては大部数を製作する関係上、事前チェックは十分に行っており、創作同人作品からセレクトして製品化する「デザイナーゲームシリーズ」においても情報を集め、問題がないことを確認して製品化していた。

そういったわけで盗作でないことはもちろん確認していたが、結果において既存のゲームと似てしまうことはあり得る。そこで『アロハ! バーガー』の作者である森晋太郎氏(mor!_boardgame)が仲介し、開発経緯を説明したところ、ダイキチ氏は「自分と似たようなゲームを作る人がいるんだ」という認識に変わったという。

一方、森氏は大創出版にダイキチ氏の作品『セカンドベスト』を紹介し、西田氏はぜひ大創出版で商品化したいと考えていた。そこで説明を受けに来たダイキチ氏にオファーし、ダイキチ氏は意表をつかれながらも快諾。怪我の功名というべきだろうか、そこからダイソー版『セカンドベスト』の開発が始まった。しかし『セカンドベスト』を110円にするのは容易ではない。箱の大きさ、コマの材質、ゲームボードの箔押しなど、格段に難しい開発となり、試作品を作り直しを余儀なくされたところに、新型コロナの感染拡大が絡み、スケジュールが延びてしまった。

その頃、西田氏は別件でJELLY JELLY GAMESの白坂氏と会った際、開発中の『セカンドベスト』を一緒に遊ぶという機会があった。ボードゲーム業界は狭いものだ。白坂氏はとても気に入り、ダイソーから発売されることは承知の上で「うちでも出したい」という。「ダイキチさんのゲームなので、私が判断することでないし、100円でなければダイキチさんを紹介するよ」という西田氏に、白坂氏は「100円でできるかよ! 是非紹介して!」という流れになり、JELLY JELLY GAMES版の製作が決まった。ダイソー版は一般向け、JELLY JELLY GAMES版は愛好者向けで互いに両立するどころか、知名度向上による相乗効果も期待できるはずという考えである。

当初は共にゲームマーケット2021秋前の情報公開を目指していたが、上記のような事情からダイソー版は間に合わず、1月になってからの発売となった。ダイソーの各店舗に電話の問い合わせがあると業務に支障をきたすため、事前情報は出せなかったが、JELLY JELLY GAMES側は問屋および直接取引のある小売店には伝えていたという。

このように、同じ作品が2社から発売されたのは意図的なものであり、競合によって売れなくなることよりも、全方向的にユーザーが増えることを目指したものだった。ダイソーのデザイナーボードゲームシリーズは年明けに『セカンドベスト』など6タイトルを加えて計18タイトル、サンリオコラボ作品を含めれば21タイトルにものぼり、さらに今後の計画もある。

110円という価格で販売されていることに否定的な愛好者もいるが、大創出版ではボードゲームを知らない一般層に知ってもらいたい、楽しんでもらいたいという強い思いが当初からある。さらにクリエイターにも、ボックスの目立つところに名前を入れることで実績にしてほしいという思いを常に心がけているという。プレイヤーとデザイナーの両輪が拡大することでボードゲームは一時的な流行ではなく、ひとつの文化となる。「『セカンドベスト』が日常でも楽しまれ、今年の流行語大賞にノミネートされるくらい広がってもらえると嬉しい」と西田氏は語った。

(左上:大創出版・西田大氏、左下:JELLY JELLY GAMES・白坂翔氏、右下:Qlios・ダイキチ氏)

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