たとえ東京が焦土となっても
3枚のゲームボード、各自のプレイヤーボード、テキストいっぱいのカードが並ぶコンポーネントに怯んでしまう人もいるかもしれないが、砂時計を使うこともあってプレイ時間は長くない。プロデュースした渡辺範明氏(ドロッセルマイヤーズ)によれば、ルール説明は20~30分くらいにしてカードの説明を敢えてせず、ゲームを始めたほうがいいという。実際、始めてみると複雑さは感じられない(正確には、感じる余裕がない)。
ボルカルスが渋谷周辺に着いたところからゲームは始まる。すでに緊迫した状況である。ラウンドの進行は、怪獣緊急対策本部のプレイヤーが相談してカードをプロットし、その後ボルカルスのプレイヤーがカードをプロット、順番にめくって解決するという流れだ。
カードが実行される順番は4人プレイの場合、プレイヤーAの1枚目、怪獣、プレイヤーAの2枚目、プレイヤーBの1枚目、怪獣、プレイヤーBの2枚目、プレイヤーCの1枚目、怪獣、プレイヤーCの2枚目。A、B、Cの順番もプレイヤー間で相談して決める。攻撃のための予算をとったり、市民を避難させたりするのは先になるだろう。
問題は、怪獣緊急対策本部の相談を、ボルカルスが聞いてからプロットできるということだ。プレイ感が似ている『パンデミック』との大きな違いがこれである。予算を取っていれば先制攻撃され、避難しようとすれば先回りされる。そのため相談内容は時にぼかさなければならない。しかも相談時間は砂時計で制限されている。焦りやミスコミュニケーションでプロットミスも出る。
しかし制限時間があるのはボルカルスも同じで、裏をかいて行動するのは容易でない。全員避難して攻撃が空振りということも。しかしボルカルスは溶岩を撒き散らしながら、ゲームの始めに密かに指定された街(陥落させると勝利に大きく近づく)に向かう。しかも溶岩を撒き散らすと進化を遂げ、ただでさせ強力なアクションがさらに強化されるのだ。
怪獣緊急対策本部は消火や救出、怪獣への攻撃をするたびに「防衛」トラックにコマやタイルが置かれ、ボルカルスは市民を殺したり街を陥落させたりするたびに「被害」トラックにコマやタイルを置く。最後のマスまで先に埋めたほうが勝利する。序盤はボルカルスが圧倒的な力でマスをどんどん埋めていくのに、怪獣緊急対策本部が追いつけるかの勝負である。
「ボルカルスが六本木に向かっています! 六本木には市民がまだ残っています」「仕方ない、六本木はどうせカップルばかりだろ!」「ひどい……」「それよりも兵器の開発を優先しよう!」ボルカルスのプレイヤーすらも苦笑いする非情プレイで「特殊冷凍弾」を発射。最後の最後に「人工降雪作戦」まで成功させ、東京を陥落させたボルカルスを寸でのところで撃退。多大なる犠牲を払っての人類の勝利であった。
映画の登場人物になったかのような没入感。怪獣緊急対策本部側には役職がいくつかあるので、ボルカルス役も含めて役割を交替すれば、新たな気持ちで、さらにレベルの高い戦いを繰り広げられそうだ。『シンゴジラ』を繰り返し見たくなるかのように。
ボルカルス
ゲームデザイン・上杉真人、イラスト・開田裕治&中村豪志
アークライトゲームズ(2019年)
2~4人用/10歳以上/60~80分