『プレイセラピー入門──未来へと希望をつなぐアプローチ』

発達障害などの問題を抱える子どものカウンセリング・心理療法として一般的に行われているプレイセラピー(遊びを通して行われる心理療法)の考え方や、効果的なものにする注意点、大切なポイントを多面的にまとめた一冊。著者は臨床心理士でもある丹明彦・目白大学心理カウンセリング学科准教授。スクールカウンセリング専門誌『子どもの心と学校臨床』の連載を加筆修正したものである。

子供の状態や症状に合わせた適切な「遊具」を選択することを、筆者は大げさに「ゲーム処方」と読んでいる。「遊具」はプレイセラピーにおいて、子供の症状や問題の解決をサポートする「薬」のような効果をもつからである。そして、「処方」するというからには、常に多くのゲームと接し、体験を重ね、その意味や意義を考え、膨大な知識とルールの把握が求められる。(第1章 プレイセラピー再考)

具体例として各章の最後に「オススメ遊具コーナー」としてボードゲームが紹介されている。『ブリッとでるワン』から『ザ・ゲーム』まで幅広く紹介されており、「2人専用」「バランスゲーム」「リズムゲーム」「コミュニケーションゲーム」などに分類されているところも分かりやすいが、ゲーム内容の紹介だけでなく、治療効果や使う上での留意点まで考察されていて、いろいろな性格の子どもと遊ぶ上でたいへん参考になる。
本文は学術的な見地で書かれてはいるけれども、「入門」という通り分かりやすい。セラピストでなくても、親や教育関係者など、子どもと関わる人にとって興味深い内容だと思う。

  • 子どもの問題行動が増えたことは、リーマンショック以降に家庭の平均収入が下がったことと関連がある
  • 自閉症やADHDの子どもたちに対する有効な療育的アプローチ「DIR」の中核的技法は、一日に数回、20分程度大人が床に降りて子どもの目線で関わる「フロアタイム」だった
  • プレイルームでの遊びは、学校や家庭で繰り返される「ケ」の生活に疲れた子どもたちが「ケ枯れ」を払う「ハレ」である
  • 強い緊張感と不安感、コミュニケーション拒絶、場面緘黙、行動しないといった場合には『ひつじがいっぴき』(グランディング)のような心的侵襲性の低いゲームを
  • 『アンゲーム』『こころカルタ』は質問が答えにくく遊びが足りないのでお勧めできない
  • 「~しなさい」と指示したり注意や叱責したりする前に「今何するんだっけ?」「次何するんだっけ?」「それっていいことだっけ? 悪いことだっけ」「だったら今度そういうことがあったらどうしたらいいんだっけ?」と問いかけ、本人に自分で気づかせる
  • 今日の遊びのスケジュールを自分で決め、変更手続きも用意し、最後にかんたんに振り返る「構造化プレイセラピー」
  • 小中学生・高校生以上グループに分かれて2時間ほどで近況報告・集団ゲーム・おやつ・振り返りをする「グループセラピー」。人狼やブラフゲームも

改めて考えると、小学校・学童保育のボードゲーム体験も広い意味でプレイセラピーといえる。遊ぶ子どもに応じたゲームを選び、子どもたちとコミュニケーションを取って信頼関係を醸成し、子どもたちは非日常空間を作り出してリフレッシュする。子どもに限った話ではない。大人だけで遊ぶ場合も、ボードゲームには癒やしの効果がある。遊ぶばかりでなく、近況報告をしあったり、食事をしたりするのも含めて、この趣味の魅力だということだろう。

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