2012年、ボードゲームメッセ「シュピール」参加に合わせて、バイエルン・ボードゲームアーカイブを訪れた。20000点のボードゲームがここに収蔵されている。常時公開されているものではないが、懇意にしているT.ヴェルネック氏(写真)にお願いしたところ、快く見せて下さった。
トム・ヴェルネック氏(73)
バイエルン・ボードゲームアーカイブは南西ドイツ、ミュンヘン近郊のハール(Haar)という街にある。 ミュンヘン中央駅からも、ミュンヘン空港駅からも、各駅停車(S-Bahn)で40分くらい。駅から歩いて5分くらいの福祉施設の中にある。ここに暮らしているヴェルネック氏のコレクションが5000点を超え、ベッドの下から、天井まで家中のあちこちに置かれているのを奥さんに怒られたのが、アーカイブ設立のきっかけだったという。
ハールは人口20000人の街で、みんなお互いに知り合いだというヴェルネック氏。市長とかけあって、幼稚園の地下倉庫を提供してもらうことになった。個人のコレクションに自治体が保管場所を提供するというのは驚きだが、ボードゲーム文化への理解と、管理好きなドイツ人の気質があってのことだろう。現在、市庁舎の地下に1部屋を設けて、市長が来賓にボードゲームを見せられるようにする準備を進めている。
幼稚園の一角に入り口がある
アーカイブの仕事は、ボードゲームを分類し、出版社やサイズに合わせて棚に収納するだけでなく、マスコミの取材対応もある。アーカイブの存在は広く知れ渡っており、テレビや新聞が、ボードゲームの特集をするときには実物の写真を撮りにくる。ドイツ国内の出版社は、9割が新作を無償でアーカイブに提供しているというが、それも自社製品をマスコミで取り上げてもらえるという効果を期待してのことだろう。ボードゲームだけでなく、関連書籍も網羅されている。
奥行きのある収納庫
棚に番号をつけて、どこに何があるかすぐ分かるようにしている
世界各国の書籍も収納されている
毎月のように無償でボードゲームが届き、それを分類して広い棚に収納していくのはボードゲーム愛好者の夢である。アーカイブのゲームは品質管理のため貸し出しを行っていないが(ちなみに地下でかびないように、大型の除湿機を24時間動かしている)、スタッフなら遊ぶことができる。また、こことは別にボードゲーム会場があり、そこにもボードゲームが置いてあって近隣の愛好者で楽しんでいるという。
ヴェルネック氏はもうひとつ、ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)の設立者でもある。この賞は1979年、7人の審査員でスタートしたが、その基本構想はヴェルネック氏がトーレ氏と共に作ったものである。以来、ずっと審査員を務めてきたが「ドイツ年間ゲーム大賞は、もう大人になったから手をかけないでよくなった」と2009年に引退した。
ちなみにヴェルネック氏の本業はアーカイブ管理ではない。シーメンス社員を経て、企業の社内コミュニケーション研修のコンサルタントをしてきた。ほかにも自家用飛行機が趣味で、セスナ機を所有している。アーカイブの上の階は幼稚園になっており、ヴェルネック氏のお孫さんも通っていた。「おっと時間だ」アーカイブの秘密の階段を通って、お孫さんを迎えに行くヴェルネック氏。子供たちがアーカイブを荒らさないように、秘密の階段には厳重に施錠しているという。幼稚園の地下にあるおじいちゃんの秘密基地、何だかとってもカッコいい。
ヴェルネック氏の奥様は日本在住経験があるというので伺ったら、奥様の祖父が天皇陛下のドイツ語教師だったという。アーカイブの管理費を市に負担してもらっていたり、ドイツ年間ゲーム大賞の設立者であったり、お孫さんの幼稚園は上の階にあったり、度肝を抜かれる話ばかりだった。
ミュンヘンでも毎年11月に「シュピールヴィーズン(Spielwies’n)」というボードゲームメッセが行われている。遊ぶ方をメインにしたメッセで、3000タイトルのボードゲームが用意され、3日間にわたって開催される。こちらもいつか訪れてみたい。
写真撮影:ふうかさん