山形新聞連載コラム(8):結婚という協力ゲーム

9月13日の日曜随想掲載分。前回はこちら
 宗派を問わず長井市内の寺院27ヶ寺で構成される「長井市仏教会」で、「寺コン」という婚活イベントを始めて6年になる(今年は新型コロナで中止)。お寺の本堂を会場に、落ち着いた雰囲気の中で結婚相手を探すというもので、毎回20人ほどの男女が集まり、自己紹介、ミニゲーム、フリートークをして、良縁祈願のご祈祷を行い、最後に気に入った相手の封筒に自分の連絡先を入れて帰る。カップルの発表などは行わず、封筒を開けて気になった人がいれば各自が連絡するようにしている。
 初対面の参加者が打ち解けるのにうってつけなのがボードゲームだ。「結婚」などのお題から連想するものを五つ書いて、他の人と一致していたら得点という『フラッシュ』、「ベストな旅行先」などのお題にみんなが回答を書いて、その中から出題者がお気に入りを選ぶ『ベストフレンドS』、一文字ずつ書き込んでみんなで俳句を作る『詠み人知らず』など、いくつかのグループに分かれて遊んでもらうと、お互いの性格が(良くも悪くも)見えてくるものだ。その後、ほかの婚活イベントでもボードゲームを遊んでもらっているが、毎回大盛り上がりだ。
 仏教会で婚活支援に取り組んだのは、檀家さんが「跡取り」を作って家を存続させてほしいという思いがあったからだが、そうは問屋が卸さず、これまで百人以上が参加して成婚報告はゼロである。日本では現在、男性の4人に1人、女性の7人に1人が生涯未婚という状況であり、今後更に増えていくという。晩婚化も進んでおり、婚活支援は少子化対策としてではなく、社会福祉として行うべきではないかと思うほどだ。
 この「寺コン」がきっかけとなって筆者は長井市の婚活サポート委員となり、毎月市役所に集まって会議しているが、さらに今年度から県のライフデザインセミナー講師に任命された。「ライフデザインセミナー」とは、仕事、結婚、子育てについて高大生に情報を提供し、ワーク・ライフ・バランスを加味した人生設計を立ててもらおうというものである。7月に九里学園高校(米沢市)で行われたセミナーでは、結婚を「しなければいけないけれどもできないもの」ではなく、「できるけれどもするかしないかは自分で決めるもの」と捉え、とにかく自信を持ってもらうことを主眼として話した。
 後半は「ロールディベート」で、「仕事で帰るのが遅い夫」チームと、「自分も働いていて家事をしてほしい妻」チーム(どちらのチームも男女混合)に分かれて家事分担について話し合ってもらった。こういうときの司会ではボードゲームの経験が役に立つ。「役割になりきって発言」「グループで作戦タイム」「悪口、けんか腰、汚い言葉は禁止」「判定は聴衆」などのルールを説明し、発言が出てこないときはヒントを出す。壇上で緊張していた生徒たちは次第に積極的に発言するようになり、最後に聴衆に挙手で判定してもらったところ引き分けという劇的な結果となった。
 家事や育児の分担は「協力ゲーム」である。「家が片付く」「子供が健やかに育つ」という共通の目標を達成するためにそれぞれができることを調整し、勝敗も共にする。苦難があっても知恵を出し合って乗り切れば喜びとなる。協力ゲームの楽しみを損なうものとして、一方に任せきりにして言われるがままとなる「奉行問題」や、うまく行かなかったときに誰かのせいにする「戦犯問題」があるが、家事や育児においてもそうならないよう、夫婦がそれぞれスキルを磨いて主体的に参加し、失敗してもカバーし合うことが大切である。この発想で結婚のイメージも変わるのではないだろうか。

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