自転車操業の資金繰り『ポンジスキーム』日本語版、2月3日発売
オリジナルはホモサピエンスラボ(台湾)から2015年に発売された作品。輸入版も話題となっていたが、このたび日本オリジナルのアートワークでの日本語版となる。配当を支払うために投資を募る自転車操業詐欺ゲーム。
手番には投資家カードを1枚選んで資金を調達し、見せ掛け会社のタイルを購入する。見せ掛け会社の売買は財布にこっそり紙幣を入れて渡し、相手が受け取ったらタイルをもらい、同額を返されたらタイルを渡すという秘密方式。お互いの懐具合を探りつつ、ライバルが破産するよう仕向ける。
投資家カードには配当の支払期限があり、誰かが支払えずに破産したときに、それ以外の人で見せ掛け会社の規模と資金を清算し、もっとも評価得点が多い人が勝つ。
膨れ上がっていく支払いと資金調達のスリルと、資金運営ギリギリの線でのシビアな秘密売買が熱い、独特なタイプの経済ゲームだ。
内容物:マーケット資金ボード 1枚、資金カード 72枚、産業タイル 48枚、贅沢品 4枚、ついたて 5枚、スタートマーカー 1個、配当周期ディスク 5枚、周期起点カード 5枚、紙幣 84枚、紙幣スタンド 1個、財布 1個、日本語説明書 1冊
ルールをわかりやすく伝える
(月報司法書士12月号掲載)
年々増える新作ボードゲーム
本年10月6日から4日間、ドイツ北部の中都市エッセンにて、世界最大のボードゲームイベント「シュピール」が開催された。東京ドーム2個分の広さのメッセホールに、日本を含む56カ国から980団体が出展し、延べ147000人が訪れた。ボードゲームを自由に遊び、気に入ったら購入することもできる夢のようなイベントだ。
参加者数はコロナ前に及ばないが、今回発表された新作ボードゲームは約1800タイトルと過去最高を更新。到底4日間で遊びきれる数ではないが、来場者アンケートなどで人気が高かった作品はやがて日本に輸入され、数ヶ月のうちに遊べるようになる。
これだけ多くの新作が毎年発表されていると、過去作との差別化をはかるため、ルールにひねりが加えられ、複雑化していく。今どきサイコロを振ってコマを進め、止まったマスの指示に従うというようなものはほとんどない。
エッセン・シュピールで新作のルール説明を聞く来場者
正確にルールを理解する難しさ
『人生ゲーム』や『UNO』ぐらいならば誰でも説明書を読まずに遊んでいるだろうが、ルールが複雑になってくると、もう用具を並べるところから説明書と首っ引きになる。簡単なものならば数十秒でルールを説明できるが、中にはルール説明だけで1時間かかることも珍しくない。
ゲームの準備の仕方、自分の番にできること、いつゲームが終わって、どうやったら勝てるのか。自分の番にできることはいくつも選択肢があり、それぞれの選択肢の中にまたいくつかの選択肢がある。戦略を立て、どれが一番得なのかを考えて選んでいくのが今のボードゲームの楽しさなのだが、普段遊ばない人にとってハードルは高い。
説明に1時間もかかるようなボードゲームは、説明書も数十ページに及ぶ。ルールはまるで法律のようであり、正確さを期した書法が初心者には非常に理解しづらく、経験が必要となる。筆者も、昔は比較的簡単なカードゲームでさえところどころ間違って遊んでおり、ましてやルール量の多いボードゲームに至っては勘違いが多くて楽しめるところまでいかないことも度々あった。現在はインターネットで確認はできるが、検証する機会がないものだから、ルールを間違ったまま遊んでいる人は初心者から愛好者までかなり多いのではないかと思う。
ボードゲームカフェで教わる
ルールの正確な理解に重要な役割を果たしているのが、全国に約250店舗あるボードゲームカフェである。その半数は東京・愛知・大阪に集中しているが、各道府県に1~2軒ぐらいずつはある(気になったら都道府県名と「ボードゲームカフェ」で検索してみてほしい)。そこにいけば、遊んだことのないボードゲームを紹介してもらえるだけでなく、店員さんが正確にルールを説明してくれるので安心して楽しめる。あるボードゲームカフェでは、お客さんのほとんどが自分では説明書を読めないという。法律の文面が読めなくても、司法書士にお願いすれば法的に手続きできるようなものだ。
ボードゲームカフェの手慣れた店員さんは、もちろん説明書を音読したりはしない。要点を絞って手早く説明し、相手に合わせて専門用語を噛み砕き、時には実演して見せる。ゲームが始まってもしばらく見ていて、わからないことが出てきたらその都度補ってくれる。風営法の「接待」にならないよう、お客さんと一緒に遊ぶことは控えるが、時間料金に見合うだけ楽しんでもらえるよう努力を怠らない。ボードゲームカフェには、遊ぶ仲間を見つけ、遊んだことのないボードゲームを遊べるというほかに、正確にルールを理解できるという利点もある。
説明書をわかりやすくする工夫
ボードゲーム出版社のほうでも、説明書に図解を多く入れたり、FAQをつけたりするなど、ルールをわかりやすくする工夫が行われているが、かえってページ数が増えれば、経験の浅い人を遠ざけてしまいかねない。
筆者は説明書の翻訳に携わっているが、直訳調ではなく、読みやすい翻訳を目指している。正確さには注意を払いつつ、1文を2文に分けたり、受動態を能動態に変えたり、主語や代名詞を省いたりする。それでも、長年続けているうちに自分の中では自明になっていることが、初めての人には理解してもらえない可能性がつきまとう。
結局、人の理解力に大きな差がある以上、説明書をわかりやすくするには限界がある。愛好者やボードゲームカフェの店員のように、説明書を読んでルールを理解し、口頭でわかりやすく説明し、ゲームを盛り上げてさえくれる「解釈者」が不可欠なのだ。
解釈者を増やす
「解釈者」は別にベテランやプロでなくてもよい。家族や友達グループの中の誰かが、事前に(ここが重要)説明書やYoutube動画でルールを把握しておいて、皆に教えてあげればよいだけの話である。わからないところがあれば、インターネットで問い合わせれば誰かが答えてくれるだろう。
コロナ禍におけるボードゲームブームは、このような解釈者に支えられている。夜寝る前などに説明書を読んで、実際遊んだらどうなるんだろうと心を躍らせる楽しみ。法律を正しく解釈して手続きするという司法書士の業務と重なるところも多いと思うが、いかがだろうか。