ハンブルクの倉庫街(Speicherstadt Hamburg)
貢ぎすぎて金がなくなる
ゲームマーケットで発表される国産新作は、近年コンポーネントの質の向上が著しい。切り取り式の名刺カードに家庭用プリンタで印刷して、チャック付き小袋に入れたものなどはあまり見かけなくなり、萬印堂仕様がスタンダードになってきた。
そのような中で、ミシン目の切り取り式でぺらぺらのカードで構成されたこの作品が、ドイツで販売されていると聞いて感慨深いものがあった。コンポーネントの質によって、コンポーネントのみの5ユーロ版、箱入りの7.50ユーロ版、チップとコマが豪華になった9.90ユーロ版の3種類がある。カードはいずれもミシン目の切り取り式だ。
作者は『モニュメント』『盲目のニワトリ』のS.リストハウス。ハンブルクの倉庫街を舞台に、商品を仕入れ、議員に贈り物をして勝利点を稼いだり、高く売って次の商品を仕入れる元手にしたりする。手持ちの商品をどこまで贈り物にし、どこまで売るかという分配が悩ましく、タイトルにもなっている倉庫を使って次のラウンドに持ち越すところがカギとなっている。
毎ラウンドテーブルに並ぶ商品を、手番順に仕入れる。商品は2枚組になっており、裏になっている商品がついているものと、倉庫がついているものがある。裏になっている商品は、定価より安く買える可能性があってお楽しみ。倉庫は、次のラウンドに持ち越せる商品を増やす。商品を買い過ぎて倉庫がないと腐ってしまうし、倉庫があっても商品がなければ無用の長物である。悩ましい選択だ。
仕入れが終わったら、手札を裏にして、議員にプレゼントするもの、市場に売りに出すもの、倉庫に入れるものにシークレットに分配する。そして議員へのプレゼントからオープン。
議員のプレゼントは、商品によって価値が毎ラウンド変わり、価値の合計が多い人から順に勝利点を得る。ここに出し惜しみしては決して勝つことができないが、かといって全力投球していると資金がなくなる。理想は他の人を少しだけ上回って1位を取るくらい。でもそれができれば苦労はしない。次のラウンドの価値も見えているので、勝てそうになければ倉庫に保管して次のラウンドに備えてもいい。
次に市場に売りに出した商品をオープン。商品ごとに全体で何枚出ているかを調べ、少なければ少ないほど高く売れる。ほかの人が議員へのプレゼントに力を入れているときに、市場にたくさん出せば大儲けできるだろう。でもそう思っている人が何人もいて、おまけに商品までかぶってしまい残念な結果になることも。
議員と市場に出せる商品は、1ラウンドにつき合計3種類までというキツイ縛りがある。倉庫には1つにつき1枚しか商品を入れられない。倉庫がないのに、いろいろな商品をもっていると泣く泣く捨てる羽目になるだろう。そう思って倉庫をたくさん買ったら、仕入れの商品が同じ種類になって倉庫の出番がないのも悲しい。
ゲームは5ラウンド。最後に倉庫に残した商品と、所持金に勝利点が与えられ、合計点で勝敗を決める。
議員へのプレゼントをけちって貯金に励んだが、後半になっても勝利点が伸びず最下位。順調だったkarokuさんが1度、商品を出し間違えるという大失敗を犯し、僅差でふうかさんが1位。最初はカードが切りにくいとか言っていたのに、お買い物の楽しさ、分配の駆け引きにすっかり魅せられてみんなハマってしまった。
きっとデザイナーがどこかの出版社に売り込んで、採用されなかったから自費出版したものと思われるが、それがこの水準ということに、ドイツゲームの底力を見た思いがする。
Speicherstadt Hamburg
S.リストハウス/オスティアシュピーレ(2012年)
2〜5人用/10歳以上/45分
国内未発売(Spielmaterialで販売)
ひいて・よって・見っけ!(Kuck Ruck Zuck!)
その写真を撮ったのは?
今年のドイツ年間キッズゲーム大賞には、ノミネート3タイトルと推薦リスト9タイトルのうち、メーカー別に見ると複数入選したのはコスモス社とドライマギア社だけだった。セレクタ社がエントリーしなくなった今、キッズゲーム一筋を貫いてきたハバ社から『キャプテンリノ』しか入らなかったのは寂しい。
その一方で、ふうかさんがハバ社の新作に注目しているという。デザイン的には子供向けだが、内容は大人「も」楽しめるどころか、大人のほうがもっと楽しめるものが多いのだという。すごろくやさんが、ハバ社の作品を積極的に紹介しているのも、内容の充実ぶりに目をつけてのことであろう。
『ひいて・よって・見っけ!』はフランスの奇才R.フラガによるもので、フラガが得意とする同時プレイのパターン認識ゲームである。めくったカードに載っている写真の遠近から、どの動物が撮影したものかを探す。
カードには2つの動物が大・小で描かれている。遠近法で、大の動物が手前、小の動物が奥ということを表している。山札からカードをめくったら全員同時スタート。ボードに並んだ動物のポジションから、この2匹の動物の手前にいる動物をいち早く探し、その動物名を言う。当たったら自分の山札を1枚減らすことができ、早くなくしたら勝ち。
ときおり、2つの動物の手前が盤外になることがある。そういう写真は飼育員が撮ったということ。その場合は、対応する辺にいる飼育員コマをいち早くつかむ。取った人が自分の山札を減らせる。
上級ルールでは、斜めの並びが出てくる。混乱すること間違いなしで、より高い集中力が問われるだろう。もちろん、気後れしていては勝てない。
初級ルールから本気モードの大人4人。「ゾウ!」言うタイミングがほとんど一緒で誰が早かったか分からず、じゃんけんで決めたこともあった。飼育員コマを取るときは接触で爪が割れるほどのスピード。初級ルールは1位を取ったが集中力が続かず、上級ルールはふうかさんの勝利。
同時プレイのパターン認識ゲームは、アブストラクトゲームと同様、かつて私の苦手ジャンルだった。120%の処理能力が要求されると、脳みそがフリーズしてしまうのである。しかし数をこなすうちに、実は集中力のほうが大切だと気づくようになった。コツをつかむと、反射的に動けるようになるのが快感である。ゲーム愛好者には敬遠する方も多いようだが、チャレンジしてみてほしい。
Kuck Ruck Zuck!
R.フラガ/ハバ(2012年)
2〜6人用/6歳以上/10〜15分
・高円寺0分すごろくや:ひいて・よって・見っけ!